59・光に満ちた未来
翌朝。
朝日が昇ると一緒に、私も起床する。
「よく寝たわ」
うーんと背伸びをし、そのままアシュトンとライマーを起こした。
「二人とも、起きて。クロコッズに向かうわよ」
「ノーラか……早起きだな」
「そうかしら?」
アシュトンも瞼を擦りながら、起床する。
「お前はどうしてそんなに朝っぱらから元気なんだ……」
「私、朝は強い方なのよ。分かってるでしょ?」
「……知らない」
ライマーも目を覚ますが、まだ眠そうだ。ぴょんと跳ねた髪の寝癖が可愛らしかった。
──そういえば昨日、どこに行ってたの?
そう問いかけたくなったが、寸前のところで言葉を引っ込めた。
だってライマーだって一人前の男だもん。
いちいちどこに行ったかなんて聞かれたら、鬱陶しいだけでしょ。
夜中に見たライマーの姿も、もしかしたら夢だったかもしれない。
そんなことを思いながら──私たちはすぐに準備を済ませ、村の入り口まで向かった。
「もう行かれるのですか?」
リクハルドさんが私たちにそう尋ねる。
わざわざ見送りに来てくれたのだ。
しかも……見送りは彼だけではない。
そこには昨日私がお土産を買ったお店の店員さんもいるし、エイノの姿だって見える。
一泊だけしかしてないのに、こんな風に見送ってくれるなんて……感動ものね。
「ああ。先を急ぐものでな」
とアシュトンが口を動かす。
「残念です。もう少しあなたたちと──特にノーラさんと喋ってみたかった」
「あら、別に今生の別れじゃないんだから、そんなことを言わなくていいじゃない。また暇を見つけてここに来るわ。その時はもう少し落ち着いてお喋りしてくれる?」
「ええ、もちろんです」
柔和な笑みを浮かべるリクハルドさん。
一方エイノは、
「リ、リクハルド様になんて失礼な物言いを……! お前とリクハルド様とでは身分も種族も違うんだぞ! 友達みたいに話しかけるな!」
と悔しそうに拳をぎゅっと握りしめていたが、リクハルドさんに嗜められ、しょんぼりと肩を落としていた。
「ああ、そうだ──ノーラさんにこれを……」
リクハルドさんはなにかを思い出したかのように、懐からとあるものを取り出し私に渡した。
「これは……ネックレス?」
ネックレスには灰色の宝石らしきものが付けられていた。あまり見たことのない宝石だわ。これはなんなのかしら?
でも。
「キレイね。でも……どうしてこれを私に?」
「一度かけてみてください」
リクハルドさんの言った通り、ネックレスを首にかけてみる。
すると──灰色だった宝石が、淡い青へと変色したのだ。
驚いている私に、リクハルドさんはこう説明する。
「あなたは聖なる魔女について、不安に思ったりしていないでしょうが──それでも気になるでしょう。それはそんなあなたの道標になる。その青く染まった宝石が白くなった時、聖なる魔女はきっと本当の意味であなたの味方になる」
「……? なんだかよく分からないけど、ありがとね」
私のことを心配してくれているのかしら? だったら有り難いと思う半面、こんなネックレスまで頂けて少し悪い気がした。
「馬子にも衣装だな、ノーラ」
ネックレスをかけた私を、ライマーが茶化してくる。
「あら、キレイって言いたいの? あなたも言うようになったじゃない」
「なっ……! オレはそんなつもりじゃ……」
皮肉でそう返したら見る見るうちにライマーは慌て出した。その様子は、深夜に見た彼の切羽詰まったものとは違っていた。
本当になんだったのかしらね。
「じゃあ──そろそろ行くわ。見送りに来てくれてありがと。また来るわ!」
手を振りながら、見送りに来てくれたエルフたちにしばしの別れを告げる。
そしてゆっくりと歩き出した。
「お嬢ちゃんならいつでも大歓迎だ! また来な」
「ぼ、僕はもう懲り懲りだ! お前らが来たら村が騒がしくなるんだぞ! でも、まあ……悪いヤツじゃないことは確かみたいだな」
昨日の店員──そしてエイノの声が、どんどん小さくなっていく。
私たちは時折振り返りながら、でも歩く速度は緩めない。
そして最後に。
リクハルドさんが頭を下げ、最後にこう言葉を投げかけてくれた。
「あなたたちの行く末が、光で満ちていますように──」




