116:副会長と広報はかく語りき
途中でもご感想ぜひください~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!
「ああ、最後に伝えておきましょう」
進行役のハロルド先輩。彼は粒子となって薄れゆく中、わたしに告げた。
「仮想世界大戦においては、異能の使用も許可されております。また国王が前線に立って戦うことも」
なんですって?
「この世界はあくまでも夢うつつ……死んだところで実際の肉体は傷付きませんが……」
ただし……と。消え去る刹那、唇だけでハロルド先輩は言い残す。
「感覚だけは、本物です」
――おそらくカザネ・ライキリは、アナタを直接殺しにきますよ――?
そんな言葉を最後に、彼は執務室からいなくなるのだった。
「……ふん。上等じゃないの」
元々あいつは気に食わなかった。潰しに来るなら返り討ちにするだけよ。
そしてっ。
「『アリスフィア統合生徒会』! それから試合を見ている生徒どもっ! 思い知るがいいわァッ!」
――この極悪令嬢レイテ・ハンガリアが行う、地獄の国家運営をねぇッ!
◆ ◇ ◆
――『アリスフィア統合生徒会』。彼らは仮想世界大戦を行い慣れており、戸惑うことなく着々と手を進めていた。
特に方針を決めていた副会長、カザネ・ライキリの動きは速い。
『四ターン目。国王全員の行動が終わりました。第五ターンに入ってください』
「やっとでござるかっ!」
進行役・ハロルドの声に顔を上げるカザネ。
和を基調とした執務室にて、彼は速攻で行動欄を押していく。
「あの女めっ、あの女めっ、あの女め!」
その内容は『練兵』:侵略戦模擬。『開発』:攻撃武器。『農耕』:兵量確保。
軍務科トップ・カザネの動きは、とにかく侵略準備一辺倒に染まっていた。
「あの聖女のガキめっ。女の分際で、よくもこのカザネに意見してくれたでござるなァッ……!」
姫君もかくやという表情を怒りにゆがめながら、カザネの足が動き出す。
その身体は自然と王城横の練兵所へ。そこには『視察』:兵士募集により集めに集めた、和装の兵士たちが集結していた。
彼らを前に威圧的な声音で吼える。
「おまえたちっ、このターンも『練兵』でござるよ! 強度はもちろんマックスでござるっ!」
『カ、カザネ様……!』
兵士たちの表情はこわばっている。
彼らは仮想存在……NPCと呼ばれる、ゲーム上の賑やかしである。決して本物の人間ではない。
だがそれぞれがプレイヤーに対する『好感度』という要素を持っており、これを確保することも国王の腕の見せ所であった。
その点では現状――ひたすらにスパルタな訓練を押し付けられる兵士たちのカザネに対する好感度は、ほぼ最低ラインを割りかけていた。
しかし。
「ふん。なんでござるか、貴様たち? まさか斬られたいのか?」
カザネが腰に手をかける。それだけでNPCらは顔を青くし、『滅相もございません!』と慌て始めた。
「ふっふっふ、それでよい」
――ただ従わせるだけなら、『好感度』を無視する手段もある。
その一つが『練兵』:暴威である。
プレイヤー自身が暴力によって兵士を圧倒することで、逃亡・反抗イベントの発生を無理やりに押さえつけるのだ。
「貴様らは所詮、このカザネの駒よ! 我が面子を潰してくれたレイテ・ハンガリアを殺すまで、修練するか息だけ吸っていればいいのだっ!」
カザネは彼らを一切人間扱いしない。
NPCが仮想存在だと割り切りきっている面もある。が、元々カザネはアキツ和国が上位藩主の息子であり、農民上がりの戦士たちなど雑草としか思っていなかった。
そんな国王である。いくら暴威により脅そうが、兵士たちの中から行動判定:ファンブルを引き、キレる者も当然現れる。
『この暴君めっ! もう我慢できんッ!』
数人のNPCが決起を起こした。彼らは刀を抜くや、非武装のカザネに襲い掛かった。
『覚悟ォーッ!』
「ふん……」
だがしかし。
「『練兵』序盤の雑魚NPCが喚くなよ。異能発動――『一寸法刃』!」
瞬間、あらざる現象が起きた。無手だったはずのカザネの手に、業物の大太刀が出現。刹那の居合にて数人の兵を斬殺したのだ。練兵場に血しぶきが舞った。
「やれやれ……また徴兵せねばならぬではないか。行動ターンが無駄になるでござる」
かかる鮮血を鬱陶しそうに拭いつつ、カザネは太刀を手首で回した。
すると、シュル、シュルル、と。回る太刀は異音を上げつつ、徐々に刀に、小刀サイズにと小さくなっていったのだ。
そして最後は見えなくなった。正確には、指の間に仕込める程度の針サイズへと縮小したのだ。
「兵士どもよ。邪魔な死体を片付けよ」
これがカザネの異能――触れた刀剣類を圧縮する、『一寸法刃』の力である。
無防備に見える極東の姫は、西洋薔薇よりなお凶悪な棘を持っていた。
『ッ……!』
「聞こえなかったか? さっさと動け」
『は、ははぁ――ッ!』
反逆イベントに対し、対応:粛清――成功。
これによりNPCたちに与える恐怖はより増大し、カザネに異を唱える者はいなくなった。
「まぁ、しばらくは……に限るでござるがな。となると、ふむ……よし」
今回のゲームは特に負けられない。一年生たちが入ってから初の公開戦であり、また女の分際で好き勝手なことを言ってくれたレイテ・ハンガリアのことを、カザネ・ライキリは徹底的に嬲る気でいた。
ゆえに石橋を叩かせてもらう。カザネは兵士の一人に「おい」と声を掛けると、その口に向かって白魚のような手を伸ばし……、
「飲め」
『ふぐっ!?』
口腔に、極小の針を何本も放り込んだ。そして、
「異能再発動――『一寸法刃』」
『やっ、やめッ、ぐぎゃぁあああああーーーーーーーッ!?』
兵士の身体が四散した。
内部から抜き身の太刀がいくつも出現し、血と肉と破れた臓器の破片を撒き散らしながら、歪んだ針鼠のオブジェへと変えてしまったのだ。
「これでおそらく、二十ターンは逆らわんよな?」
惨殺処刑――成功。
血の雨が降る中、問いかけるカザネに、兵士たちはただただ泣きながら頷くしかない。
これぞ軍務科トップ……反乱を一切許さない『士狂いの国』出身、カザネ・ライキリの政権運動であった。
「――やれやれ~。カザネっちってばホント容赦ないよね~」
と、そこで。恐怖と血臭の練兵場に、けらけらと気の抜けた声が響いた。
「一年生たちも見てるんだから、少しは人気取りも考えなよ~?」
「コルベールでござるか」
「正解っ☆」
カザネが入口に視線をやると、そこには小柄な栗毛の少年・外務科トップのコルベール・カモミールが佇んでいた。
「ふん、人気取りなどくだらんな。強く冷徹なふるまいを見せれば、それだけで下々はついてくるものでござる」
「わぁ~おっ、クレイジーサムライイズムっ☆ これだから和国人はちょっとヘンで困るよ。カザネっちも可愛い顔して言動はゲロシャブだし」
「誰がゲロシャブだっ!?」
容赦なく針を投げつけるカザネ。それらは空中で巨大化し、大太刀となってコルベールに迫った。
だが小柄な少年は恐怖しない。泣き顔で「うひゃぁーっストップストップ!」と喚きつつも、コミカルなポーズを取るだけで全刀回避。
まるで昆虫標本か――あるいは漫画の一ページのように――コルベールの周囲を突き立った刀が囲むだけに終わった。
「ふぅ、危ない危ない。序盤で死んじゃうかと思ったよっ!」
「ちっ、相変わらず気味の悪いヤツめ。その人間性に異能……本当に気に入らないな」
カザネが睨む中、コルベールは「ごめ~んねっ☆」と明るく笑いながら、刀の中から脱出した。その姿は殺されかけた者とはとても思えない。
「少しは本気で怖がれ、化け物め」
「無理だよぉ~ん! だってそんな反応は、僕の異能――『死への銀弾』が許さないからね」
ウィンクを放つコルベール。そんなふざけた彼を前に、尊大なカザネはしかし、寄って斬ることを避けていた。
最大限に、警戒していた。
「ちっ……〝半径一メートルに限り、自身への害を弾く力〟。最初に聞いた時は、これほど厄介とは思わなかったでござる……」
「え~、別に大したことないよぉ。そりゃ刀数本くらいなら勝手に向こうが避けてくれるけど、大雨くらいの物量になると普通に当たるし。小雨は避けれるけど」
「十分でござろうが」
とりわけ矢弾には有用な異能である。狙撃暗殺に対して強い耐性を持てるのは、為政者として大きいだろう。
だがカザネ・ライキリが彼の能力を脅威と思っている点は、『生身の者』が害意を持って近づく結末だった。
「ほらほら、男らしく直接来てよカザネっち~」
「ふざけろ。そんなことをしたら、どうなるかわからん」
そう。本当にどうなるかわからない。
このゲーム内に限るが、カザネは一度だけ兵士たちを連れ、コルベールを殺したことがある。
完璧に追い詰めた。燃え落ちる彼の城の中、カザネは笑った。狡猾に立ち回るこの男に、ようやく屈辱を与えることができると思った。
が、しかし。まず一番目にコルベールを襲った兵士は、野生の魔物がいきなり横から襲ってきて死んだ。そんな偵察情報は一切なかったはずなのに。
次に背後から二番目に迫った兵士は、唐突に脳出血して死んだ。これもまた、一切の伏線もなしに。
そうして三人目――暴走したサナダムシが腹を突き破って死亡――四人目――〝死体になる以外〟の〝死の結末〟を迎えた。カザネの語彙ではとても説明できなかった――と、コルベールの四方に不審なる死が満ちたところで、ようやく意を決して躍りかかったカザネの刃が、彼の首を刎ねられたのだった。
……そのゲームではカザネが最終勝利者となったが、まるで勝った気がしなかった。
「あははっ。敵がどうなるか僕自身すらわからないなんて、ほんと面白いチカラだよねぇ~!」
「面白いわけがあるかっ、馬鹿めっ。ちっ……起こる現象がランダムゆえ対処法が分からず、また物量により能力の容量限界を狙うしか殺せないとは……」
人格から能力まで、全て厄介で不気味な男である。もしも将来、コルベールが外交官としてアキツ和国にやってくると知ったら、『今日から鎖国状態にしましょう』とカザネは幕府に上奏しようと思っていた。本気で。
「で、何をしに来た。まさか遊びに来たわけではあるまい?」
「え、遊びに来たんだけど――って冗談冗談っ!」
無言で刀を抜くカザネに、コルベールは慌てて「嘘だから!」と誤魔化した。
「相変わらずのブチキレ姫だなぁ、カザネ様は~」
「貴様、殺すぞ……!」
「はは、できないこと言うなよ劣等国のメスが」
「!?」
「ってこれも冗談っ☆ コルベールくんは真面目だから~、ちゃんと『商売』で来ましたよっと♪」
コルベールが軽く手を鳴らした。すると修練場の入口より、うつろな雰囲気をした使用人たちが荷車を引いてやってきた。
その上には様々な武器類が。これには表情をこわばらせていたカザネも、目に光を取り戻す。
「っ、ほほぉ……! 今回は貴様、まっとうに『開発』をしているのか……!」
「まぁね~! レイテちゃんへの挨拶も込めて、僕をわかってもらおうかなって」
兵士たちに「荷を降ろせ」と命じるカザネ。にわかに修練場が騒がしくなる。
「よくやったぞ、コルベール。貴様が武器売りとなるなら、拙者は『練兵』に専念できる。代わりにしばらくは攻めないでやろう」
「ありがたき幸せ~♡ 僕の価値を示せたようでなによりだよ」
外務科トップ・コルベールは、頭の後ろで手を組んで語る。
「僕おもうんだ~。外交とは究極、『自分の価値を相手に示す』ことが大事だってね。じゃあ価値っていうのはなんだっていうと、それはシンプルに、発明品だと思うんだよね~♪」
見たら相手もビックリワクワクするでしょ? と問いかけるコルベール。
「今回はカザネっち向きに刀剣とかをいっぱい作ったけど、それはゲームだからに過ぎないよ。もしも僕がリアルである程度の地位になったら、工場をいっぱい買って面白いものをい~っぱい作って、色んな国にワクワクをお届けしたいんだよね~♪」
「ふん、オモチャでも送る気か?」
「ないしょ~♡」
「……ちっ」
唇に指を立てるコルベールに、カザネはそれ以上言及しなかった。
どうでもいい、からでもある。しかしカザネは元々、眼前の不気味な男に、ゲーム内だろうとあまり深く絡む気がなかった。
「用が終わったら帰れよ、貴様」
コルベールの異能は異常である。もしも食らった効力が、仮想現実を通り越し、リアルの肉体に体調が起きたらと思うと……。
「貴様なんぞが拙者に近づくな。このカザネには目的があるのだからな。しっしっ」
「ちょっ、バイキン扱いは傷付くな~。目的って、レイテちゃんいじめでしょ? 面白そうだから手伝おうか?」
「黙れ。貴様は最低限、武器だけ売ってろ。……もちろん、あの女をわからせてやるつもりだが……」
が、それはあくまでゲーム内の目的である。
カザネには現実でやるべきことがあった。
「とにかく貴様とは話したくない。鎖国するでござる」
「ふぅん。カザネっちも一物抱えてるみたいだね~♪ イチモツはなさそうなのに」
「えぇいうるさいっ。このカザネが女扱いされることと、下ネタを嫌いだと知っての発言かっ」
「そういうところだよ~」
会話する二人。仲良さげ――というには、殺意と嘲りが少々濃密な関係にあった。
「――ふは。相変わらず妙な絡みをしているな、おまえたちは」
「「!?」」
と、そこで。上空から不意に声が響いた。
上を見上げるカザネとコルベール。すると彼らの視線の先より、中型サイズのあざやかな鳥――オウムが舞い降りてきたのだった。
「――暇潰しだ。俺も話に混ぜるがいい」
声の主はオウム自身だった。いちいち妙な溜めを作って話す鳥に、二人の目も点となる。
「――どうだ、面白いだろう? 『視察』でペットショップを覗いたら見かけてな。買ってみた」
「……その声、生徒会長殿でござるか?」
「――フッ、いかにも」
そう。無駄に渋いオウムの声は、『アリスフィア統合生徒会』が長、セラフィム・フォン・ルクレールのものであった。
「あはは……相変わらず変なプレイしてるねぇ、会長は。オウムが売ってるなんて知らなかったよ……」
「――クク。余興となったようで何よりだ、コルベールよ」
「……そのいちいち溜め作って話すのやめない?」
常に明るかったコルベールの声に、ほんのわずかに苛立ちが混じる。
副会長カザネは複雑ながらセラフィムを尊敬した。自身では、コルベールというバケモノにそんな人間じみた反応はさせられないだろうから。
「会長はすごいでござるなぁ……色んな意味で……」
「――フ、そんなことはない」
オウムの姿で、セラフィムは呟きを否定した。
「――俺の異能は〝小動物への憑依〟。おまえたちの能力と比べたら、しょぼすぎて涙が出るだろう?」
そう……それが生徒会長、セラフィムの力の全てであった。
便利ではある。が、決して強力とは言えず、『氷の王子』ヴァイス・ストレインや『傭兵王』ザクス・ロアのように大破壊を起こすなど夢のまた夢。〝しょぼい〟の一言がとてもよく似合う異能である。
「で、何用でござるか会長殿? 対レイテに向けた談合なら断るぞ。我ら生徒会の仲間とはいえ、女相手に男が群れて嬲るのは恥ゆえ」
「――尊大でありつつも潔癖だな。よいぞ。流石はアキツ和国の男子だ」
「いちいち溜め作って話すなでござるっ」
むかつくなぁもうッと怒るカザネ。しかし先ほどのコルベール相手とは違い、その声音に殺意は一切なかった。会長セラフィムもオウム姿で「――癖だ、許せ」と朗らかに返す。
「――なに、本日は『交渉』で来た。コルベールもいるならちょうどいい」
「会長が『交渉』? どゆこと?」
「――ああ、しばらくは俺を攻めないでくれ。代わりに、『密偵』で得た他三国の情報を与えよう」
「「!」」
カザネとコルベールは反応を示す。
この仮想現実大戦において、他国の情報はまさに値千金である。それを渡してくれるとは。
「――フハ。密偵兵は『練兵』するのに時間がかかるが、俺はこの通りだからな」
「あは~☆ 小動物に憑依した状態なら、疑われずに他国を探れるもんね! 会長の能力ってやっぱりツヨツヨじゃない!?」
「――フッ。うっかりカラスとかに襲われて死ぬと、宿っている俺も死ぬがな」
「ごめん前言撤回。やっぱり会長の能力はクソだね」
苦笑するコルベール。その笑みにはやはり、カザネと話していた時のような仄かな毒気はなかった。
「――実は、すでに三国とも『密偵』してきた。兵は神速を貴ぶというからな」
「尊敬するでござる」
「――まぁカラスに途中で襲われて泣きながら取りやめたが」
「尊敬もやめるでござる」
「――その結果、ククッ……」
無駄に含み笑うセラフィム。彼は副会長と広報担当に告げる。
「――三国とも、色々な意味で愉快なことになっていたぞ?」
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【生徒会紹介】
・『カザネ・ライキリ』
アキツ和国人。上位藩主の息子。レイテ曰く『ブチキレ姫男子』。軍務科トップで副会長。性格はカス。
・『コルベール・カモミール』
ルクレール聖国人。名誉男爵の息子。レイテ曰く『やばそうなショタ』。外務科トップで広報担当。性格はカス。
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