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「ヴァイスくんヴァイスくん!」
「ヴァイスくんヴァイスくんだ」
「ちょっと遠出するわよ!」
「むむん?」
体調不良より目覚めてから一日。
わたしに媚びてか『レイテ様ハイパー復活祭』とかいうふざけたイベントやってる領民を尻目に、王子様系ボディガードなヴァイスくんに声を掛けた。
「ヴァイスくんは知ってるわよね。進化したわたしの『女王の鏡眼』の能力を」
「ああ。なんだか色々見えるんだったな。幽霊とか」
「幽霊は見えないわよっ」
彼には能力を伝えている。
一番身近な護衛だからね。それにヴァイスくんは基本寡黙なコミュ障くんだから、人にバラす心配も薄いし。
あとは執事のアシュレイとかにもね。あいつは変態だから何言っても信用されないだろうし。
完璧な防諜対策ね。部下たちの将来が心配だわ。
「あ、『女王の鏡眼』から異能名変えたほうがいいかしら。ヴァイスくん考えてちょうだいよ」
「うむ。じゃあ『女王の鏡眼WTマークIIセカンド』と呼ぼうか」
「2がいっぱいッ!?」
却下よ却下!
あーまったく、戦闘力はすごいのにセンスは絶望的なヴァイスくんねぇ。
……エロセンス以外はー。
「ったく。ともかくその能力を利用して、有用な人材に最適なポジションを与えて行こうってワケ。――こいつらみたいにね」
レイテさま屋敷の中、ある部屋の戸を開ける。
先日まで空室だった場所。そこには今や机が並び、幾人かのメイドたちがペンを走らせていた。
「アンタたち、ちゃんと働いてるぅ~~?」
『励んでおりますレイテさまああああああああああああッッッ!』
「うるさいわっ!」
彼女たちはウチの未亡人メイドら。
その中でも『演算』や『資料作成』系統のスキルを持ってたり、隠し秘めたりしてた連中を集めてみたわ。
「使ってくださり、ありがとうございますレイテ様! 計算って集中できてすごく好きなんですっ。……前の領地では〝女が金勘定に絡むな〟と言われていたのに……!」
「なんだか文字がスラスラ書けますッ! 手紙とかで〝文面が硬い〟と言われてきましたが、真面目な書類を作るにはピッタリだったんですねぇ……!」
バチバチバチバチィッとそろばん弾きまくったり、スラスラスラスラァッと書類を書きまくるメイドたち。
活き活きとしてるわねぇ。飛び方を覚えた鳥みたい。
ま、アンタたちの元気さなんてどーでもいいけど、モチベーションに溢れてるならそれに越したことはないわ。
「アンタたち。統治関連の資料いじらせてんだから、ミスするんじゃないわよ? 絶対よ!」
『はいッッッ! レイテ様はとても領民思いですねッッッ!』
「って誰が領民思いかぁッ!」
計算ミスとかで食料や税収ロス起きたら堪らないからだっつの!
アンタたち領民なんざなんでもいいわよ。しいて言うなら、パーフェクト美少女レイテ様が統治ミスしたらアンタたち笑ってきそうだから気合入れてるだけ!
「ふん。重要な仕事のぶんお金あげるから、犬のようにヘコヘコ働くことねっ」
領主の扱う資料は膨大よ。
①土地台帳――領地内の土地所有者を記録した一番の重要書類ね。
役所から届く土地名義変更届・または死亡届に合わせて正確にいじらないと、最悪『誰が所有しているかわからない土地』や『名義者は誰もいないのに、私有地として扱われている空地』が生まれたりしちゃう。
立派な商品ロスよ。地主からは年一で土地税取れるんだから、ホント気を付けなさいよ。
②人口台帳――領民の数、名前、住所、家族構成を記録する台帳ね。税管理に使うわ。
これも筆記漏れしたりすると、生きてるけど台帳にない『オバケ住民』が生まれて、税取り損ねるから要注意ね。
③収支記録簿――領地の収入(税金、貢納品)と支出(軍備、祭事、公共事業費)の詳細を記載したものよ。
庶民で言うなら『家計簿』ね。こういうのキッチリしておかないと、〝金庫パンパンにしてると思ったら、いざ有事の際にスカンピンでした~〟なんてアホなことになりかねないわ。
地震によるインフラ崩壊、寒波や蝗害による食糧難の時、がばがば管理が祟って領地復興不可とかになったら、貴族として笑い者よ。
あとは資源管理帳に徴税命令書に防衛計画書に嘆願書に裁判記録の確認とかもあるけど――これらは流石に、領民共には触らせれないわね。
「とにかくっ。役所から届いた各種届け出を下に、簿記の追記修正と税計算を行いまくりなさい」
今、ハンガリア領は超好景気にある。
おかげで流民や移住者がズンドコ入ってくるものだから、届け出も膨大なものになってるわ。
……わたしが倒れちゃった原因ね。
「終わったら室長のアシュレイにチェックを。――アシュレイ、こいつらちゃんと働けてる?」
「はい、レイテお嬢様」
空室改め『重要書類作成室』の最奥。
そこには書類の山を片していく男、眼鏡執事のアシュレイがいた。
「流石はお嬢様の見込んだ方々。少し仕事を教えたら、あっという間にノウハウを掴みまして。このアシュレイ、お嬢様の采配に平伏の思いです」
「そう」
「平伏からのお嬢様の足ペロペロな思いです」
「暗黒コンボやめろ!」
あいっかわらず変態なんだから。
さすが、わたしみたいな人格的魅力ゼロの極悪令嬢にガチ発情してくるだけあるわね。きもちわるい。
けどそんなアシュレイだからこそ、わたしの仕事のやり方を学び、娼館周りの陳情対応・書類管理なんかは未成年のわたしに代わってやってくれていた。
いわばピンク街プチ領主だったわけ。だからメイドたちに教えることもできるってわけね。実際、
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・対象名:アシュレイ・レイテスキー
・性質:秩序・悪
・出自:ストレイン王国・キルヒアイス子爵家・婚外子
・性能
『統率力:B』『戦闘力:S』『巧智力:B』『政治力:C』『成長力:B』
・特記才覚
『自己流徒手空拳』『礼儀作法』『物品管理』『掃除』『手芸』『指導教育』『金銭管理』『書類作成』
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などと、お世話系スキルのほか、特記才覚に記されるような管理能力も持っている。
『指導教育』なんてスキルもあるんだから助かるわね。
そういえばアシュレイ、貧民街時代は子供たちを率いてたんだっけ。それで変態ヒス眼鏡のくせに教育上手になったのかしら。
……ちなみに〝レイテスキー〟とかいうふざけた名字は、こいつスラム生まれで住民登録してなかったから、ウチで登録させた際に自分で決めたものだったりする。末代までの恥ね。
「はぅっ、お嬢様が私めを見つめているッ! ついに両想いに……!?」
「なるかばーか!」
相変わらずキモい執事でした。
男として色々終わってるから、未亡人メイドたちを率いても恋愛トラブルとかないのよね。
逆に良かったわ、終わってて。
「ふん。アシュレイ、書類について口を酸っぱく言っておくわ」
「お嬢様の口は甘そうですが」
ツッコまないわよ!?
「書類。最終的にはわたしが確認する三重チェック体制だけど、できればアンタの段階で、つまらない書き損じや計算ミスは弾いておくことね」
「は。……しかし、フフッ」
「? なによ」
小さく笑うクソ眼鏡。ツラがいいだけにちょっとムカつく。
「いえ。まさかあのレイテお嬢様が、これだけ多くの仕事を他者に任せる日が来るとは、と」
むむむっ。
「もしや、デレ期ですか!? 私めにもワンチャンあります!?」
「誰がデレるか馬鹿ッ! ワンチャンもないっての!」
ムカついたので、レイテ様シューズ(お気に入り)を顔面にシュートしてやった!
べしんっと食らい、「ありがとうございまぶッ!」と喚きながら倒れるアシュレイ。ふっ、変態執事をやっつけてやったわ。
「我、アシュレイ。もはやこの世に悔いはなし。この靴と共に死す……!」
「って靴返せーっ!」
人の靴抱えたまま昇天するなっ。
「ちっ。別に領民を信頼したわけじゃないわ。むしろ逆よ。……無理こいてまたブッ倒れたら、今度こそ領民どもが反乱起こすかもだからね」
あと――保護中の異国王子・シャキールくんに言われたわ。『少しは人に任せてみよ』と。だからそれを試しにしてみただけ。
あの無駄に偉そうな王子、政務に関わる者としては一応先輩だものね。
一度ブッ倒れるミスこいちゃった手前、不承不承ながらアドバイスを聞いてあげるレイテ様よ。ふんふんだっ。
「というわけでメイドたちっ! 信じてはないけど、このレイテ様が用いてあげてるんだから、死ぬ気で頑張りなさいよね~!」
『はぁいッ! ミスしたら死にます!!!』
「死ななくてもいいわよ!?」




