12 惚れ薬対策指南、差し入れは我が家で鑑定します!
「本日は突然のお声がけにも関わらず、集まってくださいましたこと感謝いたします。あらためて、ニア・ユーリオと申します。お見知り置きを」
集められた面々は互いに面識はあれど、共通点が見つけられず戸惑った顔をしている。グレアム様にも事情は話さず、とにかくついてきてください、と言って引っ張って来た。
今やほとんど忠犬になりつつあるグレアム様は当たり前のようについて来て、この顔面偏差値と身分や役職の高い御家柄の方々を見て勝手に落ち込んでいるが、こちとらそれどころではない。
1回目で私は思ったのだ、間違わないのに、と。その1回目の時に間違えたのは私のせいではなく、巷に出回る惚れ薬(偽薬)ではなく惚れ薬(劇薬)のせいだと知っている。
ざまぁはされたい、だがそこはアリアナ嬢の魅力でもってグレアム様を落としていただきたい。私は塩対応を続けるので。8歳の頃から薬を盛ってくる婚約者はお断りだ。
取り巻きの皆さんも私と同じ被害者だったと想定される。(グレアム様含む)しかし、それは1回目の事。私はその部分を説明も証明もできないので、グレアム様から得た情報を元に皆さんに『お願い』することしかできない。
「皆さんはお互いのご両親がどのような仕事に就いていらっしゃる方なのか、重々承知であるかと思います。そして、跡を継ぎたい、そう思っていらっしゃると私は思っています。ここまで、特に反論はございませんか」
皆一様に頷く。世襲制では無いにしても、自分の親を超えたいとか、自分が跡を継ぎたい、そう思うには充分な功績を持つ方々の御子息たちだ。
「私も皆様をその様に思って尊敬しています。ただ、この学園という場所は貴族の子息令嬢の集う場所。子供といえど、油断のできない場であることを今一度ご注意いただきたく、こうして集まっていただきました」
いまいち要領の得ない私の話に、グレアム様だけが顔を青くして私に向かってそれだけはと口をパクパクさせています。ダメです、言いますからね。
「私自身、婚約していたからと安心して、そちらのグレアム様からいただいたお菓子を食べていましたが……その中に薬を盛られていました。8歳の頃からです。先日その事実を知り、できれば金輪際口も利きたく無いのですが……、この国の未来のためにそうも言ってはいられません」
ざわつき、訝しみ、私を心配そうに見ながらもグレアム様に非難の視線を送る。グレアム様は頭を抱えて突っ伏していますね、やった事はやった事です。
「それは……身体はなんともないのかい? 元気そうに見えるが……、そんな長い間何を盛られていたんだい?」
「そうだ。こんな子女に幼い頃から……幻滅したぞ、ミスト殿」
「悪い物は感じないけど……解毒は済んでるんだろう?」
「私にも特に何も感じられないのですが……一体、何が?」
皆さんの興味を充分ひいたところで、私は深呼吸した。
「惚れ薬です。……巷で出回っている物ではありません。以前、宮廷薬師団から追放された家系の方が作る、精神に作用する本物の惚れ薬です」
「まさか!」
バズ様は心当たりがあったのでしょう。王家の方なら、その家名の方は要注意人物と分かっているはずです。それなのに1回目は、彼女からの差し入れを口にしている……、私の一つ目のお願いの意味が、段々と会議室に浸透していく。
差し入れをもらったら、誰からの物かメモを書いて入れて私に1日預ける。
そう、直接渡すとは限りません。学友に恥ずかしいからと託す事もあったでしょう。
「宮廷薬師団から追放されたのは、ヴィンセント家……アリアナ・ヴィンセント子爵令嬢が、何の因果か、この将来の国を背負うに相応しい方々揃い踏みのこの年に、同い年で、学園に通っています。グレアム様に二度と薬を使わないようにと言ってすぐ……つまり今朝、私は頭の上に鉢植えを落とされました。中休みの時には階段で上から体当たりもされました、事故という事になっていますけど」
ね、とミュカ様を見ると、驚いた顔のまま頷く。彼は鉢植えの目撃者であり私を救ってくださった方なので、信憑性はばっちりだ。
「グレアム様が私に使っていた薬を……つまり私が本物の、マジものの、ヤバい方の惚れ薬の存在を知ったから消しに来た。それは、少なくともバズ殿下や……他に考えうる限りだと皆さんに使うつもりだと思われます」
正直、この会議室から出た後私は無事に今後の学園生活を送れるか分からない。
絶対に監視されている。が、こんな大人数を3年間協力も無しに見張れるはずもない。
「ですので、皆さま。一つ目のお願い事は遵守してください。私の祖母は以前魔術師団に所属していました、惚れ薬の入った菓子も見分けがつきます。無事な物はお返ししますので、必ずお願いします」
ふぅ、これで私の肩の荷は降りた。と、思う。信じてくれなきゃどうにもならないが、そこに元実行犯が私がやりましたという顔で座っているから信憑性もばっちりだ。
「では、ニア嬢のための作戦会議にうつろう」
はい?
バズ殿下の突然の提案に、唖然としたのは私だけだった。




