13 惚れ薬対策指南の2、一人行動の時間を減らす!
何故、私のため? と、一人ポカンとしていると、先程までしょんぼりしていたグレアム様が居住まいを正した。
「教室は常に俺が見ている。幸い同じクラスだ。ニアは友人と過ごしているから滅多なことは無いだろうが、教室にいる限りは俺がなんとかする」
それにご一同頷かないでくださいませんかねぇ?! この人元加害者ですよ! ね?!
「朝は……私が早くに登校しているから、朝の鍛錬を切り上げて教室まで送ろう」
ルークス様が続ける。どういう事だ……私は一体何に巻き込まれているんだ……?
「ランチやら中休みやらは僕がさりげなく近くにいるよ。一番油断してる時だろうから咄嗟にでも魔法で助けられる」
ミュカ様のおっしゃる通り、休み時間はどうしても移動したり人混みに入ったりしますけど……?
「では私は放課後にお送りしましょう。遅くまで聖堂におりますから、先にニア様を門まで送り届けて戻ります」
ムーア様まで一体何を……?
「私はヴィンセント嬢に目を配っておく。同じクラスだ。——ニア嬢、君が話してくれたことは国にとっても大問題だ。今は摘発材料にはならないが、父上に掛け合う必要がある。ミスト殿からの差し入れは持っていないか?」
「あ、あります」
一応信じてもらえなかった時の物証として、一番新しいマドレーヌを持ってきてある。
パズ殿下に言われるままそれをお渡しする。不思議そうに眺めているが、どこからどう見ても普通のお菓子に見える。
「うわぁ、目を凝らしたらわかるけど……本当にピンクだ」
ミュカ様がじっとバズ殿下の手元のお菓子を見て呟く。やはり魔法の才能がある方には見えるんだ。
ムーア様もじっと見つめて、少し嫌そうに眉を顰めた。彼にも見えているようだ。
他3人は見えていないようだし、このお二人もプレゼントを貰ったからといってその場でまじまじ眺めるのは得策ではない。変な噂が立ってしまう。
「あくまでさりげなく受け取ってさりげなく……どうしましょう。どこで受け取りましょうか?」
「では放課後、聖堂に皆さん持ってきてください。お送りする時にニア様にお渡ししますので。聖堂は心に怪しいものがある方は自然と足が遠のきますので、ちょうどいいかと」
確かに、神の目の前で怪しいことをしようという人はいないかもしれない。ムーア様の提案に各々頷く。
「ニア嬢はなるべく一人にならないように。我々はまだいい、男だからなんとかできるし、差し入れの類も君が解決してくれた。が、すでに命を狙われているのだから、一人行動は避けてくれ。先程の要領で我々が君を守る」
「お気遣い感謝します、皆さま」
確かに、今日だけで2回命を狙われているし、私もこの会議室を出たらどうなるかと恐れてはいた。
私が守らなければ! と、思っていたのに、実質は私が守られてしまうようだ。やっぱり騙されているふりをして惚れ薬(劇薬)のお菓子を貰い続けるべきだったかもしれない。
それでも、嫌なものは嫌だし、美味しいお菓子を台無しにされるのも嫌。惚れ薬なんてなくても、婚約しているのだからそのままいけば結婚していたのに。
安心できなさすぎてミスト家に嫁ぐのはもう無理だ。8歳の子に惚れ薬(劇薬)を与えるのは大問題だ。グレアム様の両親が恐ろしい。嫁いだ所で安心してご飯が食べられない。機嫌を損ねたらイコール死ぬ。この恐怖は間違っていないはずだ。
グレアム様もその辺はわかって……るよね? さすがにこの件が片付き次第、ミスト侯爵はもう侍従長ではいられないからね?
「では、帰りましょうか、ニア様」
「あ、はい、ムーア様」
はて……、仕方がないこととはいえ、これ、1回目のアリアナ嬢ポジションではなかろうか。
私はざまぁされる道からどんどん遠ざかっている気がする……、何も知らない時にたてた目標とはいえ、これじゃ私が高級ブティックもビックリラインナップの方々と親しくなる事に……。
ざまぁ、されるのを諦めてもいいですかね? 婚約破棄はしますけど。
私はどうざまぁされようか悩みながら、ムーア様に送られて帰りの馬車に乗り込んだ。




