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11 惚れ薬被害者の会(仮)バズ・アルグレイア王子

 そういえば肝心要の会議室を押さえるのがまだだった、と気付いたのは二限目が終わった頃だった。


 この休み時間は少し長いので生徒会室に放課後会議室を借りたいと申し入れに行く事にして、友人の輪を離れて生徒会室に向かう。


 ついてこようとするグレアムさまを視線で着席させる。グレアム様への塩対応はまだ続いているが、ランチは約束しているのだからいいだろう。


 惚れ薬(劇薬)を盛られていた身としてはそれを理由に婚約破棄してもよかったが、グレアム様もアリアナ嬢にとっては有用なコマだ。ことが終わった後に穏便に相手有責で婚約破棄すればいい。


 ……私ははやくこの舞台から退場して、もっと平和で平穏で温厚で私狂いじゃない素敵な方と婚約したい。だが、知ってしまったからには動かなければならない。


 知ってしまった方法が、『2回目』という反則技なせいでお祖母様にしか相談できないのが辛い所だ。両親には魔力は無いし、そもそも国家転覆も私とお祖母様の想像でしかない。


 何もかも状況証拠。今はまだ……、しかし、今日の話し合いで惚れ薬入りのお菓子をアリアナ嬢から受け取る人がこのメンツの中に多数出てきたら、ほぼ確定だろう。


 撒き餌のようで申し訳ないが、彼らは目立つし、はっきりいって優良物件揃い踏みだ。グレアム様も惚れ薬さえ盛っていなければ私は何の不満もなく嫁いだというのに。


 と、生徒会室についたので、ノックをして「どうぞ」と返って来たので中に入った。


 中には金髪碧眼のバズ殿下がお一人でいらした。なんたる僥倖。ありがとう神様、神様は私の味方ですね。お祖父様かもしれないけれど。


「殿下……、生徒会にもう入られたのですか? あ、失礼しました。ニア・ユーリオと申します」


「学園で殿下はやめてくれ。バズで構わないよ。……父の命でね、早くから人をまとめる仕事をしなさいと」


「そうなんですね……、大変ですのね、バズ様も。あの、放課後会議室を借りたいんですが、その時バズ様にも来ていただきたいのです」


「私も? 会議室は空いてるから構わないよ、新学期も始まったばかりだから借り手はそういないようだ。……私に何の用かな?」


「詳しくは会議室で……2つのお願いがありますの」


 こうして私は会議室の鍵をゲットし、バズ殿下にも早々にお願いができた。順調に物事が進んでくれて助かる。


 彼は不思議そうにしながらも内容に頷いてくれ、放課後にまたとお願いして生徒会室を後にした。


 私は朝殺されかけたことを思い出し、なるべく廊下の壁側を歩き(校舎の中央は吹き抜けになっている)、階段も手摺りを使って降りた。


「きゃっ」


「っおっふ」


 先の可愛らしい悲鳴がアリアナ嬢で、後の令嬢らしかぬのが私だ。アリアナ嬢、突き落とすのは無理と見て自ら私に向かって落下して来ました。怖。


 手摺りを掴んで一歩前に足を出してかろうじて耐えたものの、背中に走った衝撃もかなりのもの。


 同じような体型の女子が10段は上から落ちて(体当たりして)きたのだ。


 茶色の巻毛に緑の瞳の可愛らしいご令嬢は、ひどく申し訳なさそうにしながら耐えた私に一瞬嫌な視線をくれた。


 は~……状況証拠でいいなら真っ黒なんだけどなぁ。


「だ、大丈夫ですか? すみません、すみません、まさか階段から足を踏み外すとは思わず……!」


「お気になさらず、アリアナ様。ヴィンセント家の方ですよね、グレアム様からお話はよく伺っています」


「まぁ、私をご存知なのですか?」


 白々しい会話だ、と思いながら、私はカマをかけてみることにした。


 1回目とはかなりズレてきてる。3年間殺人未遂の嵐に晒されるのは勘弁して欲しい所でもある。早々に解決したい。


「あら、アリアナ様。手に何か……土汚れでしょうか? ついておりますわ」


「! ……あらやだ、手を洗いませんと。お怪我がなくて安心しました。失礼しますね」


 そそくさとアリアナ嬢は去っていった。土汚れなんてありませんでしたけどね。状況証拠で以下略、はぁめんどくさい。


 今日の会議を終えれば、私の懸念も少しは晴れるはずだ。そして、決着が早く着いてくれないと……私の命が危ない。


 惚れ薬(劇薬)を飲んでるフリをした方がよかったかな、と思いながら、あんな物飲まされてるフリをするのはごめん被りたい。


 どうやったら私はさくっとざまぁされつつ、彼らのような将来国の要職につく人たちを守れるだろうか。そんな事を考えている間に放課後がきてしまった。


 ノートは後でグレアム様にでも写させてもらおう。

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