115:人狼は誰だ
執務室にて、わたしは考える。
〝さて……人狼は誰かしらねぇ〟
――『仮想世界大戦』。
幻想の世界で覇権を目指す、いわば極めてリアルになったTRPGのようなゲーム。
生徒会メンバーが仕掛けてきたソレを用いて、わたしは彼らの人間性を見極めようと思っていた。
それぞれがどんな一面を秘めているのか――いったい誰が『地獄狼』残党なのかを。
「まぁそれはそれとして、やるからには勝つだけよっ」
この極悪令嬢レイテ様に挑んだことを後悔するがいいわ!
と、そう意気込んでいた時だ。不意に目の前に光の柱が立つや、半透明状態の庶務課トップ・ハロルド先輩が現れた。
「どうもレイテ様。なにか独り言を呟いておいででしたか?」
「うわ、なによ」
まさか他プレイヤーを暗殺でもしにきたわけ? そういうプレイもできるの?
そう身構えるわたしに、ハロルド先輩は柔らかな笑みで「どうかご安心を」と諭してきた。
「自分はプレイヤーではありません。僭越ながら、会長より進行役の任と権限をいただいてきました」
「む、そうなの」
そういう役は必要か。あくまでもゲームだものね。
「ルール説明もろくになかったでしょう? やれやれ、会長は性急なのですから。よほどレイテ様と遊びたかったようです」
肩を竦めるハロルド先輩。その姿は人畜無害な苦労人って感じだけど、本性はどうなのかしらね?
ゲームプレイからそのへんを探りたかったけど、まぁ仕方ないわ。
「わかったわよ。じゃあ説明よろしくぅ~」
「ふふ、法務科のセルケト様の真似ですか? では」
ハロルド先輩が手を叩く。すると眼前に光の画面が現れた。そこには三つの文章が。
「こちらが仮想世界大戦の大まかなルールとなります。読み上げていきましょう」
先輩はその手に指示棒を出現させると、教師のように一番目の文章を指した。
「ルール①:『仮想世界大戦は、全三十ターンで行われる』」
へえ。ターン数が決まってるのね。
「仮想世界で国家を育てて競わせるゲームですが、本当にそんなことをしようとしたら何十年もかかってしまいますからねぇ。ゆえに一ターンは一年分ほどの重みとし、その中で三行動まで選べるようになっています」
そう説明した後、ハロルド先輩はわたしの右端に目をやった。
そこには『視察』『建築』『交渉』『農耕』『宣戦』『内政』『開発』『商売』『練兵』『密偵』などなど、十以上の文言が書かれた謎の欄が。
「それらが国王のできる行動一覧ですね。タップすれば行動できるようになっていますよ」
「ふうん。ターンごとにここから三つ選べばいいわけ?」
「はい。たとえばその中から『視察』『練兵』『建築』を選べば、国王はその年、城下町を視察して民と交流を広げ、兵たちを鍛え上げて強くし、またいくつかの建物を建てた――という風になります」
なるほどね~。それはわかりやすいわ。
「ただし『視察』して民とどんな会話をするか。『練兵』でどんな修行をさせるか。『建築』でどんな建物を建てるか――など、行動ごとにまた細かく選択肢があるんですけどね。もちろんそれによる失敗も」
「いいじゃない。リスクがあったほうが燃えるわ。ちなみに一ターン内に同じ行動はできるの?」
「可能ですよ。とにかく『練兵』『練兵』『練兵』と……軍務科のカザネ様はよくそうしていらっしゃいますし」
「ははっ、あのブチキレ姫男子らしいわね。顔のわりに脳筋っぽいもの」
「ふふ……オフレコにしておきます。彼のように武力を振りかざすだけがプレイではありません。『交渉』で他国と話したり、『密偵』で一方的に他国の状態を見たりもできるので、選択肢に入れておくといいでしょう」
ほほ~情報戦じみたこともできるのね~。
探ってみて他国が『建築』で軍事基地作りまくってたら、こっちは攻城兵器を作ったり、あるいはよその国と『交渉』して一緒に攻めたりみたいな?
「把握したわ。次に進んで頂戴」
「はい、レイテ様はご理解が早いようで何よりです。――ちなみに今の自分は分身投影体というヤツで、ジャックくんにも同時説明しているのですが、彼は困惑しっぱなしなんですよね……」
「って、ジャックくんも参戦させてるわけ? てっきり放置されてるものかと……」
驚くわたしに、ハロルド先輩は「会長の思い付きです。〝大勢で遊んだ方が楽しいから〟とか」と、苦笑交じりに答えてくれた。
……あの金髪変人美丈夫会長、マジで遊ぶためにゲームを挑んできたのかしら? あとわたしにも猫ちゃん撫でさせろ。
「ではルール説明に戻ります。その②に……」
先輩の指示棒が二行目を指す。
「ルール②:『三十ターン目終了時、滅ばずに生き残っていた国家が勝利。あるいは生き残った国の中から、総資産が多い国家が勝利となる』」
へ~なるほど。注目すべきは文章後半ね。
「複数の国家が残っていたら、資産勝負になるんだ」
「奥深いでしょう? 戦うだけが手ではありません。『建築』で防備を固めたり『交渉』で攻められないよう立ち回りつつ、ひっそりと『開発』や『商売』で財を成して勝利もできます。このへんは外務科のコルベール様が得意とする手ですね」
あ~そんな動きしてきそうね、あの笑顔ショタ。
「じゃあコルベール先輩のとこには、彼が『開発』でもしてる間に速攻で攻め込むべきかしら?」
「ところがどっかい。あの人はそういう顔メタも考慮に入れて動ける人です。カザネ様が攻め込んでみたら、コルベール様はカザネ様以上に『練兵』しまくっていて返り討ちに――なんてことも幾度かありました」
「うわっ腹黒っ」
やっぱり一筋縄じゃいかないショタらしい。
コルベール先輩が外交官になる国は、今後めんどくさくなりそうね……。国王陛下に仲良くするようおしえとこ。
「さてレイテ。最後に三つ目のルールとして――」
ハロルド先輩が強く手を打ち合わせた。
すると空中にいくつもの画面が浮かび上がった。そこには、空の一点を見つめた多くの生徒たちが映っていて――!?
「ルール③:『仮想世界大戦の試合模様は、礼堂上に浮かび上がる形で全生徒に中継される』」
「へえ……!」
画面内の生徒たちは〝始まったか〟という表情で爛々と空を見上げていた。
戸惑っている生徒もいるが、そうした者たちは総じて一年生に限るみたいだ。
「この学園では恒例行事って感じかしら?」
「はい。仮にも国家を運営する仮想世界大戦は、貴族としての能力を示すのに、これ以上ないデモンストレーションとなります。ゆえに政権運営の模範を教えるためにも、生徒会メンバーは定期的に公開しているのですよ」
「ふうん。なかなか理にかなっているわね」
机の上で学んだだけでは骨身に染みないこともある。
だからこそ、シミュレーションとはいえ実際に国家を運営する様子を見せることで、生徒たちを指導するわけね。
「ああ、それと」
そこで、ハロルド先輩は含みある笑みを浮かべた。なによ?
「この仮想世界大戦ですが……ときおり、『次期生徒会メンバー候補』と見込んだ者も招いて行うことも」
「! へえええ……」
それはいいことが知れたわ。ここで結果を出せば、生徒会メンバーになれるかもなんだ。
「じゃあ先輩、わたしが生徒会長に招かれたのは」
「ふふふ、お察しの通りです。『救国の聖女』レイテ様とお話したいついでに、あわよくば新たな仲間に加えたいと思っておいでですよ?」
「それは光栄なことね」
悪くない話だわ。たとえ今回のゲームで誰が『地獄狼』残党かわからなかったとしても、生徒会に入ればメンバーを近くで注視できる。
人狼の皮に、手をかけることになる。
「説明は以上となります。レイテ様、なにかご質問は?」
「ないわよ。十分だったわ」
「それは結構。……ジャックくんはテンパッてばたついていますが……」
あ、あの弟子~。師匠のわたしに恥かかせるんじゃないわよ。
「まぁいいわ。アレが見込んだ通りの悪党なら、なにかしらやってくれるはずだしね」
じゃあ今度こそ、
「挑ませてもらおうじゃないの、『アリスフィア統合生徒会』――!」




