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実家に寄生して三十年。追放された“息子様”は、私に泣きついてきました

作者: 星宮 翠

――この家では、弟が世界の中心だった。


 私、リリア=エヴァンスは辺境伯家の長女。

 けれど現実は、召使い以下の扱い。


「女が口答えするな」

「お前は弟の世話をするために生まれてきた」


 両親はそう言って、私から学ぶ機会も、自由も、未来も奪った。


 その一方で。


 三歳下の弟、ガルドは三十歳を過ぎても実家暮らし。

 職に就かず、訓練もせず、毎日酒を飲んで寝て起きて威張るだけ。


「男だから許される」

「跡継ぎだから当然」


 そうして育った結果、彼は何一つ“できない男”になった。


 私が殴られても、蹴られても、

 食事を抜かれても、寝床を与えられなくても。


 誰も、守ってはくれなかった。


 ――だから私は、守られる側になるのをやめた。


 前世の記憶を持つ私は、夜な夜な魔法を学び、帳簿を読み、証拠を集めた。

 この家が、どれほど腐っているのかを“数字と記録”で示すために。


 転機は、王都からの監査だった。


 辺境伯家の財政悪化を調査するため、監査官が屋敷を訪れる。


「リリアは下がっていろ」

 ガルドは当然のように命じた。


 私は静かに笑って答えた。


「いいえ。今日の主役は“私”ですから」


 会議室に集められた家族と監査官の前で、私は淡々と資料を広げた。


 十年以上、ガルドが一切の職務を果たしていない記録。

 訓練費、交際費、酒代――すべて家の金。

 その合計金額。


 監査官の眉が、はっきりと吊り上がった。


「……これは、跡継ぎの行いではない」


 ガルドは顔を真っ赤にして怒鳴った。


「女の分際で! 俺がこの家の跡継ぎだぞ!」


 その瞬間。


 私は立ち上がり、はっきりと言った。


「いいえ。今日この場で、“変更”されます」


 私が差し出したのは、王都から正式に認可された継承権移譲の書類だった。


 監査官が告げる。


「辺境伯位は、長女リリア=エヴァンスに継承される」


 父は崩れ落ち、母は声を失った。

 ガルドだけが、理解できずに叫び続ける。


「嘘だ! 俺は追い出されるわけがない!」


 ――結果は、容赦なかった。


 爵位剥奪。

 屋敷からの永久追放。

 生活費の支給、なし。


 三十年、実家に寄生し続けた男は、

 その日のうちに“無一文”で放り出された。


 数日後。


 屋敷の門前で、見窄らしい男が頭を下げていた。


 ――ガルドだった。


「……頼む、リリア。少しでいい、住まわせてくれ」


 私は彼を見下ろし、静かに言った。


「働いたことは?」


「……ない」


「努力したことは?」


「……」


「家族を守ったことは?」


 答えられない弟に、私は最後の一言を告げた。


「それが、あなたの“人生の成果”です」


 門が閉まる。


 弟は泣き叫び、私は振り返らなかった。


 ――私はもう、虐げられる少女じゃない。


 実家に寄生していたのは、私じゃない。

 何もしなかった“息子様”だった。


 そして今日も私は、自分の足で立ち、前を向いて生きている。




最後まで読んでくださりありがとうございます!甘やかされ続けた結果と、努力して掴んだ未来の対比を描いたお話です。

少しでもスカッと楽しんでいただけたなら嬉しいです。


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