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第四部:学園の聖女扁

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127:弱き宣誓




 そのときだ。屋上までの階段を上る音と共に、「さて、レイテ様はどちらへ……」と声がしてきた。生徒会庶務のハロルド先輩のものだ。



「あら、何の用かしら~?」


「ああ、やはりこちらでしたかレイテ様――」



 屋上に続く扉を開け、顔を出すハロルド先輩。そうしてわたしと目が合ったところで、



「わッ、わああああああああーーーーッ!? レイテ様が『ジャックさん』にレイプされているッ!?」


「ってしてませんよ!?」



 あぁ、そういえば彼に乗られたような体勢だったわね。忘れてたわ。




 ◆ ◇ ◆




「事件のあと、ハイネ・フィガロのことを『ジャックさん』が庇ったと聞きまして」


「その『ジャックさん』って呼ぶのやめてくれません!?」


「あ、そうですか? そう呼ばないとレイプされると聞きまして……」


「しませんよっ!」



 ひと悶着の末、わたしたちはハロルド先輩の案内で、学園の端に向かっていた。

 校舎を離れるほどに雰囲気が変わる。生徒たちの放つ雑多な音は消え、足元の石畳が放つ靴音だけが、嫌に響くようになっていく。

 それは、今向かっている場所が関係しているのだろう。



「『風紀警備隊』の本部はもうすぐです。ジャックくんが容疑者ハイネと話せるよう、彼らにアポを取っておきました」


「ハロルド先輩……」


「私には事件の真相はわかりません。ですが、あの子が犯人にしろそうでないにしろ、会話は必要だと思いましたからね」



 ふふ、と優しく微笑むハロルド先輩。事件後の場には駆け付けなかった彼だが、実は殺人事件に不安がる生徒たちの心のケアに回っていたそうだ。

 また、他の生徒会メンバーと違って、ハイネのことを容疑者としては扱っても、執拗に責めたてるわけでもなかった。



「カザネ様の説得には少々骨が折れましたがね。元々怖い人ですが、彼もまたセルケト様の死にショックを受けておいででしたので」


「ふぅん。あのお姫様、そんなタマには見えないけどね?」


「タマとか本人の前で言わないほうがいいですよ? あの人、女性扱いと下品な言葉がすごく嫌いですので」


「そういうところが姫なのよ」



 そうこう話しながら歩いていると、灰色の壁の洋館に辿り着いた。

 ここが『風紀警備隊』の本部らしい。内部は各国の衛兵詰め所を参考とした本格的なもので、カザネも言っていたように牢もあるという。

 軍務科がある学園だもの。将来、衛兵関係の職に就く生徒が即戦力となるよう、仕事場を再現しているわけね。



「――ちっ。来たか極悪コンビ」



 屋敷を眺めていた時だ。忌々しげな声と共に、警備隊長のカザネが玄関から顔を出した。

 ……って、極悪コンビですって!?



「ア、アナタ今、わたしを指して、極悪って……!?」


「ふんっ、そうでござる。他の生徒共は貴様を『聖女』と呼ぶが、拙者は違うぞ。貴様のように男に噛み付いて無茶苦茶なことをしてくる女は」


「ありがとおおおおおおおおおおーーー! アンタ見る目あるわよねぇ~~~!」


「おわぁっ!?」



 わたしが接近して手を取ると、カザネはめちゃくちゃビクビクした。ってなによ。



「一回消滅させたこと、まだビビってるの?」


「ぐっ、それもそう、だがっ……えぇい放せ貴様ぁっ!」



 振りほどかれちゃった。なによ、極悪令嬢レイテ様が極悪感謝して極悪握手してあげたのに。ぶーぶー。



「ふふ、カザネ様は結構恥ずかしがり屋さんなのですよ」


「ぬっ、ハロルド貴様!?」


「特に異性に触れられるのは慣れていないんですよね?」


「えぇい黙れ黙れーッ!」



 喚くカザネと「失礼しました」と言いながらも微笑んでいるハロルド先輩。情け容赦ない姫男子も、仲間内では可愛がられているのかもしれない。セルケト先輩の死にショックを受けていたって話も、頷けるかも。



「てか異性慣れしてない恥ずかしがり屋とか、またお姫様みたいな設定でてきたわね……」


「姫言うなっ。……それで、ジャック・シャルワールよ」



 カザネがジャックくんのほうを睨む。視線を受けた彼は「は、はひ!」と情けない声で答えた。

 やれやれね。アンタ実は強いんだからしゃきっとしなさいよ。



「容疑者と話したいのだったか。はぁ、まったく。自身を虐げていた者を庇い気遣うとは、まるで理解できんな」


「あはは、ですよね……。でも僕、彼は罪を犯していないと信じてますので」


「むっ」


「真に罪が確定するまでは、法務科の末席として、足掻かせてもらいますよ」



 弱々しくもそう言い切るジャックくん。彼の言葉に、カザネはしばし黙ったあと鼻を鳴らし、「好きにしろ」と言い残すのだった。



「五分だけだ。他の者には黙っているゆえ、さっさと睦言を済ますがいい」




 ◆ ◇ ◆



「――すまない……すまないジャックくん……!」


「ハイネくん……」



 警備隊の副隊長、ナナシって人に案内されたわたしたちは、館の地下に案内された。

 古い煉瓦造りの壁に饐えた土の匂いが染みついた空間。まさに牢獄という場所に、ハイネ・フィガロは囚われていた。



「はは、は……笑えるだろう……? 殺人容疑で疑われたとき、誰もボクを庇ってはくれなかった。新入生の中で法務科のトップなのに……親は法務大臣なのに……」



 冷たい石床にへたり込んだハイネ。その姿にはもう、高慢に振る舞っていた時の面影はなかった。

 ……ハロルド先輩が話す機会を設けてくれたのも頷ける。このままじゃこの子は、きっと心が砕けてしまうわね。



「よくわかったよ……成績とか、親とか、そういうのは関係ないんだと。それらがどんな良かろうが、自分自身がよい人でなければ、誰も信頼してくれないんだ……!」



 どれだけ泣き腫らしたのだろうか。乾いた涙が尾を引く瞳で、ジャックくんのことを縋るように見つめていた。



「なのに、ジャックくん……キミだけは、ボクを……!」


「まぁね。僕、ハイネくんのことを尊敬しているからさ」



 ジャックくんは労わるように微笑んだ。彼は語る。



「ハイネくんはまぁ、人に好かれるような子じゃないけどさ」


「う……」


「でも、キミがしてきた努力は本物だ。よほどいっぱい勉強しないと、生徒会に見初められるようにはならないよ。それに」



 彼はしゃがむと、ハイネとまっすぐに視線を合わせた。



「僕は必ず、犯罪関係者に優しい法を世に広める。そのときキミには、対抗してほしいんだ」


「なっ、なに……!?」



 まさかの一言。これには傍観していたわたしも驚いてしまう。



「いやジャックくん、対抗してほしいってなんなのよ? アナタの掲げた案って、たしか……」


「犯罪者の家族と、出所後の元犯罪者を支援するような内容ですね。匿名化とか職業斡旋とか」



 入学した日、彼は叫ぶように語っていた。

 自身が『殺人鬼の子』であるがゆえ、犯罪者家族の辛さはよくわかる。せめて迫害されづらくなるようにしたいと。

 そして罪を犯した者が二度と家族や周囲を不幸にしないよう、立ち上がらせるための支援が欲しいと。



「……そうよ。ただでさえ世間から反発されまくるでしょうに、敵を求めてどうするわけ?」


()()()()()()()()()()()



 わたしとハイネが困惑する中、彼はきっぱりと言い切った。



「僕の案に対する反発。それもまた正義の叫びだと思います。きっと犯罪に遭われた方の多くが、僕に怒りを向けるでしょう。憎しみをぶつけたいと思うでしょう。ゆえにこそ――」



 彼は前髪から覗く眼差しで、ハイネを見つめた。



「ハイネくん。キミが彼らの想いを纏めて、決議の場で僕にぶつけてくれよ」


「……!」


「僕、その上で考えてみるからさ。罪を犯した人もその関係者も、そして罪なき人もみんな納得できるような道を」



 ――そのためにも、キミをどうにか助けてみせるよ。



 そんな弱々しくも強い彼の宣言に、孤立無援だった容疑者は顔を抑え、「ありがとう……」と濡れた声で呟くのだった。


書籍版最新3巻が4月に発売されました。“覚醒レイテちゃん”の表紙が目印です。

今回も各種店舗特典があります。よろしくお願いいたします。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


えのきのえ様によるコミカライズ第1巻が発売&配信されております。

発売日は5月です。よろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
ジャックきゅん!
ジャックさんカッコいいじゃねえか…! ヒャッハーな信者達が来るのも納得!
ジャックくん主人公じゃん( ˘ω˘ )
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