67:焼け堕ちる白
めちゃ誤字報告くださる桔梗様めちゃありがとうございます・・・! 犬夜叉になりそう・・・!
みなさまもぜひぜひ誤字報告&感想、よろしくおねがいしますぅ~・・・!
顕現するは、天を衝くような紅蓮の円柱。地上の太陽。この日、『ストレイン王国』が王城は灰と為った。
「……あーあ。やりすぎちまったなァ……」
飛散する灼熱。肌を焼く熱光。それらが城下の一部すら侵し、王都に悲鳴が谺する中、平然と立つ男がいた。
「火力ミスったわ。これじゃ国王も生きてねェな」
傭兵結社『地獄狼』が総帥、ザクス・ロア。
この惨劇の創造主たる彼は、地面すら溶けた地獄にて、バツの悪そうに周囲を見渡していた。
「あの爺さんは死んだとして……こりゃ城に詰めてた部下もパーだな。ま、元々あの爺さんにだいぶ斬られていたがよ」
どちらにせよ喪失は多大である。
部下はまた集めればいい。所詮は獣欲に満ちた暴漢共だ、そんな連中は此の世にごまんといる。
「最悪、死姦野郎に奥の手を使わせればいい。それで軍勢は形成できる。……が」
しかし。国王シュバールを殺してしまったのは致命傷だ。「久々にやらかした」と、ザクスは燃える天を仰いだ。
「あーあ。アイツがいれば、『世界大戦』ってヤツが見られたのになァ……」
大幹部にして副総帥――『虚無なるファビオライト』は彼に言った。〝青年王が真に壊れた時、空前絶後の戦争が起きるだろう〟と。
かの配下が持つ『歴史の脆弱点を見抜く力』には、全幅の信頼を置いている。きっとその予言も正しかったのだろう。それゆえに、惜しい。
「見たかったなぁ。そんで交ざりたかったなぁ、大戦争」
と、ザクスが最悪の理由でしょげていた時だ。灼熱地獄の中、「ならば気を付けろ」と咎める者がいた。そして闇の華が咲く。
「――はぁ。気分屋な社長を持つと疲れるぞ」
燃えた地面より湧き出す『黒』。灼熱を掻き消す概念的闇。そこから滲み溢れてきたのは、仮面の青年・ファビオライトだった。
「助けておいたぞ。気を付けろ」
彼の肩には、ぐったりと気絶するシュバールが。それを見たザクスが破顔する。
「うぉおおぉっ、ファビ! オメェやってくれたなこの野郎っ! 給料アップを経理に申請してやるぜ!」
「経理は俺だ」
ファビオライトは溜息を吐いた。
「お前のほうは、やらかしてくれたな」
「うっせうっせ。割と危ないところだったんだよ。おかげで火力ミスっちまった」
頭を掻くザクス。そんな彼に、仮面の男は「それだけじゃなかろう」と告げる。
「……何?」
「貴様の異能『緋葬無慚焱、波旬ノ劫』。その正確な能力は、〝焼き尽くす対象の『尊さ』に応じた火力の発露〟だ」
つまり。
「それほど羨ましく思えたか? 弟子のためなら、命を懸けてくれる師匠が」
「言うんじゃねーよ」
ザクスは苦笑を浮かべた。ファビオライトに近寄り、その肩を小突く。
「照れるじゃねえかよ。まるで俺様が、欲しがりさんみたいじゃねえか」
「実際そうだろう。あと、若作りなだけで三十路過ぎの男のテレはきもいだけだ」
「言いすぎだろ」
「ごめんね」
地獄の中心で会話する二人。炎が消えたのは闇満ちたこの一角のみで、周辺区域からは悲鳴と絶叫が響くものの、彼らは一切気にしない。二人にとっては生活音に過ぎないのだから。
「難儀なものだろぉ? 麗しい、愛らしい、眩しいと思ったモノほど、どうも俺は焼き尽くすのが得意らしい。まるで悲劇のヒロインだ」
「ヒロインかどうかは肯定しかねるが……それで、悲しいと思っているのか?」
「いいや」
ザクスは裂けるような笑みを浮かべた。牙を剥いた、餓狼の笑みだ。
「綺麗なモノなものほど、壊れる姿も美しいもんだ」
焼けた白亜の王城を見渡し、ザクスは続ける。
「俺たちが住んでたような貧民街なんざ、いくら荒れようが何とも思わねえだろ?」
「肥溜めが汚れたところで、な」
「だが! 閑静で静かで穏やかな村が……ある日突然戦火に包まれ、悲鳴溢れる様は、あァ、堪んねぇよなァ!」
そこに住まう人々の日常。幸せな家族。絆の男女。少年少女の瑞々しい青春。
――それらが殺戮に壊れる光景たるやと、災厄の戦争狂は舌を濡らした。
「老騎士ベルグシュライン。結局あの爺さんは何も出来なかった」
ザクスはつい先ほどまで老騎士がいた場所を見る。そこにはもう、灰すら残っていない。
「命を懸けた特攻も、補充が効くような部下共を殲滅するのが関の山……。悲しくて、愛らしくなるだろう?」
「さて、な。俺に感情の機微は分からん。これから仕事が増えそうで面倒なだけだ。……資金集めに人材募集にな……」
「あー、城と部下焼いたのはマジで悪かったよ。なんとかしてくれや、傭兵結社『地獄狼』の経理担当兼宣伝担当兼副総帥兼予言者兼主戦力幹部衆『五大狼』のファビオライトくんよぉ」
「辞めていいかこの仕事……?」
改めて職務任されすぎなことに嫌気が差すファビオライトと、その様を笑うザクス・ロア。
「さて、シュバールが起きた時の言い訳はどうしようかねェ。俺様もこれから大変だ」
と、もはや彼が先ほどの戦いを忘れ、後始末を考えんとした――その時。
「……貴様に、これからなど、ない……」
「ッッッ!?」
正真正銘の驚愕が、ザクスを襲った。
「て、おいおいおいおい、嘘だろ……!?」
黒煙の向こうより、ざり、と響き、近づく足音。徐々に輝きを示す『白光』。
「流石にこれは驚きだぜ……!」
紫苑の瞳を見開き、ザクスはその名を叫ぶ。
「元気すぎるお爺ちゃんだぜッ、ベルグシュライン――!」
そして黒煙切り拓き、老騎士は再び姿を現した。
その様たるや惨憺たるモノだ。装備は焼け焦げ、覗く表皮のほとんどは黒く炭化し、左目は溶けて眼窩が剥き出しとなり、騎士団長の証たる白きマントは燃え果てて――それでも。
「仕留めそこなったな、ザクス・ロア……!」
護国の騎士は、生きていた。燻んだ隻眼で戦争狂を睨む。
「ポッケの飴が溶けてしまったわ。まぁ、貴様らにはやらんがな」
「いらねーよ」
適当に答えながら、ザクスは数瞬思考を廻し、老人が生き延びた理由に結論付ける。
「なるほど。異能力者の上級戦闘技法『神威解放・殉光ノ型』か」
ギフトの動力源そのものを操り、急激に噴射する荒業である。
「爆炎を放つ瞬間、アレで咄嗟に退避したか。さらに放射光自体も熱への緩衝材となるからな」
やられたやられた。見事に必殺を躱されたと、ザクス・ロアは素直に老騎士を褒め称える。流石は歴戦の古強者だと。
だが、
「かはッ……!」
「ご老体に、あの技はキツかろう」
赤黒い血を吐くベルグシュライン。そうなるのも当然だ。異能エネルギーたる『アリスフィア放射光』を大量に放つには、莫大な体力を浪費する。
いわば命の前借りである。ザクス自身も修行の果てに修得したが、そうそう使うつもりはなかった。
「で、どーすんだよ爺さん。アンタ、もう心臓止まってるだろ」
「ほぉ……身体を見ただけで、わかるのか……」
「当たり前だ。俺がどれだけ快楽殺人してきたと思ってやがる。つーわけで、ほれ」
脳に酸素がある内に、好きなだけ恨み言を吐いて死ね。大人しく聞いてやるから――と、ザクスは静かに言い捨てた。
死体蹴りのようにトドメを刺す気はない。死に体とはいえ、己が異能の全力発動より予想外の生還を果たした偉業に、ザクスは敬意を持っていた。
が、しかし。
「……ふはッ、馬鹿を抜かせ……!」
「なに?」
ザクスの温情じみた言動を――少なくともファビオライトからすれば初めて見た気遣いを、老騎士ベルグシュラインは撥ね退けた。
そして、焼けて罅割れた長剣を構える。
「抜け、自称弟子よ。勝負はまだまだ、これからだろう?」
「っ!?」
朽ちた身でなお、戦わんとする姿勢。最期まで崩れぬ騎士の尊厳。その様にザクスは一瞬固まり、
「……へッ、最高だぜお師匠サマよぉッ!」
油断なく大剣を構え、ベルグシュラインに対峙した。
「待てザクス、相手は放置すれば死ぬ。余計なリスクを取る必要は……」
「それ以上言うと殺すぞファビ」
「……わかっている。一応、忠告しただけだ」
こうなってはもう止まらない。我儘な上司に溜息を吐くファビオライトをよそに、向かい合う二人は闘気を高め、全身より放射光を溢れさせた。
吹雪く白と灼熱の赤が、焼けた王城を美しく彩る。かくして、
「参るぞッ、若造!」
「行くぜッ、ジジイ!」
まったく同時に駆け出す二人。その速度は共に超高速。極限の身体強化と極限の灼熱噴射を出力に、決闘者たちは一瞬で交差の時を果たす。
凝縮された刹那の中、剣を握る二人の腕は、鏡合わせのように同じ動きを取り、そして。
「〝ストレイン流異能剣術〟奥義――『抜刀・斬煌一閃』!」
「〝偽法・ストレイン流異能剣術〟奥義――『曝爪・斬魔轟』ッ!」
斉しくぶつかる、異能奥義。爆光放つ刃と刃。
「「オォォォォォォォォオオオオオーーーーーーーーーーーーッッッッ!」」
此処に迎えた最期の時、激突した鋼同士は凄まじい衝撃波を撒き散らし……、
「――いい勝負、だったのぉ――」
焼けた長剣が、粉々に砕け散ったのだった。
・ここまでありがとうございました
【ページのTwitterマークを押し、「極悪令嬢」読んだ報告してくださると嬉しいです】




