第6-14話 昼ごはんと魔術師
バチバチに競い合った午前の競技も一旦中断。
イグニたちは昼ごはんを食べるべく、観客席に腰掛けた。
「凄い綺麗にくっつくんだね」
「腕か? 切れたばっかりだし、それに切り口も綺麗だからな」
驚いたように言うユーリに、先程までの傷口を見せるイグニ。
切れたばかりのイグニの腕はエドワードが拾ってくっつけてくれたのだ。
そもそもエドワードは【生:A】の治癒師、切り取った四肢を生やすことの出来るほどの実力者だ。イグニの腕があるなら、くっつけるのも容易い。
「イグニ様! こっちですこっち!」
観客席に向かうと、そこには既にイリスたちが到着しており手を振ってイグニたちを出迎えてくれた。
「見てください! このお弁当、自分で作ったんです!」
「うおっ。凄いな」
「えへへ。イグニ様に食べてもらいたくて」
そういってイリスが渡してきた大きなお弁当には色とりどりのおかずが輝いていた。
「ありがとな、イリス」
「どういたしましてです!」
嬉しそうに照れるイリス。
それを見て、わずかにアリシアの表情が歪んだ。
それには気が付かず、イグニがお昼ごはんを食べようとした時、聞き慣れた声が後ろから聞こえてきた。
「あ……っ。あの、私も、ご一緒しても……良いですか?」
後ろを振り向くと、そこには弁当箱を持ったエスティアがいた。
「おっ、エスティア。良いところに来たな。一緒に食べよう。みんなで食べよう」
「エスティアさん。ここ空いてますよ」
リリィがそう言ってエスティアの座る場所を確保する。
「エスティアって……。あのエスティア?」
リリィの隣にエスティアが座った瞬間、アリシアがこっそりイグニに尋ねる。“あの”という言葉が何を指しているのかは分からないが、イグニはこくりと頷いた。
「ああ、あのエスティアだ」
「また、凄いのを連れてきたわね」
「俺のファンらしい」
「イグニの? ファン??」
目を丸くして『?』マークを撒き散らすアリシア。
「どこでファンなんて作ったのよ」
「いや俺も詳しく知らん。なんか、色々と俺の評判を聞いているうちに……って感じらしいが」
「ふうん」
アリシアは短く息を吐いた。
色々と意図がこもってそうなため息だったが、あいにくとイグニにはその意図を全て理解することは出来ないのだった。
「まあ、良いわ。それに私も彼女に興味あったし」
「興味?」
今度はイグニが『?』マークを浮かべる番である。
「そうよ。万能の才能を持った天才の話は興味があるじゃない」
「なるほど」
多くの魔術師は1つ自分の軸となる属性を決め、それのサブとなるように多くの属性を学んでいく。だが、エスティアのように最初から多くの属性を扱い、そして手にしている魔術師は少ない。だからこそ、彼女には2つ目の名前が与えられたのだから。
「はじめまして、エスティアさん」
「は、はい! あなたは?」
「私はアリシア。少し聞いてもいいかしら」
「な、なんでも大丈夫です!」
アリシアはそういって、エスティアと魔術トークに華を咲かせ始めた。
だが、イグニはその話に入っていくようなことはしない。
何しろ最初から彼の使える魔術は決まっているのだから。
他の属性の、それも高位魔術の話を聞いたところで何になるというのだろう?
「イグニ。午後からは忙しいですからね。しっかり気合いれてください!」
「もちろん、分かってるさ」
午後からは個人対抗戦の試合数が増える。
そこで、審判として生徒会メンバーも駆り出されるのだ。
イグニも午後に2試合ほど、対抗戦の審判をやることになっている。
「リリィはもう審判やったんだよな。どうだった?」
「別に初戦ですから、そんなに大きな魔術のぶつかりあいは無いですよ。ちょちょっとやって終わりです」
審判は勝敗を決めることもあるが、やりすぎた魔術師を止める役割もある。
そのため、生半可な実力者に任せるわけには行かないのだ。
しかし、初日の午前中ということも相まってそこまで大きなドンパチもない。
これが後半になればなっていくほど、実力者ばかりが残っていくので準決勝や決勝の審判は流石に教師が行う。
「あれ? ハイエムはどこいった」
「ハイエムさんならさっきミル会長に引き連れられて、フィールドの直し作業をやってたよ」
ユーリがそういって、指差した方向ではハイエムが空に浮かんだまま氷のフィールドを直していた。
「……大変だな」
「結構ノリノリだったよ。頼られるのが嬉しいんじゃないかな」
竜のプライド的には誰かに頼りにされる方が嬉しいんだろう。
イグニはそう思って、目を細めた。
「あっ、あの。イグニさん」
アリシアとの話が終わったのだろうか、急にエスティアがそう話しかけてきた。
「うん?」
「ご、午後からクラス戦が始まるんですけど、コツとかってありますか?」
「コツ? んー。集団戦だから、周りと歩調を合わせることかな」
イグニの場合はイグニに合わせて作戦が作られたので周りが歩調を合わせたという方が正しいのだが。
「な、なるほど。周りと歩調を合わせること……」
だが、エスティアはそういってぎゅっと自分の拳を握りしめた。
「好きに動けばいいわよ。E組にもリーダーはいるんでしょ?」
「は、はい」
「なら、そのリーダーに従っていればいいわ。ちゃんと、集団戦を学んでる人だろうし」
突出した個人を多く集めるロルモッド魔術学校だが、そこでは才覚を見せずともクラスという集団の中でその才能を見せるものはいる。つまり、人を動かす才能だ。
エドワードがそうであるように、多くのそういった才能の持ち主は無名であることが多い。だから、E組にもそういった人間はいる可能性がある。
「そ、そうですよね! 私もイグニさんみたいにが、頑張ります!」
「ああ、頑張れ」
「それにしてもさっきの試合凄かったです! 左腕を犠牲にするなんて!」
「あれは囮みたいなもんだよ。それに、ウチのクラスに治癒師がいるのは知ってたからな」
「でも! 腕を犠牲にするなんて簡単に出来ることじゃないですよ!」
「あれで勝ちがつかめるなら安いもんだよ」
2年間の修行で四肢を失うことが日常茶飯事だったイグニにとっては、自分の身体に対する考えかたが周囲と違う。
だが、それに彼が気がつくのは随分と後になってからなのだ。
昨日お休みしたので今日は2話更新です




