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凍り鬼  作者: greed green/見鳥望
六章 誘う手
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(7)

 情報が出揃いはじめていた。

 元猪下小学校へのクラスメイトへの聞き込み、そして豊さんの証言。そこから見えていなかった、知り得ていなかった場面が鮮明になっていく。


 三原栄治。

 次沢達のグループに属し、武市君のイジメにも関与していたと思われる人物。


「あまり目立つような生徒じゃなかったですよ」


 クラスの声を聞いている限り、三原君はやんちゃをするようなタイプではないようだった。いつもにこにことした穏やかな生徒で、分け隔てなく誰とでも仲良くしていた優しい生徒だった、というのがだいたいの皆の印象だった。

 武市君のイジメに加担していたとは思えない人物像だった。私のその印象は皆も同じだったようで、初めの頃は彼もまた次沢達にイジメられる側に近い位置にいたのではないか、と思っている者も多かったようだ。進んで武市君をイジめていたというよりも、仕方なく次沢達に合せていた。そんな様子だったそうだ。そんな好印象な傍ら、


「何を考えてるのか分からない所はあった。特に武市君が死んでからは、かなり印象が変わった」


 たまにゾッとする程冷たい目をする瞬間もあったという二面性を感じさせる証言もあった。武市君が死んでからの彼からは、それまでのトレードマークだった笑顔もほとんどなくなったという。

 印象がそのまま真実に繋がるとは限らない。本当の事は本人にしか分からない。写真に写る体格の良いニコニコとした少年の顔が誰かに似ている気もしながら、私は今後について考えていた。


 次に殺されるのは彼。

 ならば、早く彼を見つけなければならない。殺されると決まった訳ではないが、無関係な存在ではないし、いずれにせよ彼の話を聞く必要がある


 当時武市君に行われていたイジメについても少し分かった事がある。

 表面的には殴る蹴るといった暴力的なものはあまりなかったようだ。その中で何人かの生徒が同じ証言を残していた。


「確か、一時期氷鬼をよくやってたよ」


 氷鬼。私も小学校の時は何度かやった事がある。懐かしい遊びだ。

 通常の鬼ごっこでは鬼に捕まれば終わりだが、氷鬼の場合、鬼にタッチされた者はその場で動けなくなる。解放されるには、他の者にタッチしてもらわなければならない。

 鬼に捕まってしまうと一切身動きがとれなくなってしまい、他の者が鬼から逃げ惑う姿を見ながら助けを求める時間はなかなかに切ないものがある。


 武市君は次沢達と度々この遊びに付き合わされていたという。ただし、その遊び方は少し違っていた。

 最初は通常通りの氷鬼を楽しむが、最後には必ず武市君だけが氷漬けにされ、そのまま放置されてしまうのだと言う。

 一度、授業が開始になっても武市君が教室に戻って来ない事があった。どこに言ったのかと思えば、グラウンドに立ちすくむ武市君の姿があった。

 その時、武市君は何があったが言わなかったが、それが氷鬼によるものだという事はすぐに分かった。

 普段温厚な担任の妹尾先生が声を荒げて怒った事も、この氷鬼事件が印象に残った要因の一つだったようだ。


「……氷鬼か」

 

 私にとっての懐かしい遊びは、武市君にとってどんな想い出だったのか。考えると胸が痛んだ。


 ――コオリオニ……。


 グラウンドに張り付けられた武市君の絵が頭に浮かぶ。微動だに出来ず、助けを呼ぶ事も出来ない。そしてその時、頭の中でいくつかの言葉が並んだ。


“死後に筋肉が硬直したんじゃなく、筋肉が硬直して死んだって順番だ”


“その場に倒れて、動かなくなってしまった”


 次沢達三人と神山君の死に方。

 私にはそれが、氷鬼に捕まった者の姿と重なった。触れられただけで、自由を奪われ、助けも呼べずに死する事しか出来ない様。


 武市君は復讐なんて喜ばない。御神さんはそう言った。

 でも、本当にそうなのか。


 鬼に捕まり氷漬けにされたような死体と、残された小さな指紋。

 この二つの事実は、武市君という鬼の手に触れられ殺された、そんなふうに思えた。そうだとすれば、やはりこれは彼の復讐ではないかと思える。

しかし、当の彼は死んでいる。手首の件も解決していない。


 ――まだ、駄目だ。


 三原栄治はもちろんだが、もう一人。

 妹尾恭子。当時の担任。彼女が知っている何かがあるかもしれない。

 彼女の現在について知る生徒はほとんどいなかった。無理はない。当時小学生だった生徒と先生の関係だ。いくら仲が良くても、その後十年来の付き合いを持つ生徒なんて少ないだろう。


 ――どうしたもんかな。

 

 まだまだ遠い。

 掴み取った事実は、未だに真実には届きそうになかった。


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