表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凍り鬼  作者: greed green/見鳥望
最終章 氷解
70/70

エピローグ

「暇っすね」

「普通はこれくらいだよ。あんなのは珍しい」

「そっすか」


 警察の奥の奥の先にあるファイルだらけの部屋で、私は自分の机に突っ伏して足をばたつかせる。


「にしても、暇過ぎます」

「事件なんてないに越した事ないんだよ、ゆとり君」

「もうやめません? ゆとりじゃないって事は十分証明出来たでしょ?」

「まあね。でももうすっかり呼び慣れちゃって」


 事件が終わって、しばらく休んでいつもの事務机に戻ると、便箋が二枚枚置かれていた。

 一枚は辞令。私の身が正式に影裏に移る事を証明するものだった。

 もう一枚の差出人は影裏。つまり御神さんからだ。


“僕と関わっちゃったのが運の尽きだね”


 会った時にも似たような事を言われた気がするそして、私はさらりと正式に影裏に迎え入れられた。

 あの辞令はどうやって発動したのかと尋ねると、「権力」という答えが返ってきた。私が思うより、この人の力は大きいのかもしれない。


 初めての影裏。様々な事に戸惑い、振り回され、奔走し、頭を回転させた。

 疲れた。それはそれはとても。全ての根源が先輩だった事はなかなかのショックだった。しかし、今回の事で色々な事を知り、何より自分と向き合う事が出来た。大切にすべき正義にも触れた。

 私には、もう事務作業は出来ないと思った。この世界で、御神さんのもと頑張っていきたいと思った。

 現実は、驚く程に暇そのものだったが。


 こんこん。


 唐突に鳴ったノック音に、私と御神さんは扉の方を振り向く。

 すーっと扉は開き、その奥から顔がちらりと小顔が覗いた。


「あのー」


 間延びした声と、戸惑った様子の表情のその女の子は警官の制服を着ていたが、着慣れていない制服はまるでコスプレのようだった。


「これを持って来るようにと言われたんですけどー」


 御神さんと目が合う。


 ――あーあ。


「ありがとう」


 御神さんは椅子から立ち上がり、彼女からファイルを受け取った。


「じゃあ、あたしはこれで」


 彼女はそそくさと部屋を後にしようとする。


 ――駄目駄目。


「駄目だよ」

「え?」

「帰っちゃ駄目だよ」


 ――やっぱり。


 今度はどんな事件だろうか。どんな奇怪な世界に飲み込まれるんだろうか。予想してもどうせあたらないだろうけど。

 

 事件なんて、めんどくさい。そう思っている自分もいる。まだ私の中にはバリバリにゆとりを貫いていた自分が残っている。

 でも、ここにいる事。そこに存在意義を感じた。私達にしか拾えない声がある。

 先輩みたいに、自分勝手な声もあるかもしれない。でも、本当に拾うべき声が、もっとこの世界にはあるはずだ。

 私はそれを拾う。一つでも零さないように。

 だって、私もこの世界を受け入れたから。


 そして、私は女の子の顔を見ながら思った。


「僕と関わっちゃったんだから」


 また一人、仲間が増えそうだ。そんな気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ