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21 ヒロインの化けの皮

 その週末、バズ殿下に招かれて私といつものご一行とで城の地下牢に向かいました。


 私が1回目で閉じ込められた牢屋の中に、彼女がいます。どこか諦めた空虚な目が、私を見て見開かれたのはちょっとビックリしました。


 彼女は手段が目的になってしまっています。完全に。私を排除する、私憎さの行動にすり替わっていたようです。


「魔術師の言によると……彼女も一種の副作用にあるようだ。とても強い薬の。……私の方でも調べてみたが、アリアナ・ヴィンセントという女性はいなかった」


「は?」


「いないんだ、ヴィンセント家に我々と同い年の令嬢は」


 では一体彼女は誰だというんだろう?


 私は無意識にタリスマンに手を当てていました。その疑問に答えるように、胸元でタリスマンが光ります。


 恐る恐る薄暗い地下牢で光るタリスマンを取り出すと、アリアナ嬢は、いやぁ! と悲鳴をあげて顔を隠しました。


 タリスマンは守護の力。あらゆる『毒』からも身体を守ってくれる護符ですが、アリアナ嬢にとっては『薬』でも、それは確かに毒だったのでしょう。


 彼女からずるりと粘土のようなものが剥がれ落ちていきます。顔を隠した腕からも、顔からも。背が丸くなり、身体は弛み、髪が傷んで白くなっていく。


 光が収まった時に彼女は別人になっていた。


 どうみても70歳は過ぎている老婆の姿で、自分の手で顔に触れ、シワシワの手を眺め、顔を覆って泣き始めた。


「あぁ……憎しや、憎しや……! 全部、全部私が手にするはずのものを……!」


 いやいや、何も私は手にしてないですし。完全に自滅ですって。


 私は惚れ薬(劇薬)で人生が狂ったけれど、彼女もまたそうではあれど、自分で作った物でしょう。


「……アルメリア・ヴィンセント。だと、推測される。本来なら30代のはずだが、ヴィンセント家の当主の妹、独身……、彼女は彼女自身で若返りの薬を服用していたようだ」


 その副作用で、脳が短絡的になり、身体がこんなに老けてしまった、と。


 惚れ薬(劇薬)も私の精神に多大な影響を与えたことを考えると、体に大きな影響を与える薬を服用すれば、これは当然かもしれない。


 やった事がやった事だけに、彼女に待っているのは死罪だろう。現当主も子爵ではいられなくなるはずだ。


 グレアム様は、この相手から薬を取引して渡されていたこと、それを私に使ったことを悔やんで顔を歪めている。


 他の面々も痛々しそうに彼女を眺めていた。これ以上、この場にいても何も収穫は無い。


 アルメリアは牢の隙間から私に向かって手を伸ばした。何かを懇願するような、縋るような仕草。


 私の持つお祖父様のペンダントの力なら、彼女をせめて元の年齢に戻す事は可能だろう。


 薬師団も魔力が無ければ務まらない。いい薬というのは、魔法で精製するものだからだ。


「ダメよ」


 私は自分で思っているより固い声で答えた。ペンダントを隠すように握る。


「あなたは最初から間違えた。あなたの意思で。できるからといって、やっていいことと悪いことがある。だから、ダメ」


 そう。いくらこんな優良物件が揃うからといって、見た目も年齢も名前も偽り、惚れ薬(劇薬)を使おうとした。


 1回目も2回目も、この人は間違えた。だから、ダメだ。この人を救おうなんて烏滸がましいことはできない。


 私はこの人の心まで救えないし、この人を反省させることも、間違えないようにと思わせることもできない。


 自分のことならできる。だから、今、みんな無事で、私もなんとか無事で、学生をしている。


「さようなら。アルメリア、できれば……苦しまないで」


 それだけは、願っておこう。


 私も間違えた一人だから。いくら外的要因があったからとはいえ、ここに私は確かにいた。


 アルメリアが、苦しまなければいいと思う。烏滸がましいけれど、それだけは願いたかった。

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