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話が違うと言われても、今更もう知りませんよ 〜婚約破棄された公爵令嬢は第七王子に溺愛される〜【書籍化】  作者: 鬱沢色素
本編

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63・ライマーの決闘

コミカライズ1巻が本日発売となります。

「ルールを簡単に決めておくわね。お互いに木剣を使う。そして先に相手の体に木剣を当てた者の勝ちとする。そのためなら、どのような手段を使っても構わない……これでどう?」


 私がそう告げると、リックは「はい!」と元気に返事をした。

 ライマーはちょっと不満そうに頷く。どうやら、私が審判役を買って出たことが気にいらないみたいだ。



「どこかで聞いたことのあるルールだな」

 とアシュトンは少し離れたところで、楽しそうに決闘を観覧していた。


 言わずもがな──これは私がアシュトンに初めて決闘をした時と、同じルールだ。


 シンプルだけど、お互いの実力がよく出ると考えたわけ。


 私は手を天高く振り上げてから、



「では……始め!」



 それを降ろし、決闘の始まりを告げた。


「とりゃあああああ!」


 まず先に仕掛けたのはリック。

 リックは木剣を振るい、ライマーに攻撃を放つ。


 しかし。


「甘い!」


 彼の木剣が当たる直前──ライマーがそれを自分の木剣で受け止めた。


「相変わらず考えなしに、真っ直ぐ突っ込んでくるんだな。そんなんじゃ、オレに勝てないぞ」

「そっちこそ! 防戦一方で勝てると思っているのか?」


 鍔迫り合いが起こる。


「ほら、ライマー! あんたもさっさと仕掛けなさいよ。そんなんじゃ、リックの言う通り、勝てないわよ!」

「審判が余計なこと……喋んじゃねえよおおおおお!」


 私の言葉が気に障ったのか、ライマーが力任せにリックを振り払う。

 リックは驚いた表情。ふらふらと後退し、再び木剣を構えた。


「お前……なかなか力強くなったじゃないか。村にいる頃は、ちょこまかと動き回ってただけなのに。やっぱり成長したんだな」


 しみしじみと言うリック。


「当たり前だ! 上から目線で語るんじゃねえ!」


 今度はライマーから仕掛ける。

 先ほどのリックと同様に距離を詰め、怒りのままに剣を振るった。



 ──そして、二人の剣戟が本格的に始まる。



 一進一退の攻防。

 実力は互角だった。

 ライマーもかなり強いことは確か。そうじゃないと、私もライマーと決闘を繰り返したりしないからね。

 でもリックも負けていない。ライマーと渡り合えるだなんて……彼も相当な実力者だ。


「んん……?」


 だけど──ライマーの動きを見て、私の中の違和感が徐々に大きくなっていく。


「ライマー──」


 戦いの最中だったけど、私がライマーに声をかけようとした時、



「ああっ!」



 ──リックの勢いに押され、とうとうライマーが木剣を右手から離してしまう。

 くるくると木剣は宙を舞い、近くの地面に突き刺さった。

 ライマーはすぐさまそれを拾いにいこうとするが、それよりも早く──リックが彼に剣先を突きつける。


「勝負ありだな」


 とそのままライマーの肩に軽く木剣を当てるリック。


「勝者──リック!」


 私は勝者の名前を告げる。

 ライマーは「なっ……!」と愕然とするが、やがてがっくしと肩を落とした。

 負けを認めたのだ。


「ライマー……お前……」


 一方のリックは決闘に勝利したというのに、複雑そうな表情だった。

 なにか言いたげに、落胆しているリックを見る。


「あなた、どうしたのよ。あなたらしくなかったわ。まるで、なにかに焦っているみたいな剣筋だった」

「……っ!」


 私の言ったことに、ライマーは二の句を継げない。


 反論してくると思ったけど……やっぱりライマーにも心当たりがあったんだろう。

 ライマーは子供っぽいところがある。

 だけど一方、戦いとなったら冷静に立ち振る舞うことも出来る男の子だ。


 それなのにさっきのライマーは、勝ちを急いでいた。

 そのせいで一旦退かなければならない場面でも、ライマーは強引に突っ込んだ。そのことがライマーの敗因に繋がったのだ。


 普通の人だったら気付かない程度の、微細な違い。

 これが戦いの最中、私がライマーに抱いていた違和感だったのだ。


「…………」


 そんなライマーを、アシュトンは腕を組んで黙って眺めている。


 その視線に気付いたのか、ライマーの顔が一瞬アシュトンの方へ向いた──その時だった。


「……くそっ!」

「ど、どこに行くのよ!?」


 私が引き止めるよりも早く──ライマーがその場から走り去ってしまったのだ。


「一体急にどうしたのよ!」


 私は大きな声でライマーの名前を呼ぶが、彼から反応は返ってこない。


 そしてとうとう彼の姿が見えなくなってしまう。

 取り残された私たち。

 なにがなんだか分からない。


 そんな微妙な空気の中、


「あいつ……なにか、迷っているようでした」


 リックが口を開いた。


「迷っている?」

「はい。確かに、あいつは強くなりました。剣の技術も村にいる頃よりも、見違えるほどでした。だけど……多分、あいつは戦いの最中に余計なことを考えていた。それがライマーの動きを鈍らせていたのです」


 どうやらリックも私と同じような違和感があったらしい。

 リックが純粋に嬉しがっていない理由も、それが分かっていたからかしら?


「私……ライマーを追いかけるわ」


 いてもたってもいられなくなった私は、そう走り出そうとするが……、


「やめておけ」


 とアシュトンに肩を掴まれた。


「どうしてよ」

「お前が行っても逆効果だ。あいつの迷いは、お前にも原因があるんだからな」


 私の……せい?

 もしかして、審判役なのに戦いの最中に野次を飛ばしたことかしら?

 ……うん。よくよく考えれば、そんなことをされたら気が散ってもおかしくない。


 なら尚更なおさら──。


「謝らないといけないじゃない! アシュトン、止めないで! 私、ライマーに謝ってくるわ!」


 私はアシュトンを振り払って、強引に走り出した。


 いくら審判役をしてテンションが上がりすぎたにせよ──あの行動はよくなかったわ。

 私のせいでライマーが負けたっていうなら、ちゃんと謝らないと!


「アシュトン様……行かせていいんですか?」

「ああ。お前は知らないだろうが、ああなったあいつを止めるのは至難の業だ。それにあいつは時に、俺の予想を遙かに超えたことをやってのける。一度、あいつに任せてみるのもいいだろう」

「そうなんですか……あなたはノーラさんを信頼しているんですね」


 後ろからアシュトンとリックが話しているそんな声が聞こえたが、私は気にせず、ライマーを追いかけた。

鏡ユーマ先生によるコミカライズ一巻が、本日発売となりました。よろしければ、ぜひお手に取ってくださいませ!

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