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「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーー……ッ!」
青い空の下、ヴァイスくんの慟哭が響く。
「俺は……ッ! 俺は不器用ゆえに剣術しかできずッ、それによって兵士らからは好かれたものの、弟にも大臣にも嫌われて革命を受けたヴァイス・ストレインだ! 馬が好くわけがなかったッッッ!」
「どうどう……」
馬に逃げられ無双したヴァイスくん。
今はメンタルブレイクして馬牧場前で突っ伏していた。虫とか付くからやめた方がいいと思う。
まぁ動物に嫌われるのってショックよね。
「ほら元気出してヴァイスくん。今回はご縁がなかったってことで……」
「うぅぅ」
「あ、頭にカタツムリのってる」
と、その時だった。
『ブルルルルッヒィッ……!』
唐突に響く重低な嘶き。
そちらを見れば――って何アイツ!? でっか!?
「な、なんか滅茶苦茶デカい黒馬が近づいてくるんですけど!?」
ああ。そういえば聞いたことがある。この馬牧場には、大型馬種同士が交雑して生まれた、とんでもないボス馬がいるって。
アレがそいつってこと?
「むむっ」
不意にわたしの目がムズムズした。
すると――馬の横にもステータスが現れる!
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・対象名:無名
・性質:混沌・悪
・出自:馬種・ペルシュトン(父)×馬種・ベルジャン(母)
・性能
『統率力:A』『戦闘力:A』『巧智力:A』『政治力:A』『成長力:C』
・特記才覚
『轟走』『噛み付き』『後ろ蹴り』
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「わわっ、人間以外も見れるのね。ってすごいスペックしてるしあの馬!」
まさに馬の王じゃない……!
でも性質が混沌・悪!? このへんの記述についてドクターと話したけど、要は〝社会のルールに従わず、なんでもやらかすヤツ〟ってことよね!?
『ブルッヒヒィッ……!』
うわぁ、めっちゃ悪そうな顔をしてるわ。
こっち近づいてくるけど、あれはヴァイスくんを乗せようって魂胆じゃない。
馬(手下)たちをビビらせた彼に対して〝なにワシのシマ荒らしとんじゃ殺すぞ……ッ!〟って感じね。
『ヒッヒィイイイイーーーーーンッッッ!』
「わぁっ、突撃してきた!」
ヴァイスくんに向かう黒馬!
通常の馬の三倍近い体躯があるため、すんごい迫力と地ならしの音を伴って接近してくるっ!
「ヴァイスくん!?」
そして――体重千キロもあろう馬は、ヴァイスくんへと激突して――、
「――おぉ、よしよしよし……! 俺の相棒になりたいのだな……ッ!」
『ヒヒィンッ!?』
……まったくヴァイスくんにダメージを与えられず、懐に頭を抱えられて撫でられるのでした。
『ブルゥッ!? ヒヒィッ!』
「ふふふっ、こらこら恥ずかしがるな」
嫌がる黒馬だけど、ヴァイスくんのバギバギ細マッチョ筋肉にガッッッチリホールドされて動けない。
王子様はよっぽど感動しているのか、それはもう絞め堕とす勢いで抱き込んでいる。
「イイ子だ。よし、おまえの名前は国王号としよう」
『ブルルヒィッ!?』
〝勝手に名付けるなよ!?〟と言っているのかしら。
「俺は革命により成り上がった現国王を殺し、玉座の継承権を奪い返す。その夢を込めた名だ。おまえに託す」
『ヒヒィンッッッ!?』
〝重すぎるユメ勝手に込めるな!〟と言ってそうね……。
『ヒィイイインッ! ヒヒィインッ!』
おお、本気の抵抗を始めたわ。
地を抉れるほど蹴り、ヴァイスくんをブッ飛ばそうとするッ――けど。
『ヒッ……ヒヒィン?』
「?」
やっぱり、ヴァイスくんはまっっったくその場から動かなかった。
抵抗してるわけじゃない。むしろ何もわかってない様子だ。
本当に澄んだ目で、小首をかしげて黒馬を見つめて……そして。
「今、何かしたか?」
『!?!?!?』
驚愕、そして恐怖と絶望に染まる黒馬の目。
『ヒ、ヒヒヒィイン……!』
「お~大人しくなったぞ。やっぱりイイ子なんだな~」
こうしてヴァイスくんは、馬牧場の王を、プライドバッキバキにしてペットにしたのでした。
むべなるかな……!
◆ ◇ ◆
そして。
「わぁ~~速いわねぇ国王号! それにとっても力強い走りっ」
「ああ、俺との絆の力だ!」
「数分前に出会ったばかりでしょアナタ……」
馬牧場にてボス馬・国王号、それと手綱と鞍を購入したわたしたちは、ハンガリア領の平原を駆けていた。
ちなみに国王号のお値段、めっちゃ安かったわ。
馬主さん曰く〝暴れん坊で他の馬を脅すし、大飯食らいだから困っていた〟とのこと。
恐怖政治が圧倒的な暴力により終焉したわけね……。う~ん諸行無常。
「うふふ、わたしも騎乗用の馬を購入しようかしら」
ウチの馬たちは馬車引きだけあっておっきいからねぇ。
わたしみたいなチビ――もとい小柄な女性でも乗り降りできるような、小さめの子がいいかも。
「そしたらヴァイスくんと並走しましょうよ。優雅な貴族らしい遊びでいいじゃないっ」
う~ふっふ。馬は高いから、庶民にはできない遊びよぉ!
ブルジョワ気分が味わえてなんだか極悪ぅ~!
……いやでも、よく考えたらわたしがめっちゃ給料上げてるからか、けっこう馬買ってるヤツ多いかも。うぅぐ。
「むむ、レイテ嬢と並走か。それは楽しそうだが……いや、駄目だ」
「ぬえっ!?」
なんでよっ!? 楽しそうならいいじゃないの!
「その、アレだ。もしも馬が暴れたりしたら、危ないからな。キミもその……極悪領主として、〝馬に振り落とされた〟という恥ずかしい噂を、領民に流したくはないだろう。ならば危ないことはするべきじゃない」
「むむっ、それは確かに」
珍しく饒舌に語るヴァイスくん。うんうん、一理あるわね。
領民たちはわたしのことが嫌いでしょうから、わたしがヘマこいたら一斉に笑ってくるでしょうし。
それなら不用意な真似は最初からすべきじゃないかもね。
せめて身長が伸びて、身体ができ上がるまでは一人乗馬はやめておきましょう。
「わかったわよ。じゃ、しばらくはヴァイスくんと一緒に乗せてもらうわ」
「! ああっ、任せてくれ!」
あら嬉しそう。わたしに使われて喜ぶとか、重臣の自覚ができてるじゃないの。
――こうしてわたしは彼の背中にしがみつき、領内の農村に向かっていった。
・ここまでありがとうございました!
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