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古風な家柄……

連載版です。短編板から加筆しているので、設定も少し変わっています。

 あやかしと人間が共存する国、偉大なる神の使いとされている天帝が治める帝国。

 といっても、内情は普通の近隣の王国制度を採用している国とあまり変わらない。


 爵位持ちの貴族が鬼人族であったり、龍人族であったり、それだけの違い。


 私、乙葉おとは・ロゼッタは妖狸族の男爵家、一六才の普通の令嬢。貴族の娘として生まれた私の生きる意味は――今よりも大きな貴族の家柄の子息と結婚して家を大きくすることだ。


 庶民は違うけど、貴族の令嬢の一般常識。私もそんな令嬢教育を受けて育ってきた。


 妖狸族の乙葉家は家族がとても多い。私は十人いる兄妹の中で上から三番目。揃いも揃ってほわほわした性格で、よく道の真ん中で立ち止まって、馬車に轢かれそうになる……。


 そんな私には親が決めた婚約者様がいた。


『こちらが刹那せつな・アイギス様だ。ロゼッタ、挨拶をしなさい――』


 強大な力を持つ妖狐族の、その中でも最もエリートである刹那伯爵家。妖狐族との婚儀は、貴族にとって願ってもないことであった。


 アイギス様――、初めて会ったのは8才の時。今でも覚えている。


 帝都の伯爵家の豪華なホール。私たちは挨拶をした後、お茶会をする事になった。

 アイギス様は整った顔立ちで、いかにも貴族のご令嬢から好まれそうな顔をしていたけど、私はあまり興味が湧かなかった。


『がははっ、なんとも美しいお嬢さんではないか! ……おい、何をしている早くお茶を持ってこないか! すまんすまん、うちの妻が気が利かなくてな。あの馬鹿は兎人族の癖にトロいんだ。がははっ、何にせよ、今日はめでたい日だ! 酒ももってこい!』


 アイギス様のお父様はそんなことを言いながら、私の両親と部屋の奥の席へと行ってしまった……。今、一瞬、アイギス様の奥様の顔が……修羅族みたいに見えた……。


『ちっ……、ふふっ、気が利かなくてごめんなさいね。この家では、身内の料理は妻の私が監督しているのよ。……ええ、本当に……、ごめんなさいね』


 え、今舌打ちしたの? ……奥様がキビキビと侍女に指示を出し、自ら私にお茶を入れてくれた。あまりにもうちの常識とかけ離れていたから私は驚いてしまった。


『私はあちらの部屋でお酌してくるから、アイギス、後は頑張ってね』

『ああ……』


 私とアイギス様が二人っきりとなる。


 私は兄妹が多いせいか、周りの空気を読んで行動するのが癖になっていた。この時も、気まずい空気をどうにかしたいという気持ちがあったけど、空回りしていた。


『あ、あの、アイギス様のお好きなものは?』 

『ああ』


『……アイギス様はお休みの日は何をなされているのですか?』

『ああ』


『アイギス様は天才術師と名高いですが、得意な術はなんですか?』

『ああ』


 なんと『ああ』としか言葉を重ねなかった。あげく、私が奥様が作ってくれたお茶を注ごうとすると、嫌そうな顔をして『コーヒーを頼む』と侍女に命令をしたのだ。


 ……なんだか私も舌打ちしたくなった。


 私は我慢した。きっと何か理由があるはずだ。だって、彼も私もまだ8才。人として成長出来ていない。どこか上の空の彼に視線の先は――なぜか伯爵家に遊びに来ていた、猫族公爵令嬢のセリア様がいるのであった……。


 彼はセリア様が動くと、視線を動かす。セリア様が庭遊びで転びそうになると、立ち上がって駆け寄る。セリア様が笑っていると、彼も笑っていた。


 私はこの時思った。――流石に顔合わせの席でそれはおかしくない? ちょっと気持ち悪いと思った……。


 あまり良い思い出ではない顔合わせ。でも、その中で良いこともあった。アイギス様のお母様、伯爵夫人ビオレッタ様はとってもとっても素敵な人だった。あんなに素敵で優しくて、テキパキなんでも出来る人は見たことがない。

 アイギス様よりもビオレッタ様の方が好きになってしまった。



 ***



 私たちが成長して、帝都術師貴族学園高等部に入学してもそれは変わらなかった。


「きゃっ! アイギス様よ!」「今日も見目麗しいわ……」「アイギス様は一年生ながら学園最強の術師ですわ」「セリア様だって負けてないわよ」「本当にお似合いの二人ですわね……」


 アイギス様とセリア様は、学園にいる時は、二人は常にそばにいる。親から理由を聞いたことがあるけど……『アイギス様は、特殊な力を持っているセリア様を守るという大事な仕事があるんだ』と言われた。


 確かに仕事は重要だ。アイギス様は学園の生徒からは『九尾の守り手』と言われ、妖狐族最強と名高い力を持っている。


 でも、二人の距離感はちょっと行き過ぎているのは否めない。実際、うちの両親もそれに気づいていながら、放置している感がある。


 神聖な聖女、猫族の御令嬢。婚約者は天帝の第二天帝子のサミエル様。サミエル様は超有能人と名高い天帝子だった。

 そんなサミエル様は今は王国へ留学中。


 ……アイギス様は高等部になってもセリア様のそばを離れない。やっぱりちょっと気持ち悪い。でも、私はアイギス様の婚約者だから我慢しないといけない。


 ……我慢か。


 私、ずっと我慢しかしていないわね。


 アイギス様と長年過ごして分かったことがある。あの刹那家は悪い意味で特殊だった。その、古臭い考えというか……。その刹那家の長男として、アイギス様は染まりきっていた。

 アイギス様は悪い人ではない……。むしろ、正義感が強く、他者に優しく、優等生という側面が強い。


 そんなアイギス様は、セリア様と同じ高位貴族の教室。男爵令嬢である私とは違う教室だった。


 私はアイギス様と一日に最低一回は会う。


 朝のHR前。アイギス様がやってきた。


 特に挨拶するわけでもなく――「今日の授業で使う術式の計算式のノートはあるか?」「はい、こちらですわ」「相変わらず便利な女だ」


 むかっとする物言いだけど、私は心を殺す。

 私は婚約者ではなく、ただの都合の良い便利屋だと思われている節がある。


 ありがとうの一言もない。それが普通だと思っている。悪気もない、でも好意も善意もない。


 ……刹那家にとってそれが普通なんだ。

 嫌な言い方をすると、男尊女卑が激しい家柄。女は黙って三歩後ろを歩け、ご飯の味付けが気に食わなかったら食べない……。


 三十年前の感覚で生きている家柄だ。今の帝都はそんな家柄はありえない……。


 先日の夜会も、突然一人で置いていかれて……他の令嬢の笑いものになった……。


 きっと、結婚してもこんな生活がずっと続くんだろうな、って思った。大きなため息を吐きたいけど、乙葉家の為に……私は結婚するしかないんだ。


「あれも早く渡してくれ。セリアが今、一人なんだ。何かあったらどう責任取るんだ」


「……どうぞ」


 私はアイギス様にお弁当……ううん、重箱を渡した。


 驚くかもしれないけど、学園に通っている間は……私がアイギス様のお弁当を作っている。もちろん侍女も仕込みを手伝ってくれるけど、刹那家にとって妻が作る料理が一番大事だとかなんとか……。

 いえ、おかしいでしょ……、貴族の家柄の妻が家事をするなんて……。


 アイギス様は私との婚約の条件に、刹那家を満足させる能力を持っている、ということだった。お弁当はその中の一つ。



「……昨日の弁当は……7点……、いや煮汁がご飯に染みていた、6.5点だ。味付けが少しぼんやりしているが及第点だ。――ロゼッタ、腕を上げたな」



「……はい?」


 自分の眉間にシワが寄ったのがわかった。笑顔で、さも当然のように言っているのが更に苛立ちを募らせる。


 なんだろう、自分の中にある何かがギリギリ溢れそうになっていくような気がした。





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