47:新技術到来!
「石油の新たな使い方、ですって?」
「うむ」
シャキールくんは偉そうに頷いて続けた。
「ラグタイム公国は砂漠の国だ。よって薪など集まらぬゆえ、長年石油に頼って生活してきた」
――国内にも油源はあるが、いずれ枯渇してしまうことを危惧し、輸入にも頼っている現状だと補足した。
「資源の限られた大変な土地ねぇ」
「うむ。ゆえにこそ、今ある限られた資源で、公国にしか出来ぬ加工開発を行い、他国に売りさばくことで資金源とすることを目論んでいたのだ。その一環として石油の新たな加工品を試作していた。ソレをそなたに教えよう」
「えっ!?」
なにそれいいの、と言いかけたところで「お待ちくださいッ!」と叫びが上がった。アクナディンだ。
「アクガキ」
「その呼び方はやめろちんちくりんっ! ……ではなくシャキール様、そのような新技術があったのですか?」
「ああ。我主導の下、極秘開発中であった」
「であればっ!」
アクガキは縋るような眼で叫んだ。
「こんな女になぜ渡すというのですかっ!? このレイテ・ハンガリアは、憎むべき王国の人間ですよ。なのに、ラグタイムの新技術を渡してしまうなど……!」
「――ラグタイムはもう亡い」
「っ!?」
静かに、シャキールくんは事実は告げた。そして続ける。
「そして我らには資材も設備もない。今は亡き学者たちが遺してくれた技術も、このままでは脳内で朽ちるだけだ。それだけは避けねばならない」
「しかし……」
「ならばどうするか。それは、このレイテという信頼と信愛を向けられる為政者に、全てを投資することだ。それが出来ねば、我らはただの荷物で終わってしまうぞ?」
「うぅうぅっ」
って、いやいやいやいや!? わたしみたいな悪女に信頼と信愛を向けるとかおかしいでしょー!?
「彼女ならば、いずれストレイン王国を正常化させるための大きな一手を打ってくれるだろう」
打たないわよ!?
「いずれ襲い来る『地獄狼』を撃滅するため、我らも出来ることをしよう。そして、その暁にこそ新生ラグタイム公国を打ち立てるのだ。……アクナディン、そなたの父が守ってくれた、我が身命の全てを賭してな」
「シャキール様っ……!」
ってうぉおーーーいっ! なんか盛り上がってるとこ悪いけど、わたしは出来れば穏便に辺境生活楽しみたいと思ってる平和主義者だからね!?
政権から離れたところで民衆イビってりゃ幸せ感じられる、平和的悪役だからね~!?
「というわけでレイテよ。そなたに石油を用いた新工業品『ゴム』と『プラスチック』の製法を伝えよう。どこか設備のある場所に案内せよ」
「わ、わかったわよ」
色々言いたいことはあるけど、まぁ新技術で領地が豊かになるんなら万々歳だわ。
「設備のある場所と言えば、あそこね」
じゃあついてきなさい。
案内してあげるわ、変態おっさんの住処にね。
◆ ◇ ◆
「イィーーーーーーッヒッヒィ~~~~~! レイテくん、まァた地雷となる王子様を買っちゃったんだってェ!? キミ、安物買いで大儲けできる才能があるヨ!」
「うるさいわよバカ! 脛キックッ! ――ぎゃあああああ硬い痛いぃいいーーっ!?」
「ぶははははははッッッ!」
……はい、というわけでクソムカつく目隠れ白衣ロン毛おっさんこと、ドクター・ラインハートの研究基地にやってきたわ。
まさか想像もしてなかったわよ。浮浪者のおっさん拾ったらなんか頭パーすぎて王都から追放されたスゴイ学者らしくて、色々作ってくれるようになったなんてね。
「あァ、『魔晶石式自動洗濯機』の量産目途が立ったヨ。この調子で他の試作品もどんどんロットアウトさせていくヨォ~」
「あらあら、ドクターってば本当に最近はやる気がすごいわね。なんかあった? 大切な人でもできた?」
「うんレイテくんだヨ」
「きっしょ」
「……冗談半分だヨ。いやなに、愛する弟の頑張りに報いたくてね。彼、いよいよ命懸けの大仕事を為したようだし。これは歴史が変わるよ」
ちらりと、ドクターは前髪から無駄に綺麗な瞳を覗かせ、なぜかシャキール王子のほうを見た。
そして褐色王子のほうも「そなた、もしや奴隷商の……つまり彼は金儲け目的でなく……!」と何やらハッとした顔した。
えっ、どゆことどゆこと? レイテ様わけわかんないんだけど!?
「うぅむ。我が親友ヴァイスといい、レイテの周囲には素晴らしい人物が集まるものだな」
「……そうわよ」
何もわかってないことがわかると舐められそうなので、とりあえず頷いておきました。
「流石だ」
だから何がよーーー!!!!!
「さァてレイテくん。亡国の王子サマなんて連れて研究所を訪れたということは、なにか重要な用があるのだろう?」
「まーね。実は――」
わたしは、シャキールくんが石油に関する新技術を提供してくれるという話をした。
そのためにここの設備なんかを貸してほしいと。
「――ナルホドッ! 新技術のご提供とはワクワクするネぇ~~~~! オッケーオッケー、私もいっちょ噛みさせてくれたまえ~!」
「うわぁっ、ドクターがすごく嬉しそうに笑いながらだぶついた白衣の袖を振り始めた! 幼児性感じられてきもいっ!」
「うるさいヨ!」
ともかくドクターも興味津々みたいでよかったわ。
「やったわねシャキールくん」
「うむ。『学術界の怪物』、ドクター・ラインハートの御高名は我が国も届いているほどだ。まぁ、ちと想像よりも奇抜そうな御仁ではあるが、その有能さは信頼できる」
うんうん、ここまででドクターは発明品とかいっぱい紹介したもんね。まだ安全実験中の試作段階のモノも多いけど、いずれ市場に卸していくわ。領地発展間違いなしね!
「ふふん、これからも悪女の女王に仕える邪悪な学者として頑張りなさい」
「キミに仕えてたら正義の学者になってしまうヨ」
「なんでよォーっ!?」
むむむむ! 腕はいいけど人格がひん曲がってるんだから勘弁しちゃうわ!
「もう背中流してあげない!」
「ぬッ、おいドクターとやら……このような少女とそのようなことを……?」
「いやいやいや違うのだヨッ、シャキール王子!? あれは研究ばかりであまり風呂に入ってなかった時期、レイテくんが勝手にだネぇ……!」
珍しく騒ぐドクター。やがてゴホンッと咳をして、「とにかく」と言い切った。
「『ゴム』に『プラスチック』だったかな? 石油の新たな加工技術、私も学ばせてもらうヨ。我が『魔晶石式電気技術』と組み合わせれば、なにかとんでもないコトが出来そうだ」
「うむ、我も同意だ。逆に魔物を資源にしてしまう技術、こちらも盗みたかったところだからな」
「イイネッ、取引成立だ!」
白と褐色の手を結び合う二人。
うんうん、よく考えたら資源の少ない砂漠の国にとって、厄介な魔物をエネルギーに出来る技術はすっごく有用だもんね。
「よかったわねシャキールくん、こんなところで復興の目途が立っちゃったわね」
「うむうむ、よき出会いをさせてもらった。縁結びの天使に感謝しよう」
と言って軽く肩を抱きしめられた。
って、はぁ~~~天使~~~!?
「わたし、悪魔なんですけどォーーーッ! 悪の女王なんですけどォーーーッ!?」
「ではドクターよ、さっそく技術の説明といこう。まず石油から作る『ゴム』だ。これは原油を蒸留させた際に上層低温域で分離される軽質留分を固形化して作られるものでな」
「あのっ、わたし天使じゃなく」
「非常に弾力性に優れ、荷重と衝撃にとても強い性質を持つ。それにさらに加工して車輪を覆う形にすることでどのような悪路も進めるようになるのだ。次に『プラスチック』だがこれは軽質留分をさらに熱分解して一部成分を高温高圧で押し固めるのだ。すると軽い上に成形自由で非常に頑丈な物質となってだな」
「ちょっ、聞きなさいよぉーーーーっ!?」
――こうしてハンガリア領に新しい技術がもたらされたけど、釈然としないレイテ様でした!!!
ちくしょうっ、ヴァイスくんに言いつけてやるーーー!
・なお
ヴァイスくん「レイテ嬢が天使だと? ……フッ、流石は俺の友シャキール。お目が高いな」
レイテちゃん「このすっとこどっこいっっっ!」
・ここまでありがとうございました!
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