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【Web版】極点の炎魔術師〜ファイヤボールしか使えないけど、モテたい一心で最強になりました~【漫画3巻発売中!】  作者: シクラメン
幕後

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【幕後】ガルネッタの湯煙を:中

「えぇ!? 温泉に入れない!? なんで!!」


 岩肌にかぶせるようにして生み出された砦に入ったイグニたちが聞いたのはイリスの絶叫だった。


 イグニたちを出迎えてくれたのはガルネッタ家当主。

つまりはイリスの父親である。


 長旅で疲れているだろうから……と、言って温泉へと案内しようとしたイリスだったが、それを諌めたのが彼だったのだ。曰く、温泉に今は入れないと。


「うむ。先月あたりから急にお湯が枯れたのだ」

「お湯が枯れた……? そんなことがあるの?」

「いや、無い。モンスターの仕業だ」

「モンスター? 倒せばいいじゃない。ていうか、温泉を枯らすモンスターなんているの?」


 イリスがそういうと、ガルネッタの当主は深く頷いた。


「いる。お前もよく知っているだろう。この世には、ただそこに存在しているというだけで世界を書き換えるモンスターがいることを」


 その言葉に合点が言ったのか、イリスはハッとした顔になる。

 

 イグニも彼の言葉の使い方で遠からず、何がガルネッタ領にやってきたのか理解した。

 

 そうだ。この世界にはいるのだ。

 ただ、そこにいるだけで周囲の環境を書き換え我が物顔で闊歩するモンスターたちが。


「……ドラゴン?」


 イリスが小さくそう尋ねると、彼女の父親は首を縦に振った。


「そうだ。『渇竜ガランド』という名前らしい。周囲の環境を乾かせ、ありとあらゆる養分を吸い上げるらしい」

「倒せないの?」

「無理だ。そんな力は我が領にない。だから、かの竜がどこかに行くまで待つしか無いのだ」


 ひどく疲れた様子でそういったイリスの父親が深くため息をつくと同時に、イリスがイグニを振り返った。イリスだけではなく、アリシアとユーリ、それにサラまでがイグニを見ていた。


 ん、竜か。竜くらいなら別に良いか。


「ああ、じゃあその竜を追い払いますよ。俺が」

「君は……?」


 イリスの父親が微かに光る眼でイグニを見つめる。


「イグニです。“炎の極点”の」


 これ以上ない端的な自己紹介だったが、それはもう効果てきめんだった。

 彼の父親は落雷でも食らったかのような衝撃でもって飛び上がると、そのままの勢いでイグニのところにやってきた。


「きっ、君がイグニ君か! 噂は色々聞いているよ! 娘からも話はよく聞いている。というか、娘からの手紙の八割は君のことだ」


 イリスは親に送る手紙に何を書いてるんだ……?


 イグニは心の中で首を傾げながら、差し出された手を取った。

 

「若くして『魔王』を倒した実力者だと聞いてるよ。そうか。君が来てくれていたなら、安心だ」


 イグニの手を両手で掴んでブンブン振る領主。

 こうして見るとイリスとそっくりだ。


「しかし、良いのか? ドラゴン撃退など、そう簡単にできることじゃないだろう……」

「何を言ってるのパパ! イグニ様を馬鹿にするのは許さないわよ!」

「い、いや。馬鹿になどしていない。しかし、ドラゴンを単騎で屠ったのは“極点”たちと言えども“極光”のルクスだけだろう?」

「イグニ様はそのルクスの孫よ!」

「えぇッ!? そ、そんなことが……ッ!!?」


 両手でイグニの手を掴んだまま信じられないといった具合でイグニの顔を見るイリスの父親。イグニは一体いつになったら手を離してもらえるんだろうとぼんやり考えた。


「“極光”のルクスといえば私たちの時代の英雄だ! そうか。あの方の孫か! 確かに言われてみれば顔立ちが似ている……!」


 そして、勝手に感激しているイリス父。

 

「それなら安心だ……! お願いしてもいいか! イグニ君!」


 ここまで来れば乗りかかった船……というか、温泉にも入っていないのに帰れるはずもない。イグニはもちろんと言わんばかりに頷いた。


「えぇ、任せてください。ドラゴンくらい余裕ですよ」


 無論、その言葉に嘘はない……はずだった。




 さて、ぞろぞろとドラゴン討伐に行くのも危ないということで同行者は誰よりも土地勘のあるイリスだけということで初めての2人で遠征である。最初はアリシアも来たがっていたが、イリスが「私一人で十分よ!」と言って譲らないものだから、結局アリシアが折れてイリスだけになったのである。


「イグニ様! あっちですよ!」


 そう言うイリスはイグニの腕の中である。

 『渇竜ガランド』がいるのは、ガルネッタ領の中でも更に奥。

 南方連合との国境沿いにある火山にいるのだという。


 しかし、そんなところまで歩いていたら十数時間はかかる。

 だから、イグニは『装焔機動アクセル・ブート』で飛んでいくことにしたのだ。


「……すごい自然だな」

「ガルネッタ領は本当にほとんどの土地が未開の土地なんですよ。なんとか住める場所に集まって生活しているんです」


 イリスがそう言って地面を指差すと、そこには山間を縫うようにして十数軒の家が固まってできた小さな集落があった。

 その真上を飛翔しながらイグニは白い息を吐き出す。


 もう春先だというのに、標高が高いからか気温が低い。

 しかし、そこまで飛ばないと山を超えられないのでイグニとしてはその高度を飛ばざるを得ないのだ。


「見えました! あれです!」


 イグニが高い山脈を超えた瞬間、イリスが指差したのははるか遠方に見える大きな山だった。地平線の先に存在しているのにも関わらず、圧倒的な存在感を放っている。


「いつもなら煙を吐いているんですけど……。『渇竜』のせいで噴火活動が止まっちゃったみたいで……」


 生まれながらにして魔術式そのものでもある竜は、存在しているだけで世界を書き換える上位種族だ。その存在は天災にも例えられ、人智の及ばぬ災いとされることも少なくない。


 だからこそ、そんなものを討伐できるものは英雄であり、人の果てに連なるものだけなのだが。


「そこら辺にいる竜くらいならどうにかなるだろ」

「流石です! イグニ様!」

「『魔王』より強いってことはないだろうさ」


 その果てにいる者には、何一つ敵にはなりえない。

 

 さてイグニが空を駆けること数刻。

 火山に近づいた瞬間、イグニが見たのは信じられないほどの()()


 それが、火山の火口により集まってまるで噴火しているようにイグニには()()。だが、噴火と違うのはその魔力が火口に吸い込まれるようにして消えていっていることだろう。


「……っ!」

「ど、どうしたんですか? イグニ様」

「……いや、何でもない」


 魔力の熾りを知覚できるのはごくわずかだ。

 アリシアがいればきっとそれに気がついだろうが、その域に到達していないイリスでは魔力の暴力に気がつくことはできない。


 イグニはその嵐のような魔力に身を任せるようにして火口に飛び込んだ。

 その瞬間、イグニが見たのは冷え切った大地に座するように座っている人の姿。


『誰じゃ?』


 人の姿をかたどった存在が、イグニの存在に気がついた瞬間にそう尋ねてきた。だが、それはイグニの耳に届いたのではなく頭蓋の奥底に響くような声だった。


 そんな芸当をするものが、当然人間であるはずがない。


 鬼がでるか、蛇が出るか。

 イグニが魔力を熾そうとした瞬間に、その人影がぴょんと飛び出してきた。


『ほう! これは人の子ではないか!』


 その姿は水着を着た幼い少女のように見えた。

 いや、見えたのではない。()そのものだった。


 敵意はないように思えたイグニは魔力を分散させて、敵意がないことをアピール……しようと思った矢先、イリスに目を塞がれた。


「ちょっと! 何よアンタ! イグニ様に変なもの見せないでよ!!」

『やはり人の子ではないか! うむ? 変なものとは何のことじゃ』

「あんたの格好よ! ちゃんとした服着なさい! 服を!!」

『ううむ……。かつて出会った人間からこの格好が一番仲良くなれると聞いたのじゃが……』


 残念そうにつぶやく少女の声が響くと、魔力がわずかに熾ってイリスの指がイグニから外された。


「誰よそんな変なことを言ったのは」

『うむ? 長身の白いローブを羽織った男じゃ。名前は……なんと言ったかの。ルクスじゃったが、ルクシアじゃったか……』


 ……じいちゃん何やってんの?


 イグニはツッコみたかったが、状況が状況なのでぐっと堪えると短く尋ねた。


「……お前が、ガランドか?」

『うむ。その名で呼ばれるのは久方ぶりじゃが。いかにも我がガランドよ』


 さっきまでほぼほぼ全裸のような姿をしていた竜は歌うように言った。


『よし、人の子よ。我と友になれ!』

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