4 待って、私惚れ薬飲まされてたの?!
「ただいま、アリサ。これ、グレアム様からもらったんだけど……、ちょっと食べるのが嫌なのよね」
「おかえりなさいませ、ニアお嬢様。あら、グレアム様からのお菓子、いつも喜んで食べていたじゃないですか。……お腹の調子でも?」
家に帰ると私専属のメイド、アリサが出迎えて鞄を受け取ってくれた。一緒にいただいたクッキーも手渡すと、不審そうに首を傾げて聞いてくる。
そう、私はグレアム様からのお菓子は大体一人で食べていた。というか一人で独占していた。が、今はどうにもこれが気味が悪くて仕方ない。
「ううん。……どうしましょうか。食べ物を無闇に捨てるモノではないし……」
「……捨てるくらいならもらいますよ?」
「ダメよ。うーん……、あぁ、お祖母様に見てもらいましょう」
お祖母様はこの家の離れに住んでいる。離れといってもいくつも部屋がある屋敷で、そこにメイドも5人ほど毎日詰めている。
優しく温和だけれど、元は宮廷魔術師だったので、この家で一番怒らせてはいけない人だ。
「えぇ、そんな! 別に毒入りという訳じゃないんですから……」
「そこが怪しいから見てもらうのよ」
アリサはまだ少し不満げだ。せっかくの美味しいクッキーが自分の手元にくるチャンスが遠ざかっていくのが惜しいのだろう。
私は小さく笑うと、なんでも無かったらコレで一緒にお茶にしましょう、と言って制服姿のままお祖母様の元へ向かった。アリサはその一言で機嫌を直したようだった。
逆に、何かあったらそれはそれで、一緒にお菓子とお茶で一息つきながら愚痴でも聞いてもらおう。メイドは守秘義務が基本、友人には話せない。
離れと言っても家から渡り廊下で尋ねることができる、別棟と言う方が正しいのかもしれない。
私はお祖母様に来訪を告げると、すぐに居間に通された。
因みに、あのペンダントを形見として分けてくれた祖父は、歴代のドンソン魔術師団長の座を奪った凄腕の魔術師だ。祖母とは職場恋愛での結婚である。
残念なことに私に魔法の才能は無い。息子である父にもだ。逆に不思議な位だが、祖母は「あの人の力は全部それにいれちゃったからねぇ」と私が貰ったペンダントを指して言っていた。
今ならその言葉の意味がわかる。時間を逆行させるなんてとんでもない魔法だ。それを祖母じゃなく私に渡すあたり、この事態を想定していたのでは無いかとすら思う。
「いらっしゃい、ニア。……あら、あんた、2回目だね?」
「ごきげんようお祖母様。……やっぱり、お祖母様には分かります?」
「魂と肉体の年齢にズレがあるよ。今日はただお喋りに来た訳じゃないようだね」
お祖母様も大概すごい。一目で見破られたが、お祖父様のペンダントの事を知っていたなら予測できる事態なのかもしれない。
紅茶を淹れてもらい、メイドを下がらせて二人きりになると、私はお祖母様に例のクッキーを見せた。黙って。
「あら、これはまぁまぁ、愛のこもったクッキーだねぇ」
「愛のこもった……?」
言いながらもお祖母様はクッキーに手を出そうとしない。私は嫌な予感が的中して、眉間に皺を寄せた。
「こんなピンク色でけばけばしいクッキーは身体に良く無いから食べちゃいけないよ」
「でも、捨てるのも……」
「惚れ薬の入ったクッキーなんか食べてはいけないよ、と言ってるんだよ」
私はポカンとした。
だってこれを渡してきたのは、もうとっくに婚約しているグレアム様だ。なぜ、私に惚れ薬を?
「2回目でこの薬の効果も切れたんだね。婚約してるし、今まではいいかと思って黙っていたけど……ニアがミストの所の坊主からもらってくるお菓子は全部、惚れ薬入りだったよ」
「私、惚れ薬飲まされてたんですか?!」




