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ゼムナ戦記 翼の使命  作者: 八波草三郎
神へといたる道

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209/216

彗星落とし阻止作戦(4)

 リュー・ウイングが着地すると灰色の氷の粉が飛び散る。蹴って飛び立つと、寸前までいた場所を生体ビームが貫いた。穴から砕けた氷とガスが噴出する。


(決め手に欠けるね。お互い様だけど)


 ジュネとタンタルが削ったところでカフトトアの彗星核はびくともしない。なにせ直径で68kmもある巨大彗星なのだ。感じられるほどの重力もないが、簡単に破壊できるような代物でもない。


(裏側、尾のほうはどうなってるかな?)


 特応隊がヴァラージ船攻略に励んでいるはず。まだ朗報はない。アンチV効果低下の影響は馬鹿にできないか。


「粘るな。まだもつか?」

「徹底的に付き合うさ」

「大法螺を吹くな」


 搭乗型ヴァラージのパイロット負荷は少ないらしい。会話で集中力を欠いている気配は感じられない。


「実際、どのくらいもつもの?」

 回線を無音(ミュート)にしてファトラに尋ねる。

『ヴァラージは単体で戦闘可能ですので、コクピットでも大まかな指示を出すだけのようです』

「精神力を削られるのはこっちだけか」

『ただし、飛行および攻撃にヴァラージの内容物を消費しております。そちらの限界はあるでしょう。対してリュー・ウイングは残り250時間の稼働時間があります。ジュネの操作にはお応えできます』


 弾薬には限りがあるが、ブレードなどの武器は稼働限界まで使えるという。パイロットの体力と精神力が尽きるほうが断然早い。


(我慢比べはしたくないな。アンチVが残っているうちにどうにか)


 考えを巡らせる。戦闘中に作戦を立てるのは厳しいが、やらねば弱ってきたところを詰められる。打開策を練らねばならない。


(青カートリッジがトラップに使えなくなったから遊んでるんだけど)

 使い道がなくなったとて死蔵するのは無駄だ。彼の流儀ではない。


「時限式は飛散型の改造だったね? 誘導と近接起爆用カメラは外した?」

 設計図を思い出す。

『外しておりません。設定替えで飛散型への転用も可能です』

「それじゃ芸がないね。もうひと工夫してみるか」

『ご指示を』


 ファトラに特殊な設定の指示をする。マルチプロペラントに格納されている青弾倉のプログラムが切り替えられた。


「逃げまわるだけでどうなる。彗星が落ちるまで時間稼ぎしてもかまわんのだぞ?」

「そう感じるんなら、ぼくの策にはまってるのさ」

「できるなら逆転してみせろ」


 換装したばかりのカートリッジの全弾を一気に撃ち尽くす。スワローテールは飛散型の例もあるので迂闊に迎撃しない。加速力を活かして回避するだけ。


「意味のない豆鉄砲だ」

「そう? 陽動にはなってる」

「む?」


 時間差で放っていた弾頭が進路上で炸裂する。それも回避して生体ビームで狙撃してくる。


「無駄無駄。足留めにもならん」

「当たってくれないもんだね」

「猿知恵に憐れさえ感じるぞ」


 位置を変えてまた青弾倉の弾頭をばら撒く。嘲笑うようにすり抜けて接近してきた。フォースウイップをブレードで弾いて間合いを外す。


(積極的に接近戦にしようとするね)

 至近距離のほうがアンチVを当てやすいというのにだ。

(当てられないものだって嘗められてる。実際、簡単じゃないけどさ)


 遠距離では武装が限られるのもあるだろう。力場歪曲で狙いやすくもなるが、回避もするしフィンガードもある。詰めきれないと思ったか。

 白兵戦でなら力場(フォース)(ウイップ)もあるし衝撃波(ブラスト)咆哮(ハウル)も使える。ブレードをまとわせた爪で攻撃もできる。腕が二対もあれば手数も十分だと考えてもおかしくない。


(そう考えているうちなら……)

 追ってくれる。


 青カートリッジの連射を続ける。当てに行くつもりがないとはいえ位置取りが難しい。神経を使う作業だった。


(そろそろか?)


「飽いできたぞ?」

「じゃあ、ダンスのテンポを変えるかい?」


 一転してジュネの側からも接近する。近距離は敵の間合いだが仕方ない。仕掛けてみせねば効果がない。


「観念したか」

「仕留められると思う?」


 ひるがえるフォースウイップをブレードで逸らす。二本目はリフレクタを叩かせた。三本目を下に低く躱す。決めにきた四本目を逆のブレードで滑らせながら懐へ。


「取ったつもりか?」

「どうかな?」


 すでに口が開いている。密接した距離で口の中にアンチV弾頭を発射。しかし、いち早く放たれたブラストハウルに破壊されてしまう。飛沫は吹き飛ばされて流れていった。


「手詰まり!」

「まだだね」


 リフトアップしていたマルチプロペラントのビームランチャーを突きつける。スワローテールは上半身を仰け反らして躱した。かすめたビームが甲羅の一部を焼く。


「よくも」

「決まらないか」


 半身でスピンしつつ抜ける。タンタルは当然のごとく追ってきた。攻められてはいても近間合いの優位性は疑うべくもない。


(さあ、こい)


 生体ビームの弾幕を避けつつ追わせる。高速戦闘にみるみる彗星カフトトアの地表が迫ってきた。リュー・ウイングは表面を蹴って進路を変える。スワローテールも舐めるように方向転換した。


「なに!」


 その瞬間、灰色の氷が破裂する。スワローテールは真横から破片を浴びる羽目になった。


「ジャギャー!」

「どうした?」


 突如苦しむヴァラージの状態をタンタルは理解できない。隙だらけの躯体をどうにか操ってビーム狙撃を弾くのみ。


「そんな状態でも言う事聞くんだ」

「なにをした? これは薬か?」


 ジュネは時限式アンチVを近接型に切り替えて、セーフティで起爆しない設定にしていた。その弾頭を彗星地表の一箇所に集めて撃ち込んでいたのだ。当然、弾頭は浅く埋まるのみで終わる。

 そのポイントに接近して足を突き、電波の届く位置でセーフティーを解除。すぐさま離れる。近接設定になっていた弾頭は追ってきたスワローテールが到達したタイミングで起爆。放出されたアンチV薬は反作用で破片と一緒に躯体に降り掛かった。


(この方法なら察知されず変質する前に浴びせられる。一発勝負だけどさ)

 二度と同じ手は使えない。が、引っ掛かってくれた。


「ギシャッ! ジャジャッ!」

「この濃度では侵蝕されるか」

 のたうちまわるスワローテール。

「これで決まれ」

「させん!」

「ギュルルルゥ」


(な、自切(じせつ)?)


 主に浴びてしまった甲羅が剥がれていく。組織が糸を引きながら、張り付いていた人型部分だけが逃れようとしていた。アンチVの洗礼を受けた左の腕二本も肘から切り離される。

 その作業を悶え苦しみつつ、リュー・ウイングからの狙撃も避けながらやっている。さすがのジュネも舌打ちをした。


「どれだけ強靭なんだよ」

「やってくれたな?」


 ただでは済まなかったようだ。内容物として蓄えていたエネルギーを大きく消費したことだろう。能力的にも下がってくれれば言うことなしなのだが。


「勘弁してよ」

 思わず弱音を吐く。


 自切した肘から触手が伸びると絡み合って腕が再生されていく。表皮ができ、灰色の甲殻へと変わっていった。

 背中も再生している。ただし甲羅までは復元できずに変貌する。発生器官が形作られ、再び二対の螺旋(スラスト)力場(スパイラル)が伸びた。


「洒落にならないね」

「身軽になった。お前は失敗したのだ」


 現実に若干加速が増した印象。防御力は落ちたかもしれない。さらに生体ビームの歪曲度も下がっている。甲羅は力場発生器官でもあったらしい。


(弱体化はさせられたかな? 手札が減っちゃったのは痛いけどさ)

 青カートリッジが底を突く。


 ジュネは次なる手を模索した。

次回『彗星落とし阻止作戦(5)』 「鱗? 硬そう」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 先に手札が尽きるのは?
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