女子会トークと男子会トーク
コミカライズ5巻が電子版にて、配信開始となりました!
こちらはその記念短編となっています。ぜひ、お楽しみくださいませ。
《女子会トーク》
「セリアが誰が好きなの?」
「セ、セリアですか?」
質問すると、セリアは明らかに動揺し出した。
──今日は親友のセリアとお泊まり会。
パジャマに着替えて、女子会トークに私たちは花を咲かせている。
こういうのって、「貴族令嬢がはしたない!」とよく言われるけど、前々から憧れてたのよね〜。
女子会トークの定番って言ったら『恋バナ』なんだし、これを機会にセリアともっと距離を縮めましょう!
「セリアは……好きな人なんていないです。そもそもセリアも貴族だから、結ばれる相手を自由に決められないんだし……」
「煮え切らないわね。別に貴族でも、好きな人と結婚したらいいのよ」
「そう言うノーラだって、アシュトンさんとの婚約は親──と王家に決められたことだよね?」
「う……」
さすがセリア。鋭いわね。
「わ、私のことはいいのよ。今はセリアの話を聞きたいわ」
「ダメ! ノーラはセリアの恋の先輩なんだから! アシュトンさんのどういうところが好きなの? 聞かせて!」
ぐいぐいとくるセリア。
むむむ、一気にペースを持っていかれてしまったわ。
だけど彼女とこうして話すのは、素直に楽しかった──。
◆ ◆
《男子会トーク》
「好きな人がいるって、どういう気持ちですか?」
唐突にライマーが、そんな質問をしてきた。
「藪から棒になんだ」
「前、ノーラにロマンス小説を貸してもらったんです。最初は嫌がったのに、あいつ……無理やり押し付けやがって」
「ほうほう」
「その中に男の騎士がいて、そいつが言ってたんです。『好きな人がいれば、俺はもっと強くなれる』──って。だからオレも好きな人がいたら、強くなれるかなあ……って」
理由を聞いても、ライマーの突拍子もない質問はやはり理解に苦しんだ。
そういえばこいつは、花が好きだから庭師として働いたり、意外とロマンティックなところがあるんだったな。
屋敷内では男爵令嬢のセリアが泊まりにきて、今頃ノーラと楽しい時間を過ごしている。
そのことはこいつも知っているはずだから、女性たちの『恋バナ』ムードに触発されたかもしれない。
「失礼ながら、私は女性を好きになったことがないので分かりませんね」
と執事のカスペルが先に答える。
「ですが、アシュトン様を見ていれば、あながち嘘でもないと思います。好きな人──つまり守るべき者がいることによって、人は強くなれる」
「やっぱり、そうですよね!」
カスペルから期待していた通りの答えが返ってきたからなのか、ライマーは表情を明るくする。
「アシュトンさんは、どう思いますか?」
「知らん。恋バナがしたかったら、ノーラのところに行ってこい」
「女子会に割って入れるわけ、ないじゃないですか! そうじゃなくても、こんな遅い時間にノーラに会うのは……」
もじもじするライマー。
「はあ……バカバカしい。好きな人がいれば強くなれるうんぬんについて考えるより、まずはそのような人間を見つけることから始めろ。そうすれば、お前の疑問も解消するかもしれないぞ」
「た、確かに」
「そう言うお前には、気になっている人がいないのか?」
暇つぶしだ。こいつの『恋バナ』に乗ってやろう。
気まぐれで言った質問だったが、
「オ、オレには……まだ早いですね。強いて言うなら、オレより強い女がいいです。そんで、自分の意思を持って道を切り開けるような……あ、あと。見た目もやっぱ肝心です」
しどろもどろになって答えた。
ライマーより強い女──自分の意思──見た目もいい──。
まさか……。
「おい、ライマー」
「へ、ひぇ!?」
俺はぬっと手を伸ばし、ライマーの腕を握った。
「お前まさか、ノーラのことが好きじゃないんだろうな? 言っておくが、ノーラは俺の婚約者。俺から寝取ろうとするとは、大した度胸だ」
「な、なに言ってんですか! あんなガサツな女、好きになるわけないですよ! オレだって、もっと女らしい女を好きになりたいです」
「ノーラはガサツじゃない。女性らしい魅力も秘めた女性だ。俺の前でノーラの悪口を言うとは……万死に値する」
「ああ! もう! こう言えばああ言う! アシュトンさん、心配しないでください! オレはアシュトンさんの味方ですから……」
ライマーが俺から逃れようとするが、簡単にこの腕を離すわけにはいかない。
ノーラの素晴らしさを、一晩かけてこいつに教えてやろう。
──こうして女子会トークと男子会トークは盛り上がり、眠らない夜を皆は過ごした。
鏡ユーマ先生によるコミカライズ五巻が絶賛配信中です。
ぜひ、そちらもお楽しみくださいませ。




