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ゼムナ戦記 翼の使命  作者: 八波草三郎
緑の暁

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58/216

フユキ覚醒(1)

 そのまま経緯確認と対策会議の場を設ける。星間(G)平和維(P)持軍(F)特応隊の僚艦ベリスギーネからも艦長とアームドスキン隊長が呼ばれて、大きめの作戦室が会場に当てられた。


(ジュネは彼らをどこまで頼りにする気だかいまいちわからないし)

 リリエルはそのあたりも読み取らねばならない。

(もしフユキ頼りで対処能力に乏しいならブラッドバウ(こっち)は装備更新してでも強化したほうがいい。動けるようならファイヤーバードの判断に任せてもいいけど)


 ゴート宙区の代表として独自に協力しているのだ。その程度の裁量は認められている。


「まずは現状ね。ミハイル、説明を」

 副長はミハイル・ロアダンという名の師団長階級の男らしい。

「今回遭遇したヴァラージはご覧のようにナインタト星系に迷い込むように接近してきました」

「たまたま発見されたってわけじゃないんでやんしょう?」

「ええ、あのガス惑星(ジャイアント)の資源採取にやってきた作業船が漂流する航宙船を遭難船と思って接触したのが始まりです。呼び掛けても応答がなく、不審に思った作業船の通報でGPF艦が出向きました。内部を捜索しようとしてターゲットを発見。我々に出動要請が掛かった次第です」


 遭遇したGPF艦は速やかに判断を仰ぎ周辺宙域の封鎖に移行。ターゲットを牽制しつつ特応隊の到着を待ったという。


「好判断だったわ。お陰で大した被害も出さないうちに来れたけど」

 全体の流れが秘密裏に処理できる状態だった。

「態勢を整えていた当隊は到着次第即座に対処に入りました。アンチVランチャーを装備させたアームドスキン隊を展開。ヴァラージの包囲撃滅の作戦を実行したのです。戦闘は熾烈を極めましたがどうにか事なきを得て……」

「映像あれば見せてもらえますか?」

「了解いたしました。では、ご覧ください」


 ジュネの提案でリリエルたちは当時の状況を観ることになった。


   ◇      ◇      ◇


 今思えば怖ろしい状況だった。しかし、そのときのササラは必死で、怖がっている暇もなかったのである。


「無理しないで、ダレン」

 フユキの口調も切羽詰まったもの。

「そうもいかないって! 追い込め、リン!」

「厳しいのよ、あんなに動いてくれちゃ! ランチャー重くて!」

「それでも両肩に三発ずつしかないってのによ。不用意にぶっ放せないって」

 彼のガンカメラ映像からは追い切れない僚機の様子がうかがえる。

「軽いぼくが行く」

「突っ込むな、フユキ。場は作ってやる」

「でも、隊長」


 振りまわされている。螺旋の光を背負った敵は自在に飛んでビームを躱す。決定打どころか牽制にもなっていない。


「今のままじゃアンチVは意味をなさない。きっかけを作るのはお前しかいないんだ。控えろ」

「うん」


(つらそう)

 心優しい彼氏は唇を噛んでいることだろう。


 力場鞭(フォースウイップ)が宙を叩き、また一機が手首から先を刎ねられている。そのままでは足止めしてフユキと一対一の状態も作れないと感じた。


(これは違う。確かにフユキのヴァルザバーンはアンチVを装備してなくて身軽だけど)


 一撃離脱でフユキに牽制させながら包囲陣を完成させる作戦。最終的にアンチV搭載のゼスタロンの壁の中に封じ込めてから彼に致命傷を与えさせるつもりなのだ。


(タイキ先生みたいに接近戦が得意なわけじゃない。フユキの能力の最大利点は遠距離からでも相手を見分けて確実な狙撃ができるというとこ。これじゃ機動力(あし)が殺されるだけ)


 決まった宙域を戦場にしようとしている。それでは彼は普通のパイロットと変わらない存在に堕す。


(ヴァラージに危険を感じさせて追わせるくらいでいい。動きが限定されたところでアンチVを使えるタイミングを見極める。それしかない)


 部隊の皆が勘違いしているのだ。現実に九歳からアームドスキンに乗っていたフユキは接近戦でも見事な操縦をする。後ろに目がついているかのような格闘も。実際に見えているのだから当然だ。しかし、それは彼の能力の一端を使っているに過ぎない。


「協力してください!」

 ササラは声をあげた。

「ヴァラージを釣ります。みんなはヴァルザバーンを中心に誘い込むよう罠を仕掛けてください」

「え、どういうこと?」

「彼に狙撃をさせます」


 突然の申し出に艦橋(ブリッジ)通信士(ナビオペ)ブロックは困惑する。隊長を中心に包囲陣を完成させるべく動いていた作戦を否定するものだからだ。


「和を乱すんじゃないわ! 作戦を成功させるよう誘導するのがナビの任務よ!」

「いや、待て。ササラ、説明しなさい」


 オルドラダが非難を止めてくれる。人材確保に秀でた彼女は、人の意見を汲むのも得意としている。


「説明してる時間が。えっと……」

 ササラは迷う。

「まずはそのまま包囲しようとする姿勢を維持してください。フユキは離れて。狙える位置に」

「うん」

「皆従え」

 閃きが有ったのか艦長は支持してくれる。

「いいんですか? ギィに任せるのでは?」

「現場の意見を汲むということよ。有効打を与えられない現状では別の方法も模索しなくてはいけない」

「了解しました……」


 通信士(ナビオペ)リーダーはまだ納得していない様子。しかし、シミュレーション図解もない状態で長々と説明する時間が惜しい。それなら動いたほうが話が早い。


「フユキに自由にさせろっていうんだな?」

「そうよ、ギィ。艦長はそうおっしゃってる」

 会話が交わされている。

「やりたいようにやれ、フユキ。俺たちはどうすればいい?」

「彼を中心に漏斗状の陣形を組んでください。そこに誘い込みます」

「あいつに合わせればいいんだな? よし、さっさと動け! 緑の足は速いぞ」


 ちくちくと牽制砲撃を入れていた陣形が分散して解ける。戸惑っていた風情のヴァラージは最も近い機体を狙う素振りを見せた。そこへ一撃のビームが飛び込んでいく。


「ジャッ!」

「当たれ! って、無理か!」


 容易に螺旋力場(スラストスパイラル)で弾く。しかし、近距離に味方が多数いる中で正確無比の狙撃が直撃しそうになったのは大きい。やはりヴァラージはそれを危険視してヴァルザバーンに向く。


「シャー!」

「来れば?」


 続けて二連射の狙撃。一撃は躱すが、二射目は回避まで読んで放たれている。指を突きだしたヴァラージはそこに光盾を生んで受け止めた。


「ジャジャッ!」

「追い込むよ。こっちに来い」


 加速するヴァラージ。のっぺりとした昆虫型ボディが驚くほどのスピードを生みだす。機動性も強化されたゼスタロンだが、陣形形成が間に合っていない。


「どうしよう?」

「このままじゃ駄目だから一撃だけ耐えて、フユキ」

「うん、抜けるね」

 ヴァルザバーンも加速して衝突する。


 横薙ぎの力場鞭(フォースウイップ)を掻いくぐってブレードを一閃。躱したヴァラージにノールックのビームを放つがそれも外される。ウイップが振りおろされそうになるところへ懐に入ってランチャーを持つ手を突きだした。手首から力場杭(パイル)が飛びだして前腕を貫く。


「ナイス! ここで押し込むぜ!」

「駄目。すぐ回復する」

 すり抜けたフユキが止める。

「漏斗状に。そこへ誘い込んで、相手がフユキに夢中になっている間にアンチVを使ってください」

「そういうことか! 任せろ」

「皆、聞いたな? 即時対処!」


 全機が動いて罠を構築する。フユキが牽制を放って足止めに入った。そこへ照準していたダレン機がアンチVを発射する。


「まだ! 止めてない!」

「ちっ、撃っちまったぜ」


 崩し切れていない体勢に放り込んだアンチVの弾頭は力場鞭(フォースウイップ)に砕かれる。飛散した薬液がヴァラージの外殻に付着した。


「ジィッ! シャー!」


 腐食したように剥離する外殻。痛みを覚えたのか、注意がダレンのほうに向く。身をひるがえしたヴァラージは逃げるダレン機を追った。ウイップが頭部を刎ねる。


「くそっ、やられる!」

「ダレン!」


 次の一撃はダレン機ではなくフユキのヴァルザバーンの右腕を切り落としていた。

次回『フユキ覚醒(2)』 「来た!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 フユキ君、先生の教え子の中では、ある意味主人公っぽかったし?
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