13話 膝枕
サブタイトルつけ始めました。
夜。
風呂からあがった俺は、リビングのソファで一息ついた。
「ふう……。今日も疲れたな」
なんで休日なのにこんなに疲れるんだ。
まったく。
どう考えても、昼の神田さんの件だ。
とは思ったが、実はその後のことも大変だった。
あの後、嫉妬した沙織が俺に抱き着いてなかなか離さなかったのだ
いや、俺もね。
やれやれ離してくれないなー、とか心の中でため息をついたんだけど、それでもどうせすぐに離れるだろうなと思っていたんだよ。
どうせ十秒くらいで満足するんだろうなと。
甘かった。
予想に反して、沙織はなかなか俺を離さなかった。
十秒どころか、十分くらい。
けっこう長い。
十分も抱き着くなんて、長すぎる。
一分過ぎた頃から、そろそろ離そうか、と言った。
だが沙織はそれに従わず、それどころか抱き着く力を強めてきた。
「いやです。もうちょっと」
といってなかなか離れなかった。
道の真ん中でそんなことをしていたら当然目立つ。
途中からは俺たちの状況を見た周りの人がはやしてて始める始末だ。
最終的には肩をつかんで無理矢理離れた。
大変だった。
「まったく」
はあとため息をついたあと、ソファに座り直す。
目をつむり、深く座ってリラックスする。
風呂上がりに座りながらこうしているととても気持ちいいのだ。
そんなときだった。
「修一さん。お疲れですか?」
そしてソファで休んでいると、沙織が話しかけてきた。
「つかれたよ。お昼の件で」
俺は冗談交じりに返す。
「雪音のことですよね。すみません」
「いや、沙織のことだよ」
「私ですか?」
沙織が驚いたように目を丸くする。
「当り前だよ。沙織が商店街の真ん中で俺に抱き着くから」
それを聞いて、沙織は嬉しそうに口角を上げる。
「なんでちょっと嬉しそうなんだ」
俺としては、文句を言ったつもりなんだが。
「だって、修一さんが私のことを考えてくれているんですもん」
こらえきれない、とばかりに笑顔になる沙織。
「雪音のことを考えて疲れるんじゃなくて、私のことを考えて疲れてくれているのがうれしいんです」
「反省してないな」
「反省してますよ」
だって、と続ける。
「抱き着くのは、二人きりのときにすべきでしたね」
「そうじゃない」
沙織の言葉につっこむ。
しかし、最初から強く離そうとしなかった俺にも責任はある。
そこまで強く言えなかった。
「では、謝罪として膝枕しますね」
そう沙織が提案をしてきた。
彼女はソファの横に座って、膝をポンポンとたたく。
え。膝枕?
「いや、さすがにそれは恥ずかしいから」
というか謝罪なのか、それは?
俺は断ろうとするが、しかしそんな程度の拒否では彼女が止まらない。
「します。えいっ」
俺の肩をつかんで引っ張り、沙織は自身の膝へと俺を倒す。
風呂からあがったばっかりでリラックスをしていた俺は、急な行動に対応できずに倒れてしまう。
そして沙織の膝に、というか太ももに俺の頭が置かれる。
「お、おい」
起き上がろうとするが、その前に頭と肩を上から押さえつけられる。
リラックスしていた上に体勢も悪い。
俺は起き上がることができなかった。
「ちょっとだけですから」
「ちょっと、って……」
昼の件といい、今日は随分積極的だな。
いや、よくよく考えると積極的なのは今日だけじゃないか……。
まあ本気で抜け出そうと思えばできるんだが、そこまでするものでもない。
「ふふ」
沙織が俺の頭をなでてくる。
横を向いている俺は、彼女がどういった顔をしているのか見えない。
ただ、その笑い声から嬉しそうなことはよくわかった。
「こうすると、昔を思い出しますね」
「昔?」
「小学生の頃です」
沙織がそう告げると、その言葉につられて昔を思い出す。
小学生の頃、か。
当たり前だが、それは俺が小学生だった頃ではなく、沙織が小学生だった時の話だ。
「膝枕なんてされたっけ?」
「しましたよ。一回だけですけど」
彼女が小学生の頃のことを思い出していた。
「膝枕ね」
いつされたっけなあ、と俺は頭を捻る。
そして俺は昔を思い出していく。
彼女と初めて出会ったのは、親戚の集まりだっけ。
その頃はべつに会話などなかった。
一言挨拶する程度だ。
そのあと年に一回ほど集まりがあって、そのたびに挨拶をするだけ。
俺の両親の葬式でも会ったな。
その時は彼女の両親といくらか会話したが、沙織本人とは別に話すことはなかった。
そして、初めてまともに話をしたのは沙織の両親の葬式だ。
そのあと親族の間で沙織の引取先を決めて、俺が立候補して一緒に住むとに決まった。
俺は思い出す。
沙織が小学校6年生の時の話。
あれは、そう。
彼女が俺の家に来た初日のことだった。
次回から過去編始めます。




