第2-30話 『真実』
勉強……!
それは学生ならば絶対に避けては通れない道である。
道ではあるが……。
「……勉強かぁ」
イグニは自室の机を前にして溜息をついた。
隣ではユーリが黙々と勉強している。
イグニが溜息をつく理由は1つ。
イグニはここまでまともに勉強してきたことがないのだ。
タルコイズ家にいた時もルクスに会いに家を抜け出していたし、そのあとの3年間もまともに勉強していない。
入学試験も筆記なしで通ったのでガチで勉強してきていないのである。
なので、溜息をつく。
ついてもどうしようもないが、つかなくてもどうしようもないのでとりあえずついておく。
「…………」
イグニは歴史の教科書を置いて、魔術幾何学の教科書を取り出した。これはいわゆる『魔術陣』の作り方や、魔力の通りやすい材質を使った『通り道』の作り方を勉強できる本である。
「……さっぱり分からん」
そもそもイグニは『ファイアボール』しか使えないので『魔術陣』の勉強をする意味がないのだ。
意味がないというか勉強しても使える魔術は『ファイアボール』だけである。
その事実がイグニのやる気を奪っていく。
「…………どうしよ」
「どしたの? イグニ」
「いっ、いや。何でもない」
白髪の少女……じゃなくて少年がにっこり微笑む。
困った時は相手を頼れと言うがユーリもユーリで勉強である。
邪魔する男はモテないしなぁ。
「勉強、教えてあげようか?」
「……良いのか? ユーリだって勉強しないといけないし」
「人に教える時が一番記憶に残るんだよ」
「そうなの? じゃあ、お願いしようかな」
そういってイグニは魔術幾何学と材料魔学の教科書を取り出した。
「……頼む」
「うん。任せて」
ユーリはそう言って勉強を教えてくれた。
ユーリが教えてくれた内容はとても実践的だった。
軽く基礎を抑えた上で、テスト問題や授業で出題された問題だけをやっていく。基礎問をやっていないが……それでもユーリの教え方が良いのか、だんだんと問題は解けるようになっていく。
「イグニ。暗記じゃなくて理解が大切なんだ。だから、解き方を理解しておけば問題なんて忘れても良いんだよ」
「はぇー……」
流石は村の中で神童と呼ばれていただけはある。
イグニは理系科目の理解をどんどん進めていき、何とかそれなりの点数を確保できるところまではやってきた。
「うん。こんなところかな」
「おぉ……。わ、分かる……。問題の解き方が分かる……っ!」
イグニは教科書を見ながら叫ぶ。
「こ、これなら……行けるぞ……!!」
「計算系の科目はいいけど……。暗記系の科目どうする?」
「……うぃ」
イグニは変な声を上げた。
「魔術薬学、歴史学、古典……はちょっと違うかな。でも古代文字は暗記しないとだし……」
「…………ガンバル」
根性論でどうにかなるような問題ではないのだが。
(……ないのか。何か……。じいちゃんの教えが……っ!!)
イグニは脳裏に意識を傾けて記憶を採掘する。
……だが、何も光らない。脳は何も煌めかない。
(……だ、駄目か? どうしようもないのか……!?)
イグニはそして記憶を探っているが出てくる記憶はビンタされたり、崖から突き落とされたり、魔術禁止でモンスターと戦わされたクソみたいな記憶ばかり……。
(……いや、待て)
ふと、イグニの思考は立ち止まった。
(どうしてこれらは覚えてる?)
印象的だったから?
確かにそれもあるだろう。
だが、それだけじゃない。
それだけじゃない何かがあるはずだ。
(…………あっ)
イグニは1つの仮説に当てはまった。
いや……まさか……。
で、でも……。
本当にそうなのだとしたら……?
た、試してみる価値はあるのか……!?
「イグニ、どうしたの? そんな顔して」
「ユーリ、頼みがある」
「えっ、えっ!? ど、どしたの急に? 暗記はボクじゃだめだよ……?」
そういって教科書で口の下を隠すユーリ。ああ、可愛いな。
じゃなくて……。
「俺を、ビンタしてくれ」
「……えっ?」
真顔でとんでもないこと言いだしたイグニにユーリは困惑。
「ビンタしてくれ」
「ちょっ、ちょっと!? どうしたの!!?」
「痛みとともに覚えれば……忘れない……かも、知れない……!!」
イグニ、渾身の閃きである。
「………………」
ユーリは沈黙。
「……だ、駄目?」
「ううん。イグニ、確かにそういう記憶術はあるけど」
「あるの!?」
思わず素が出るイグニ。
「友達はビンタできないよ」
そういってユーリはにっこり笑った。
……可愛い。
仕方ないのでイグニは指先を『ファイアボール』で炙りながら暗記した。
試験は何とかなった。
――――――――――
大地の果て。
人の住める果ての果てには、人が入れない未踏破領域が広がっている。
『魔王』の魔力によって変質した大地は通常の大地とは違い、紫と黒に染まり、普通の植物が育たないそこでは、魔力によってモンスターと化した植物たちが根を張っている。
そこに紡がれるのは独特の生態系。
「ローズ様。浄化をお願いいたします」
「ええ。フローリアは周囲の警戒をお願い」
そして、『魔王』の大地は通常の大地をじわじわと浸食する。
「少し……時間がかかります」
ローズはそう言って『魔術陣』を構築し始める。
流石の【聖:S】も大地の浄化を自分の力だけで成すのは困難だ。
「『浄化』」
ローズの詠唱によって、『魔術陣』に魔力が蓄えられていく。
それを見つけたモンスターたちがローズに近寄ってくる。
フローリアはそれを片っ端から撃ち殺す。
「『浄化』」
何度目かの詠唱のち、ローズは『魔術陣』にこもっている魔力を解放。
ぱっ! と、白い光が輝くとともに、半径10キロの範囲を浄化した。
「移動しましょう」
「……そうね」
顔が青ざめる。
「気分が悪いわ……。つわりかしら」
「ローズ様。そんなに早くつわりは来ません。魔力が枯渇しかかっているからです。少しお休みください」
ボケているのか本当なのか、よく分からないことを言いだす聖女にツッコミを入れる騎士。
「……『魔王』。死んでもなお、人類を追い詰めるなんて……」
ローズはフローリアに抱きかかえられながら、『魔王城』があるとされる方向を見た。
「……一体、どんな化け物だったの」
そういって馬車に乗りこんだ。
現在『魔王城』には、誰もいない。
ただの、骸があるだけだ。
『魔王』亡き後、生き残った四天王と魔王の腹心たちのいくつかは『魔王』の死体を持って帰り、生前の魔王が好んでいた『魔王城』の庭園に死体を埋葬し墓を建てた。
だが、魔力を出しているのは『魔王』の死体ではない。
彼は最強だった。しかし、敗北した。
彼に敵はいなかった。しかし、勇者に討たれた。
もし、『魔王城』まで向かい魔力の痕跡を辿れば……気が付くだろう。
『魔力』は庭園からではなく、『魔王城』の中心から溢れているのだと。
魔王城の最奥、そこにはたった1人。
魔王が愛した娘がいる。
魔王亡き後、四天王の1人によって最強の防御術により……時の止まった結晶の中で眠り続ける少女がいる。
それが、全ての元凶である。
かつて、『魔王』という存在がいた。
歴史に名を残し、多くの人種を絶滅させた彼は未だに人類に恐れられている。
しかし、彼は既に歴史の残滓である。
人類の敵は彼ではない。
“魔王の娘”サラ。
人類の敵は、彼女である。
To be continued!!
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これにて2章終わりです!
次回からは3章のスタートです!
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【明日は更新お休みです。日曜日からまた復活します】




