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ゼムナ戦記 翼の使命  作者: 八波草三郎
神へといたる道

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212/216

神と人の狭間で(2)

「ずいぶんと買われたもんだと思うよ」

「そうともかぎらん」

 ジュネの議論にタンタルは乗ってくる。


 空間を刻むように放たれる生体ビームから機体を逃しながらの言葉だ。避けきれない最後の一射は左のフィンガードで弾く。


「ここで折りにきた」

 敵の意図するところである。

「ゼムナの遺志がぼくを失えば現人類から手を引くと思うかい? そんなことはないさ。誰かが君の企みを阻止するだろう」

「向こうで雑兵程度に手こずっている猿の軍勢か? それとも剣一本で俺を討てると考えている猿か?」

「違う誰かかもしれない。人は決してあきらめないさ。そして、彼らはそれをサポートする。たった一人では表に立って抗するにも限界がある。いつかは本当に狂って自滅する」


 ビームの連射にアンチV弾頭をひそませる。タンタルの回避意識を読んでの方向。少し前から限度まで感応深度を上げていた。そうしなければ勝機は見えないし、攻撃回避もままならなくなっている。


「お前が最も危険なのは事実だ。こいつが教えてくれる」

 螺旋(スラスト)力場(スパイラル)で叩かれた弾頭が破裂する。

「残っていた戦闘記録にあった強敵どもの姿。それに近づきつつあるのだ。今のうちに刈らねば障害になる」

「光栄なことだね。ファトラたちもそう感じてるのかな? 実際に触れてきた彼らなら」

「期待しているだろうよ。だからこそ自ら潰す意味がある」

 加速の気配に牽制のビームを挟む。

「創造主を超える存在だと知らしめたい?」

「思い上がりも甚だしいとわからせる。遺物は埋もれて眠ればいい」

「君の怨嗟もたいがいに化石化してると思うけどさ」


 ステップを刻むが如き加速で残像を狙わせる。慣性力()に身体が悲鳴をあげていたが、徐々に気にならなくなってきた。一部の知覚がシャットアウトされている模様。


(中距離勝負では落ち着かせるだけ。リズムを変えてもっと意表を突かないと)


 避けると見せ掛けて転進する。生体ビームをアームフィンで押し込みながら接近。伸びてきた力場(フォース)(ウイップ)をバレルブレードに絡ませる。

 横に逸らしつつ踏み込む。ここぞとばかり口を開いたスワローテールに頭から突っ込み前宙する。上に抜けたところでマルチプロペラントのランチャーで狙撃した。


「詐術師め」

 スラストスパイラルが迎撃に動いている。

「トリックスターはぼくの特技さ」

「大好きな正々堂々は封印か?」

「最初からそんなものに頼る気はないね」


 足留めもできていない。由縁たる背中の甲羅をもぎ取られたスワローテールだが加速が上がっている。組み立てを許さなくらいによく動いた。


(一瞬の攻防で決めるしかないとはね。身を切らせるタイミングを間違えると簡単に詰んじゃうな)


 歪曲力場が弱まって攻撃の届きにくくなった足下側にまわる。狙撃からは逃れられるが防御が最も高いところでもある。考えをまとめる刹那の間しか稼げない。


「表に出るのも悪くない。こうして目前で希望を断って見せれば、代理戦争をやらされている恐怖が猿にもわかろう?」

 心理的効果を謳う。

「理解できてないんだよ。恐怖っていうのは原初のもの。脅威からは逃れたいと望むものさ、戦闘民族でないかぎりはね」

「逃れられないなら排除に努めるか? 望むところよ」

「悪手だと思うけどね、それこそ無数にいる人間を敵にまわすのは」

 孤立に首を絞められる。


 飛散型アンチVで進路を制限してビームの連射を叩き込む。リフレクタの裏からにらむスワローテールに通常型の波状攻撃。フォースウイップで刻むに任せてカートリッジ換装の時間を作った。


(いよいよ残弾数が怪しくなってきたね。詰め手を組まないとどんどん幅が取れなくなってくる)


「余生を闘争に浸るも悪くあるまい」

「神経が知れないね。パートナーを探す努力をしたほうが建設的じゃない?」

「それこそ無為だ。俺を残して滅んだ。そうでなければ、ともに再起を図ろうと現れもしよう」


 道理だろう。彼らクラスの情報網を持っていれば目立つ動きだともいえる。本当にタンタル一人残してラギータ種は滅んだのかもしれない。

 それが技術的な問題だったのか、彼らの種族的な問題だったのかは知る由もない。人類にとって幸運なのは間違いないが。


「人類に心中を強要するのはいただけない」

「名誉と思えよ」

「納得するほどお人好しじゃないと思うよ」


 連射の途中で弾液(リキッド)パックが自動で抜けていく。残量確認に意識を使えない余裕の無さに顔をしかめた。精神疲労も蓄積してきている証拠であろう。


(限界だな。無理してでも決定機を作らないと厳しくなる一方。タイムリミットもあることだし)


 背景いっぱいに惑星ペナ・トキアの円盤が広がりつつある。地上の人々が不安に暴発するのも時間の問題である。


「ふぅー」

 大きく息をついて集中する。

「どうした? まだ遊べるぞ」

「どうにも不愉快な精神性なんだよね」

「猿に褒められるのも嬉しいものだな」


 遠く間合いを取る。タンタルは追ってこない。逃げるなどと考えてもいないのだろう。


(そのとおりだけどさ)


「ファトラ、あれを飛ばして」

『一度きりですよ?』

「決めるさ」


 転進して加速。スワローテールに向けてスピードを上げる。戦闘のできる速度ではない。一瞬だけの勝負。


「来るか?」

「ああ」


 生体ビームはアームフィンで真っ向から弾く。エミッタが負荷で警報を発するが無視した。わずかに耐えてくれればいい。

 ビームインターバルに機体を押し込む。有りったけのアンチV弾頭をばら撒いた。フォースウイップが舞って砕く。そこにハイパワーランチャーの砲口を差し込んだ。


「喰らえ」

「甘い!」


 下二対の腕がランチャーを半ばから断つ。左右ともに燃房(チャンバー)が破損して誘爆した。それでタンタルの視界を塞ぐ。


「捨て身か!」

「そうさ」


 受け止めるつもりのスワローテールに突っ込ませた。ブラストハウルで仕留める気だろう。ジュネは頭上に抜けた(・・・)


「なに!?」

「あげるよ」


 スワローテールが抱きついてブラストハウルを放ったのはマルチプロペラントにだった。リュー・ウイングの本体は爆炎に紛れて上へ。そこに飛んできた予備のマルチプロペラントとドッキングする。


「このっ!」

「詰みだよ」


 マルチプロペラントのランチャーが上の両腕を吹き飛ばす。縦ロールをして逆さになった機体で挟み腰のスラストスパイラル発生器官を狙撃する。


「まだだー!」


 タンタルは躯体を寝かす。ジュネの放ったビームは虚空を貫き、下二本の腕が振りまわしたフォースウイップが突進させたマルチプロペラントを斬り裂いている。異常な駆動速度だった。


「冗談きついな」

「今ので終わりか?」


 上の腕は早くも触手が伸びて再生しつつある。それ以外の損傷はない。弾けたアンチVが火傷の痕を作っている程度。

 対してジュネはハイパワーランチャーを両方とも失った。マルチプロペラントも予備はこれ一基きり。同じ手は使えない。


(マルチプロペラントだけじゃ押さえ込めなかった。これは、あれだね)

 スワローテールの動きを止めるには本体を使うしかない。

(一つしかないか。ブレイザーカノン。本体ごと貫けばいい)


「ファトラ、ブレイザーカノンの照準リミッタを外して」

『ジュネ、それは……』

「命令」


(後ろに控える皆の救いの神にならないといけない)

 惑星を見下ろして意を決した。

(生きていれば助けられる人もいるかもだけど、ここでタンタルを取り逃がすよりマシだね)


 もう一度距離を取る。加速の準備をしてスワローテールに振り返る。


「勝手に一人で死ぬ気なの?」


 久々の声にジュネは懐かしささえ覚えた。

次回『神と人の狭間で(3)』 「ごめんね」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有難う御座います。 狂ったのは嫉妬か寂寥か?
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