107:学校に行こう、レイテちゃん!
「聖女様ちっちゃーーーい! ロリ聖女様だぁーーー!」
「わたし十六歳なんですけど!? 『地獄狼』滅ぼしたんですけどぉ!?」
えーーーんもう王都嫌い! 帰るぅー!
◆ ◇ ◆
かくして――(気に食わないことに)聖女扱いなわたし+万雷の喝采で迎えられたヴァイスくんは、民衆たちの大歓声の中、役人により王城近くの宮殿へと招かれた。
来客用の貴賓館ともなる場所で、今はここを政務の中心地としているらしい。
で。「軍務大臣様が呼ばれております」とかで、何やら歓待も早々に執務室に向かわされたんだけど――、
「んほぉおおおおおおーーーーーー! ヴァイス王子ぃ~~~~!」
「うひゃぁっ!?」
扉を開けた瞬間に、筋肉バキバキな髭のオッサンが飛びついてきた!
咄嗟に避けるわたしとヴァイスくん。それによりオッサンは床に激突し、「げべ!?」とか呻いて撃沈した。
なによコイツ。
「あ~~びっくりした……! ヴァイスくん、この人だれ? 不審者?」
「いや、彼の名はゲッペルス。一応は我が国の軍務大臣だ」
「えっ、この人が!?」
床でピクピクしているオッサン。なんか死にかけのカエルみたい。
こんな人が軍務大臣とか大丈夫かしらこの国?
「少々暑苦しいところもあるが、いい男でな。……今戻ったぞ、ゲッペルス」
「ッ!」
王子が呼びかけた刹那、オッサンはがばっと起き上がって片膝をついた。
「ハッ、ハハァッ! このゲッペルスッ、ヴァイス王子の生還を信じ続けており申した~~~ッ!」
ってうわぁ、オッサンめっちゃ泣いてるじゃないの。
よく見たらオッサンが倒れてた床、涙で水溜まりが出来てるんだけど。やば。
「ややっ、そちらの可愛らしいお嬢さんは――ハッ!? まさかアナタ様が、ヴァイス様を救護して匿われていたという、レイテ・ハンガリア卿にございまするか!?」
「そ、そーだけど」
「んほぉおおおおおおおおおッッッ感謝の極みィイイイイイイーーーーッ!」
ってぎゃああああーー!? また飛びついてきた~~~!?
「やめろ、ゲッペルス。……レイテ嬢は我が国至上の賓客だ。気安く触れることは許さん」
そこで、ヴァイスくんが咄嗟にわたしは抱き寄せて射線を外してくれた。
それにより再びゲッペルスさんは床にダイブ。うわぁ~痛そうだなぁ~と思うも、顔を上げたゲッペルスさんは、ぽかんとした顔で王子を見ていた。
「ヴァ、ヴァイス王子……?」
「ともかくゲッペルスよ、心労をかけたな。聞けば貴殿だけは弟王子の反逆に与さず、反乱分子として追われていたとか。生きた心地のしない数か月だっただろう」
俺のためにすまない――と、ヴァイスくんは片膝をつき、倒れたゲッペルスさんに手を差し伸べる。
「お、王子!?」
「ゲッペルス。もう一度、俺のために働いてくれるか?」
「は――はひぃ! ももももちろんでございますっ! このゲッペルス、粉骨砕身の想いで尽くさせていただきまするっ」
手を取って立ち上がるゲッペルスさん。何やら感無量の表情だ。
「お、王子……見ない合間にご立派になりましたなぁ……! なんというか貫禄が出た。それに『氷の王子』とも呼ばれたアナタ様が、口数も随分と多くなられて」
「そうだろうか? ふむ……もしも俺が変わったと感じるならば、ソレは彼女のおかげだろう」
そう言ってこちらを振り返るヴァイスくん。
「って、わたし!?」
「レイテ嬢以外に誰がいる?」
いやいやいやいやっ。わたし、ヴァイスくんが成長するようなことは何もしてないわよ?
せいぜい極悪パワーを注入して闇堕ちさせようとしたくらいでっ。
「おぉっ、そうでございましたか! 流石は『救国の聖女』様!」
「ってその呼び名やめなさいっつの!」
わたしのどこが聖女じゃ~~いっ!
「して、ゲッペルスよ。今の政務状況はどうなっている? 俺が早々に呼ばれたということは……」
「はっ……本来であればパレードの一つでも行うべきでしょうが、うぅ……」
ゲッペルスさんは冷や汗を噴き出すと、それを大柄な体躯に見合わないちっちゃいハンカチ(しかもクマさん模様)で拭い始めた。
そして執務机のほうを振り返る。そこには山のような数の書類が積まれていた。
「あぅぅ……宰相をはじめ、財務大臣に法務大臣、内務大臣に外務大臣と……。弟王子についた全大臣らは、ベルグシュライン卿とザクスの決闘に巻き込まれ、全員死亡。それによりずっと政務に穴が開いている状況だったようで……」
「なるほど。それで軍務大臣の貴殿が、代わりをすることになっていたのか」
「むむむむっ、無理でございますれば~~! わたくしめ、元々は戦場で敵殺しまくってただけの下級兵でございますよ!?」
あ、そうなんだ。まぁ軍務の大臣様だもんね。
あと敵殺しまくってたって。可愛いところもあるオジサンだと思ってたら、普通にやばい経歴ありそうだわ。
「うぅ……大臣を取り立てる権利を持つのは、国王陛下のみ。しかしシュバールは卿の襲撃以降、精神を病んでろくに仕事をしてなかったようで……」
「なるほど。つまり」
ヴァイスくんの言葉に、軍務大臣は「はっ」と答える。
「今や国政は穴だらけでございます。そこでヴァイス様。アナタ様には早急に国王となっていただき、政治体制を立て直していただきまする~ッ!」
――こうしてヴァイスくんは帰還早々、『第百代目国王』へと暫定即位。
全ては最悪の状態に近い王国を立て直すために。急ピッチで働いていくことになるのだった……!
◆ ◇ ◆
それから数週間。わたしは人を揃えるのに協力し続けた。
国が潰れたらわたしも貴族じゃなくなっちゃうものねぇ~。
「アンタ計算すごいから財務課いきなさい! アンタは喋りが上手いから外務課! そっちのアンタは街づくりの才能あるから民政課で区画整理とインフラ担当しなさい! はぁ? 経験がない? 自分にはできそうにない? 口答えしない! わたしがそうと言ったらそうなのよッ!」
『は、ハハァーーーッ!』
ここでわたしの異能『女王の照魔鏡』が大活躍した。
なにせ人の才能が見抜けるからね~~~。
役人たちを適切な部署に振り分けてフルパワーを発揮させるようにしたほか、市井やスラムからも徴用しまくってやったわぁ。
「おーーーーーっほっほぉ! 国を立て直す仕事なんて責任重大よねぇ!? 重苦しいわよねぇ!? そんなモンを突然与えられちゃって、アンタたちどんな気分~!?」
と言ったら、みんな拳を震わせていたわ。ざまぁないわね!
ああ、それから大臣の雇用についても、わたしが選んでやったわぁ。
ヴァイスくん――もとい『国王陛下』の権力を笠に着て、全ての貴族を呼び出してねぇッ!
ちなみに前の大臣だった者たちは全員上級貴族の当主たちだったから、連中が死んだ今、集まったのは辺境伯以下の雑魚貴族ばかりよぉ~!
わはは! 格下どもめッ!
「おーーーーーっほっほぉ! 名誉男爵から伯爵まで、わたしみたいな小娘一人に召集されて大変ですことぉ~! さらにアナタたちには災難なことに、これからは財力や家柄ではなくッ、能力によって大臣の地位を決定しますわぁ~~~! 上級貴族がやってたような大変な仕事を、いきなりアンタたちは任されるかもなわけッ! みなさまどんな気分かしら~~!?」
と言ったら、みんな怒りや恐怖からか唸っていたわぁ! 格下イジメ最高ぉ~~!
……というふうに、王城でもさっそく極悪ムーブをしまくるわたし。
勘違いによる『聖女』扱いを払拭するためにも暴れまくってやったわぁ~!
「残念だったわねぇアンタたち! 新たな国王の側に極悪令嬢がいることに、これから一生震え続けなさい!」
こうしてノリノリで王都での日々を過ごすわたし。
そんな折、わたしはヴァイスくんに呼び出された――。
◆ ◇ ◆
執務室にて。国王陛下ことヴァイスくんは、大量の書類に囲まれながらこう言ってきた。
「ご苦労。レイテ嬢の働きぶりは日々各所から聞いている」
「ぶえ!?」
か、各所って、わたしが面倒な仕事を押し付けまくった連中!?
「そして、方々から提案があってな……」
「あわわわわわわわわわわ!?!?!?!?」
ほほ、方々から提案って、まさか――虐げてる連中が、『あの性格ドブカス女を処刑しましょう陛下!』って言ってきやがった!?
ぎゃあああ~~~~~ざまぁ展開だ~~~~~~!
「ヴァヴァヴァヴァヴァイス国王陛下!」
「ヴァヴァヴァヴァヴァイス国王陛下だ。……厳粛な場以外は、ヴァイスくんでいいぞ?」
「ヴァイスくんヴァイスくん! ねぇ、わたしたちって仲良しよね!?」
「! ……ふ、何を今さら」
そうよねっそうよね! ヴァイスくんとは仲良しよね!
「ずっと友達よね!?」
「む……いや、ずっと友達関係なのは――」
あぁわかってるわッ! わたしみたいな性格ワルワルウーマンとズッ友はキツいわよね! 今だけの関係でいいの!
はぁ~~~……わたしの友達で最強下僕なヴァイスくん。でもそんな彼も今や国王陛下。
世論の99割が『レイテ・ハンガリアをぶっ殺せ!』で染まったら、それに従わなきゃなのが王という装置なのよ……!
それにわたし、あるごとに『わたしは国王陛下の代行であるのよ!』『わたしに何かしたら彼はどう思うか!』『わたしの身体は一人のものじゃないのよ!(一心同体的な意味で)』と権力借りてイキッてきたもの。
そんな極悪女を許せるわけがないわよね!? 処刑する気わよね? ひえぇ~~!
「嗚呼、まさに極悪令嬢の結末って感じね……! でもわたし、たとえ処刑後に時間巻き戻ったり転生しても、また極悪令嬢になるわ。人生が五回あったら五回なるわ」
「レイテ嬢には一回も無理だな」
ってもう一回なってるんですけどぉ!?
「極悪令嬢なう!」
「かわいい。ともかく話を進めるぞレイテ嬢。実は方々から、キミに対してこんな打診があってな――」
処刑ですねわかりますぅ~!
「キミを、『宰相にしてみるのはどうか』、だそうだ」
「ってファッ!?」
さ、さ、宰相!?
「宰相って、あの宰相!? 国の実質ナンバー2的な!? 王様の補佐役の最高責任者で、国を会社で国王陛下を会長とするなら、もはや社長的な……!?」
「的な宰相だ。ちなみに返事は?」
「む~~~~~~無理無理無理無理ィイイイッ! そ、それは流石に責任重すぎよっ! ミスったら国が傾くじゃない!」
別にそれで民が苦しむのはいいけど、わたしが無能者として晒し上げられるのはイヤよ~~!?
「わたし、悪女としては歴史に名を刻みたいけど、アホとして刻まれるのはイヤなの。アカンの」
「アカンか。みんなは是非にと推してくれていたのだが……」
わー! それ絶対にわたしへの復讐だ~~~!
わ、わたしがいきなり責任重大な仕事や役職を与えまくったもんだから、『あのカス女を同じ目に遭わせてやろう』ってざまぁ展開してきたんだぁ~~!
「こ、これが王都内政扁……! みんなわたしの隙を狙ってたのねッ!? いやーッハメられたあああああ!」
「いや、隙というか好きというか……。あとレイテ嬢、『ハメられた』という言葉をあまり叫ばないでくれ。外の待機中の兵士が誤解を…………いや、まぁいいか」
「えーん!」
と、わたしがこれから始まる『極悪令嬢没落扁』を思いピーピー泣いていた時だ。ヴァイスくんが肩をポンと叩き、「安心してくれ」と何やら言ってきた。
「ふぇ、ヴァイスくんへいか……?」
「ヴァイスくんへいかだ。いやなに、俺も無理に勧める気はなかった。キミには大切なハンガリア領の運営もあることだしな」
「ッッッ! そ、そうっ!」
わたしはやっぱり田舎の領地がお似合いなのよっ!(※今は幼馴染のケーネリッヒに領主代行させてます)
「田舎はいいわよ~~。のどかで野菜が美味しくて」
「よく聞く意見だな」
「雑魚民衆しかいないから虐げ放題で……」
「模範解答外してきたな」
ありがとうレイテ嬢、新しい視点をくれてとお礼されてしまった。
うふふ、いいってことよ。
「レイテ嬢の歪んだ地元愛はわかった」
「闇堕ちジモティーです」
「ジモティーに闇堕ち概念あったのか……キミからは学べることが多いな。いやそれはともかく」
彼は咳ばらいをすると、姿勢を正してわたしを見た。
「……『地獄狼』を壊滅させるほどの戦力が集まった地、ハンガリア。あそこを治められるのはレイテ嬢しかいまい」
ふふ、極悪オーラでビビらせまくってるからね!
「俺もキミを束縛するような男にはなりたくない。当初のやり取り通り、相談役がいいところだろう」
「そうねそうねっ!」
宰相様ほど責任はなくて、国王陛下とちょろ~っとやり取りするだけでオッケーな立場!
それも非常勤で、普段は地元から手紙とかで文通すればいいだけにしてもらう予定よ。ヴァイスくんには希望の勤務形態を話してあるわ。
「だがしかし、だ」
およ?
「相談役もまた上級役職の一つ。軍務大臣ゲッペルスや、キミが法務大臣としたシェオルドレットとも話したが、やはり慣例に従ってもらう必要が出た」
「慣例……?」
わたしの呟きに、彼は頷く。
「そうだ。政権の性能水準を保つためにも、どの国家でも上級役職に就くには、とある学園で一定以上の評価をいただかねばならない。その学園こそ――」
そして、国王陛下はその名を告げた。
「『聖アリスフィア学園』。あらゆる国家の新星が集う、貴族だけの学び舎だ」




