85 幕間
「ひぃ~怖い怖い。『地獄狼』連中はアタマ沸いてるからなぁ。ヘタに居合わせて殺されるのは勘弁だよ、ねぇ兄さん?」
「おまえがそう思うならそうなんだろうな、弟よ」
オーブライト領の郊外。そこには寂れた街を見眇める、異様な二人組がいた。
「あんな連中に目を付けられるなんて、レイテ・ハンガリアはバッドエンド確定だね」
一人は美しい少年であった。白絹の民族衣を纏った、妖精のような美少年だ。
「そうか。おまえがそう言うなら、そうなるんだろうな」
一人は麗しい青年であった。黒絹の民族衣を纏い、人形のような眼で少年を見ていた。
さながら眉目秀麗の兄弟といったところか。両者の顔から下を見ただけなら、誰もが二人を絶賛するだろうが――しかし。
「あ~あ。せっかくこの街を、魔物の苗床にしようと思ってたのに」
二人の頭部からは――それぞれ一本、側頭部に『魔物の角』が生えていた。
彼らの名はハクヨウとコクヨウ。
人の身にして人類ならざる存在であり、ハンガリア領とは――レイテ・ハンガリアは知らないが――因縁浅からぬ関係にある二人だった。
「ここの土はいい。領民は雑魚ばっかりだったからねぇ。スライムの栄養にして分裂させて、もう一度ハンガリア領を襲ってやろうと思ってたのにな~」
そう。先日起きた『魔獣大襲撃事件』。この大陸にはいないはずの暗黒破壊龍までもがハンガリア領を攻めた一件には、彼らこそが絡んでいたのだ。
「雑多な魔物でも、ボクらが少し感情を弄れば、殲滅兵器に成り果てる。ボクらにはその力がある」
「ああ。ハクヨウがそう言うなら、そうなのだろうな」
――そうして滅びてきた小国は数知れず。
このストレイン王国もまた、最大の要害であるハンガリア辺境領を始めとし、数日前に滅びる予定……だったのだが。
「……はぁ~。まさか、数千を超える魔物や竜種すらも、一切合切やっつけちゃうような王子様がいるなんてねぇ」
ガックリと肩を落とすハクヨウ。
二人の計画は、トンチキな王子により見事に打ち破られてしまった。
そして要害は王子だけではない。他にも一線級の異能力者が領地には集結しており、兵士もまた恐れることなく魔物の軍勢に立ち向かい、滅ぼしてしまったのだ。
恐ろしい。あの領地に集う戦士たちと――なによりもソレを集めた辺境の姫、レイテ・ハンガリアが恐ろしすぎる。
「そして……『地獄狼』の親分、ザクス・ロアもね。あの戦争狂いの獲物を取るのは、怖すぎる」
ゆえにハクヨウは撤退を判断した。
おそらく明日にも、この付近の土地はハンガリア領と傭兵結社の戦争で、滅茶苦茶になるだろう。
横やりを入れるのも手だが、下手をすれば間に挟まれて擦り潰されかねない。
「いこうか、コクヨウ兄さん。コンティニューもあえなく失敗。しばらく裏手に回るとしよう」
「そうか、おまえがそう言うのなら付いていこう」
街を去りゆく異人たち。
されど、諦めたわけではない。
「見ていろよ、レイテ・ハンガリア。いつかおまえを人間らしく泣かせてやるよ」
――魔少年は惨酷に笑う。
かの少女が死に、かの王子が死に、そして人々が一切合切死に絶える最悪の未来を夢想して、笑う。笑う。
なぜならそれこそ至上命題。
悪神――『闇の神アラム』の血を引く者たちの、使命であり本能であるのだから。
「けどレイテ、ボクらと遊ぶ前に」
最後にハクヨウは、呪いのように言い残す。
「ボクらの従弟に、殺されちゃうかもねぇ?」




