第18話 穏やかな幸せ
「――小夜ちゃん、ただいま~!」
時は流れ、七年後。冬の夜二十一時。
麗華は仕事を終えて家路についた。
家では小夜子が夕飯を作って待っていてくれる。
「おかえり、麗ちゃん」
「外めちゃくちゃ寒いよ、道路ツルツル滑るし、歩くのも大変」
「それはご苦労さま。今、お夕飯あたためるね」
鳳月家を飛び出した義姉妹は、現在は都会の片隅で、一般人としてひっそりと暮らしていた。
麗華はもともと庶民のため、普通に外に働きに出ている。
小夜子はデジタルに強いスキルを活かし、覆面の在宅イラストレーターとしてお金を稼いでいた。常に家にいるので、留守を守り、宅配便の受取から二人の食事の用意まで家事をこなしている。料理もあとから覚えたものだが、不器用だった彼女はある程度の家事スキルを身につけるまでに至った。
そして、鳳月家を出てから、麗華は例のお嬢様言葉を捨て、小夜子と力を合わせて生きている。
「そういえば麗ちゃん、知ってる? お父さんとお義母さん、男の子生まれたって」
食卓にレンジで温め直した料理を並べながら、小夜子は麗華におめでたいニュースを知らせた。
麗華は「え、ホントに!?」と目を丸くする。
「じゃあ、今度お祝い贈ろう。デパートでなんかいいもの買おう」
「うん。私達のせいで、二人には苦労させたからね……」
ひとまずは、これで跡継ぎの問題は解決した、ということであろう。
義姉妹は両親のお祝いには行けないけれど、とりあえず祝いの品だけは匿名配送で贈ろう、という結論に至った。
そのあとも、「原磯やみんなは元気かな」「こないだ、電話したら原磯は相変わらずだったよ」と夕食をともにしながら会話が弾む。
「それにしても小夜ちゃん、本当に料理上手くなったね。美味しい」
「最初、この家に来たときは大変だったよね。私、料理しようとしたら火柱上がっちゃって、火災報知器が作動しちゃってさ」
今となっては笑い話になるネタは尽きない。
マスコミの目をかいくぐった二人は、こうして穏やかな生活を手に入れ、ささやかながら幸せに暮らしている。
「小夜ちゃん」
「なぁに、麗ちゃん」
「なんでもない」
「え~、言ってよ」
食事を終えて、二人はソファに座り、ぴとっとくっついていた。
座席に置かれた手は、指を絡めていて。
「私、今すっごく幸せ」
「そう。私も」
「ずっといっしょにいてね、小夜ちゃん」
麗華と小夜子はお互いによりかかるようにして、体重を預け合う。
二人は額をコツンと合わせて、至近距離で微笑み合っていた。




