正しい力の使い方(4)
「単独撃破は無理でもぉ!」
「二人ならっ!」
リリエルが生体ビームを斬り裂きゼレイが突進する。妹分のブレードは力場鞭が巻き取ってしまうが、彼女の一閃が外殻まで届いた。しかし、しかし、浅く削るだけ。
「速いのよ」
尾部の傘に引っ掛けられそうになって飛び退く。動きを追おうにも次のナクラ型ヴァラージが接近していて一体に集中している暇もない。
「行け!」
「こんのぉー!」
ゼレイが軌道上に斬撃を放つがリフレクタで弾かれる。体当りされてデュミエルごと飛ばされそうになったところをゼキュランで受け止めた。
(このままじゃなぶられる)
高速移動するナクラ型は旋回半径も大きく、そこへ隊員たちも仕掛けているが十分なダメージは与えられていない。逆に損傷機が増えてきているようだ。他はともかく、リフレクタで防げない生体ビームが痛い。
(崩されたままじゃ撤退もままならない)
殿を命じるのは死ねと言っているようなもの。彼女自身が務めるのは間違いなく周囲が止める。決死行なのは一目瞭然。
(一体だけでも倒さなきゃ。大きなダメージを与えるだけでもいい。多少でも怯ませないと立て直す間合いも取れない)
頭は冷静だ。身体も動いてくれている。気負いで本来の力が発揮できていないわけではない。力足らずなのだ。リリエルではヴァラージを倒せないと突きつけられているように感じる。
(責任なんかじゃない。称賛もいらない。体面なんてクソくらえ。ただ純粋に、部下を死なせない力がほしい)
祖父のように時代を動かしてしまうほどのカリスマはない。皆は彼女の血統と戦気眼をありがたがってくれているだけ。そうとわかっていても、ついてきてくれる者を置き去りにしてジュネだけを見つめていられない。
(なにもかも、こんな中途半端だから心から好きになってもらえない。一生懸命気を惹いて繋ぎ止めておくのが限界なのよ)
リューンに総帥の椅子が欲しいかと問われ「皆が求めるなら」と答えた。ジュネが好きなのは本当なのに「求めてくれないと傍にいられない」と感じた。自分から強く求めないから手に入らないのだろう。
(あー、そうか。エルシは見透かしてたんだ。あたしに時代の子足り得るほどの渇望がないって。飢えていないから惑星規模破壊兵器システムを御するほどの精神強度を持てないんだって思われてる)
だからこんな窮地でもゼキュランは力を発揮してくれない。最初から搭載されていないのだ、使えもしない兵器など。リリエルには正しい力の使い方ができる素質がないと判断されているのである。
「泣きそう……」
胸が苦しい。
「なんですか、エル様?」
「ごめんね、不甲斐ない姉貴分で。ごめんね、使えない上官で。ごめん。でも、こんなあたしでも意地があるんだもん!」
「エル様!」
弾けるように加速したゼキュランをヴァラージの前にさらす。双剣を自然に広げた腕にかざし前かがみに構える。奥歯を噛み締めてナクラ型の鼻面をにらみつけた。
「斬る!」
細く呼気を吐き意識に走る金線に斬線を合わせる。閃いた白光はリリエルの剣閃に吸い込まれた。剣筋の立った一撃はほとんど抵抗なく上下に斬り裂く。正体不明の光は収束を解かれて拡散した。
「まだ!」
フォースウイップが飛んでくる。斜め上下左右、全ての方向から四本も。しなる光の筋の軌道は彼女の意識で読めている。躊躇わず踏み込み、動きの遅い根本へと切先を伸ばした。
「ふんっ!」
一本、二本と薙ぎ、舞わせる。途切れさせただけだが、すぐには復活しない。スピンして左斜め下から迫るフォースウイップに剣閃を見舞い断つ。最後の一本をリフレクタで弾きながら躱し、根本に飛ばした突きで斬った。
「ここ!」
右手のブレードを逆手に持ち替え胴体に切先を向ける。そのときには新たな金線が機体各所を狙っている。尾部の傘の向こうからスラストスパイラルが叩きつけられそうになっている。
「あげる!」
半身になって最小限避けるが頭部が粉砕された。球面モニターが消える。下半身にも衝撃がある。投影コンソールにはヒップガードが消失した表示。
「もう見えてなくてもいい!」
胴体に剣先を突き立てる。左手も同じくすぐ横に突き刺した。順手に持ち替え、クロスして斬り裂く。ヴァラージの躯体が震えた。そこでモニターが復活。
「一撃で終わるなんて思ってない!」
がむしゃらに斬りつける。外殻が細分されて剥離する。灰色の組織も力場に抵抗できない。欠片となって飛び散り、ゼキュランの前面に張り付いていく。それでも腕は止めない。穴を掘るように斬りとっていく。
「お前が死ぬまで続けてやるもん!」
躯体の震えが断続的になっていく。いつの間にかスラストスパイラルも消失していた。漂う躯体の目から光が失われているが彼女は気づいていない。なぜなら、ゼキュランの上半身を埋めるように斬り続けているから。
「エル様、もう死んでます!」
「え?」
我に返った。
「たぶん」
「ほんとだ」
「念の為、焼きます」
リリエルが機体を離すとゼレイのデュミエルが連射を放って破砕していく。組織片もビームの光の中で煤になっている。
「びっくりしました」
妹分の声が震えている。
「どうかしちゃったのかと思って」
「必死だったの。我を忘れてた」
「獰猛なエル様も素敵」
妙なことを言いはじめるゼレイを放置して戦況を見る。一体撃滅されたことで他のナクラ型の勢いは落ちているように思えた。
(でも、ゼキュランが大破している状態じゃ同じことはできない)
極めて微小な時間でもモニターにタイムラグが出る。センサー感度も落ちている。次は手足を持っていかれるかもしれない。そうなれば致命的だ。
リリエルは撤退すべきか迷った。
◇ ◇ ◇
「ダレン、リン、足留めしてアンチVを使って。時間ない」
フユキは焦りを口にする。
「でも、無敵兵器使ったんだろ?」
「生体ビーム防ぐのでいっぱい」
「うわ、マジか」
慌てて追いついてきた僚機がビームを放ちはじめる。
「どのくらい持つの、フユキ?」
「あと三分半」
「ぎゃー、早く言って!」
それでも生体ビームを吸い込める範囲は限られている。そこを外れた友軍機は追い散らされたまま。
「ササラ、ぼくの後ろに」
「回ってもらってる。すぐに態勢整えるから耐えて」
「うん」
彼が疑似ブラックホールをかかげている一部を除いてナクラ型が弾幕を張ってくる。生体ビームを断続的なものに切り替えて連射性を上げてきていた。
(対処してくる。これでぼくは動けなくなった。ぶつけに行くこともできない)
動けば味方が弾幕にさらされる。どれだけの被害が出るか計り知れない。とても賭けに出るわけにはいかなかった。
「こっちも弾幕張って。釘付けにしてアンチVで狙えるチャンスを作るんです」
「了解。弾幕の穴を通るけど、あれに吸い込まれない?」
「一定以上近づくと駄目です。弾幕フォーメーション組めたところでヴァルザバーンが一緒に前に出ます」
「そういうことね」
通信士スペースも混乱している。どうにか進めようとしているが少年の中の焦りも募っていく。限りある時間が刻々と過ぎていっている。
(あと三十秒で上手くいかなかったら前に出よう。二体ぐらいは消しておかないと)
バックウインドウを眺めながら心を決める。ペダルに掛けた爪先が緊張感を帯びている。仲間数人の死を背負わないと全滅の憂き目が待っていた。
(もうちょっと)
覚悟を決める。
「空間エネルギー変換システム、起動」
フユキの耳に青年の声が届くと同時に、宇宙に花が咲いた。
次回『正しい力の使い方(5)』 「急がないとあんまり時間ない」




