108:悪の残滓
「――ってわけで、国王陛下の相談役になるために、このレイテ様が学園に降臨したわけよぉ。わかったかしら悪党少年?」
「だ、だから悪党じゃないですって!」
話は戻って学園にて。
昼休みの中庭、芝生の上で弁当を広げた生徒たちがちらちら見てくる中、わたしはジャックとかいう悪党見習いにいきさつを話し終えた。
ってこら侍従、青春する子供たち見て『もうあの頃には戻れないな、はは……』って感じの疲れた表情しないの。あとで学生服買ってあげるから。
「なるほど……それでレイテ様は『聖アリスフィア学園』に」
とそこで、ジャックくんが頷いた。
「国王陛下の相談役に抜擢されるとは、さすが噂のレイテ様は優秀なんですね」
「まぁね!」
「あはは。この学園は定期テストで一定成績以上を取れば最速三か月くらいで卒業資格を得れるそうですから、レイテ様ならすぐに卒業できますよ」
「まぁね~~~!」
わかってるじゃないのジャックくん。なにせわたしってば現役領主サマだからねぇ!
キッズたちと違って、実際に仕事して能力高めてきたんだから!
「フッ……まぁわたしのシゴデキ女子っぷりはいいとして」
「?」
それよりも見るべきは――人格面でしょ!?
「うっふっふっふ。ジャックくん、おまたは濡れてない?」
「えっ」
隠さなくたっていいんだから~~~。
「わたし、王都での極悪行動まで話しちゃったわよねぇ?」
「ご、極悪行動……? それってもしや、市井や貴族の方々に国を立て直す役職与えたやつですか?」
「そうよ! それで恐怖しちゃったわよねぇ!? ちびっちゃったわよねぇえ!?」
たは~~~。わたしってば過去回想ついでに『格』を見せつけちゃったわ~。
「これがレイテ・ハンガリアという女よ。極悪パワー、感じちゃった?」
「い――いやいやいやいやいやッ! 全然極悪じゃないんですけど!?」
ってファッ!? 何言ってんだコイツ!?
「せ、責任ある仕事をいきなり押し付けたのよ!? 超極悪でしょ! 普通はわたしに怒るでしょ!」
「ビックリはしますが怒りはしませんよ!? むしろ光栄だと喜びますよッ!」
ファファッ!?
「アンタなにを言って……!」
「いやレイテ様。そもそも国政に関わる職務をちゃんと『責任ある仕事』と認識してる時点で、レイテ様善性でしょ!? 極悪ムリですよアナタ!」
「ファッ~~~~~!?」
な、な、なんだこいつぅうーーーーー!
わたしの全てを全否定してくるんですけどっ!
「こ、怖いのかッ!」
「なにが!?」
「わたしが極悪令嬢として君臨してることが!」
「いや何も怖くないんですけど!? だって君臨してないし!」
はあああああああ~~~ッ!? ここここここのガキ言いやがったわッ!
「ふぅー、ふぅー……! はらわたが煮えくり返るぅ……!」
「レイテ様……?」
「こ、こんな屈辱は、傭兵結社『地獄狼』の連中に領地を襲撃されたとき以来よ……!」
「って僕『地獄狼』に並ぶんですッ!?」
「アンタも絶対潰してやるわよッ!」
「やめてくださいよっ!?」
くっそ~~~。流石は学園で嫌われ無双してるらしい悪党少年ジャックくん。
すっとぼけたフリして、相変わらずわたしを極悪王の座から引きずり下ろそうとしてるわね。
「ちっ。わたしの正式な入学は明日からだからね……今日は引き下がってやるわ。でもこいつ腹立つから、エリィ! 去り際に唾飛ばしてやんなさいッ!」
「えぇ~お嬢、流石にそれは大人として恥ずかしいっていうか……。てかだいぶ三下悪役の行動では?」
「しゃんした!?」
ぐぬぬぬぬぬぬ……メイドまでわたしに逆らうのかァ!
うえーん。こんなときに、あっちのほうの従僕なら――!
「――駄目ですね、新人。レイテお嬢様の命令には即座に従わなくては」
と、その時だった。(無駄に)空から燕尾服の人影が舞い降りて、
「というわけで喰らいなさい少年ッ! ペペペペペペペペペペペペペペペペペッッッッッ!!!」
「ぎゃああああああ~~~~~~!? いきなり変な人が唾かけてきたァーーー!?」
現れたのは長身痩躯のメガネ野郎、我が家の執事ことアシュレイだった――!
「アシュレイっ、来てくれたのね!」
「は、お嬢様。部屋のメイキングが終わりましたので」
華麗に傅くアシュレイ。その姿が頼もしい。
うふふ。アンタなら大人として恥ずかしい行動もすぐにやってくれると信じていたわ。
きしょいから。
「まったく……私に比べてアナタは駄目ですね、エリィ。ハンガリア家の従者たるもの、こんな時のために唾を貯めておくのは常識ですよ?」
「ういっす先輩。辞めていいっすか?」
キリッとする執事とげんなりするメイド。元オナ職だけあって仲良くやっていけそうね。
ちなみにこの学園は全寮制だけど、暗殺対策兼『ヒトを使う練習』も兼ねて、上級貴族には二名までの使用人帯同が許されている。そこで選んだのがこいつらなわけ。
「それにしてもお嬢様、あの少年……」
そこでアシュレイは、「うわああああああ変態が出たああああああ!」と警備所に駆けこんでいくジャックくんに目をやった。
少年の身体は、一切濡れていなかった。
「――彼、私の唾を全て回避していました。……さえなく見えてあの身のこなし、先輩の血をしっかり受け継いでいるようで……」
アシュレイはずいぶんと警戒しているらしい。
そしてわたしに囁いてきた。
「ヴァイス・ストレインに――国王陛下に課せられた『任務』のターゲット、やはりあの少年では?」
「可能性は高いわね」
アシュレイの言葉に頷く。
そこは最初から予想していた。『切り裂きブルーノ』の息子が最有力候補だってのはね。
「まったくヴァイスくんってば。卒業証書取るついでに、面倒なことを頼んでくれたわ」
それはジャックくんには唯一話していない情報。
「この学園にいるかもしれない、『地獄狼の残党』を見つけてほしいなんてね」




