ノーラ、作家デビュー!?
コミカライズ三巻が好評発売中です!
こちらは、その発売記念短編となっています。ぜひ、お楽しみくださいませ。
ある日。
「うーん! やっぱりロマンス小説はいいわね!」
私──ノーラはアシュトン邸の自室で、ロマンス小説を読み漁っていた。
元々ロマンス小説は大好きだったけど、友達のセリアが出来てから、それが一気に加速した。
今では冒険者として活動して稼いだお金は、全て小説に注ぎ込んでいるほど。
もっとも、それをアシュトンが知ると「言ってくれれば、いくらでも買ってやるのに……」と苦い表情を作るのだが。
「あんま我儘言っちゃいけないわよね。それでなくても私、アシュトンにいっぱい迷惑かけてる……自覚はあるんだし」
我儘な公爵令嬢とは思われたくない。
「それにしても……こんだけ読んでたら、私でもなんだか書けちゃう気がしてくるわね」
これは読者の性とも言えるだろうか。
物語にたくさん触れていると、自分の中で妄想が膨らんでいく。そしてそれを形にしたくなってくるのだ。
あっ、そういえばセリアも先日、言ってくれたわね。
『ノーラの繊細な乙女心だったら、きっと良いロマンス小説が書けると思う!』
……って。
「ふふっ、セリアったら私のことをよく分かってるわね。ライマーからは熊みたいやらオークみたいやら、散々な言われ方をしているけど……」
こうしちゃいられない。
思い立ったら、すぐ行動だ!
私はペンと紙を手に取り、小説を書き殴るのであった──。
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私の婚約者はアレックス。
公爵貴族でとっても優しいのだ!
前も「君がもし魔物に襲われたら、俺はどのような手段を使ってでも君を救い出す」と言ってくれた。
あんなにキレイな顔をして、さらりと言ってくれるものだから、その度に私は胸がきゅんとなる。
まあ、それはそれとして。
私は魔物が蔓延る森の中を散歩していた。
「ふふーっ、今日は良い天気ね。そうだ。花でも摘んで、アレックスにプレゼントでも……」
「がおー!」
ジャイアントベアだ!
「きゃー」
私は悲鳴を上げた。
どうしよう……すぐに逃げなくっちゃ。
いや……待てよ?
「そもそもなんで私がジャイアントベアごときに、怯まないといけないのかしら?」
お父さんも言っていた。
魔物くらい、軽く一捻り出来るくらいの令嬢になれ──って。
ここで退いたら女がすたる。私は拳を構えた。
「うおー!」
私はジャイアントベアと戦った。
それはそれはもう壮絶な戦いだった。ジャイアントベアの体は固くて、なかなかダメージを与えることが出来なかった。爪先が頬を掠めて、肝を冷やしたものだ。
しかし最終的には私の必殺技ウルトラデラックスキックが見事ジャイアントベアに決まり、辛くも勝利をおさめることが出来た。
「こんなのに苦戦するなんて、私はダメね。もっと修行しなくっちゃ」
何故なら──それが令嬢としての嗜みだと思うからだ。
「一体どこにいたんだ! 心配して……」
倒れているジャイアントベアを前に反省していると、婚約者のアレックスが私を駆け寄ってきた。
きっと、なかなか戻ってこない私を心配して探しにきてくれたんだろう。
「どうしてジャイアントベアが死んで……?」
だけどアレックスは私とジャイアントベアの死体を交互に見て、不可解そうな表情を作った。
はっきり言って、引いていた。
「ジャ、ジャイアントベアに襲われていましたの! 反省点も多いですが、なんとか倒すことが出来ました!」
そんなアレックスに、私は右手で勝利のVサインを作るのであった。
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「酷すぎる……なんで、こんな酷い小説が出来たのかしら……」
完成した自作小説を読み直して、私は頭を抱えた。
どうして普通の女の子が、危険な森の中を散歩しているのよ……それにジャイアントベアに勝っちゃってるし。こんなロマンス小説見たことがない。
展開も強引すぎる。ジャイアントベアに立ち向かった時の緊迫感もない。どうして魔物と戦うことが、令嬢としての嗜みになるんだろうか?
「自分が書いたものながら、悪いところがいくらでも口から出てくるわ」
やっぱり、私は書くのに向いていないようだ。
私はあくまで読み専!
今回の経験を通して、あらためて心に強く誓うのであった。




