101:エターエンドのその先へ
「はァ、なんだよ」
荒廃したオーブライト領。
その残骸の中で膝を突いたヴァイスを見て、ザクス・ロアは理解した。
ああ――この男は完全に折れてしまったと。
だから。
「じゃ、死ね」
「かはッ――!?」
何の未練もなく無造作に。ザクスは大剣で、王子の胸を貫いたのだった。
背中から鮮血が噴き出した。破れた心臓の破片が散り、ヴァイス・ストレインは絶命した。
「……は、ぁ……」
「けっ。ちょっと奪い過ぎちまったなぁコイツから。ブチ切れて強くなるラインと、精神崩壊するラインを見極めなくちゃなぁ~次は」
ザクスは大剣を乱雑に振るい、突き刺さっていたヴァイスを無造作に転がした。
地にぶつかり、「ぐ……」と小さく呻く王子。
だがそれは生きているからではない。脳死するまでの間、衝撃を受けた肺が衝撃で反応し、空気を漏らしただけだ。
そう。いうなれば新鮮な死体という有様で。まだ脳だけは死んでいないが――それも数十秒の猶予だろう。
なにより、本人の精神はもうとっくに朽ちているのだから。とっくにヴァイス・ストレインは終わったも同然だった。
「――決着だな、ザクス」
終結の空気を感じ、仮面の男『虚無なるファビオライト』が声を掛けた。
それにザクスは「おー」と適当に返す。
「あの嬢ちゃんとヴァイス・ストレイン。女王と王を取ったんだ。この戦争は、『地獄狼』たちの勝ちだな」
まぁヴァンピのガキは死んでるかもだが――と。
ザクスは赤髪を掻きながらおざなりに言った。
「不機嫌じゃないか、ザクスよ。年齢ゆえに疲れを感じたか?」
「歳のことは二度と言うなボケ。――そうじゃなくて、単純に消化不良なだけだっつの」
そう言ってから、足元に転がった死体を雑に踏みつけた。
「期待よりかは成長してたさ。だが、予想外とまでは言えなくてなァ。それに、あの嬢ちゃんもあっさり死んじまったしよ」
「ああ。彼女の異能は『女王の鏡眼』――噂を聞いた限り、弱った臓器が見える程度だ。実際に闇の中、ただただ無力に苦しんでいたよ」
「はっ。つまんねー」
こうして――戦争は終わった。
結果は『地獄狼』の勝利である。
部下の損耗は確認していないが、圧倒的なナンバーワンとナンバーツーさえ無事なら、後のメンバーは取り換え可能。ゆえに何も問題なし。
「俺たちの勝利だ。じゃ、適当に残党殺して引き上げるぞ」
あとはもう消化試合だと――彼らはそう結論付けて、ハンガリア領に向かおうとするのだった。
だが。
「――まだよ」
「ッ!?」
その時だった。空間を突き破って現れた拳が、ザクス・ロアの顔面を殴り抜いた――!
「ぐがァアアァァァーーーーーッ!?」
「ザクス……!?」
戦場の餓狼は転がるように吹き飛んだ。
拳自体が強力だったわけではない。むしろ、鍛え上げられたザクス・ロアからしたら、虫の刺したような一撃だった。
だというのに――ザクスは全力で威力を軽減するために、自ら吹き飛んでみせたのだ。
「は……嘘、だろ……?」
手を当てて、呆然とする。
小さな拳を受けた横顔が――砕けていた。
皮膚がひしゃげ、骨が四散し、筋肉が無惨に断裂していた。
全力で受け流してもソレだ。もしもまともに当たっていたら――いや。
それ以前に……!
「嘘だろ……嘘だろッ、嘘だろ嘘だろ嘘だろ嘘だろォオオーーーーッ!?」
呆然。困惑。痛苦。混乱。驚愕。そして喜悦――!
空前絶後の事態を前に、ザクス・ロアは最終的に、狂ったように笑って喜んだ。
この理不尽な意味不明を前に、彼は両手を広げて喝采を上げた――!
「おまえマジかよッ、レイテ・ハンガリア――――ッッッ!?」
「約束したからね」
かくして終極は覆る。
空間と闇がガラス片のごとく砕け散り、虚空より少女は舞い降りた。
「ザクス・ロア。アンタをブン殴ると言ったでしょう?」
幼くも麗しき辺境領主――レイテ・ハンガリア。
澄んだ蒼き放射光を全身から放つ姿は、まさに女神のようで……否。
「この極悪令嬢ッ、レイテ様が帰ってきたわよォッ!」
全ては勝利を手にするために。
絶望を超え、極悪なる少女は、闇の底から舞い戻ったのだった。




