58・締まらない二人
「だが──その前に」
一転。
アシュトンは顔を上げて、懐から短刀を取り出し──それを天井に投げつけた。
短刀が天井に刺さる。これだったら、反対側まで貫通しているわね──と思った時だった。
──うおっ!?
ん?
天井裏から男の声が聞こえた。
アシュトンはそれを聞いて、再度短刀を投擲しようとする。
しかしそれより早く、天井裏の一部の板が外れ、上から人──いや、エルフが落ちてきたのだ。
「そこでなにをしていた」
「くっ……!」
アシュトンの厳しい追及に、エルフ──エイノは顔を歪めた。
どうしてあんなところにいるのかしら?
まだ理解が追いついていない。だけどこうしている間に──エイノがアシュトンにこう批判的な声を上げた。
「……っ! お前らがなにをするか分からないからな! こうやって、見張るのは普通のことなんだぞ!」
「ほお? 俺に黙って、隠し聞していたわけか。しかも最後の方には、扉を少し開けて中を見ようとしていたな? とんだ不届き者だ」
「ふ、不届き者だと!? それはお前らの方だ!」
とエイノはさらに顔を赤くする。
「どんなことを喋っていると思ったが……くだらない話しか聞こえてこなかったぞ!? しかもここがどこなのかも忘れ、二人でいちゃいちゃしやがる。一体二人でなにを、お、おおおおっ始める気だったんだ?」
「お、おっ始めるってなによ。人聞きの悪いことを言わないでちょうだい。ただ楽しくお喋りしていただけないじゃない」
「あ、あれが楽しくお喋りしてただけ……」
エイノはふらふらと後退する。
この子……かなり初心だわ。いや、私も人のこと言えないんだけど──だからこそ、変なところで親近感が湧いた。
「全く……この様子じゃあ、ノーラと落ち着いて時間も過ごせない」
と言うアシュトンの声には疲れが滲み出ていた。
「もしかして……やけに積極的だと思ったけど、エイノを炙り出すための罠?」
「まあ、そういったところだ。見られているのは分かっていたからな。ただ正確な位置は掴めなかった。だから一芝居打った──といったところだ」
なるほど。
でも、それにしては真に迫っていたものだったような気がする。そのせいで私も騙されてしまった。
「……まあ、演技を演技で終わらせなくても、俺は構わなかったんだがな」
「ア、アシュトン、なんか言った?」
「なんでもない」
とアシュトンが腕を組む。
──本当はちゃんと聞こえてたけど、その言葉の意味が分かったら、さらに頭がくらくらしそうだったのでやめた。
「私……もっと色々と慣れておくべきなのかしら。あなたと同じようにね」
「あなた? あなたって僕のことか!? お前らみたいな猿と同じにするんじゃない!」
「さ、猿じゃないわよ!」
恥ずかしさを誤魔化すように、私はエイノにそう反論した。
・・・・・・
その後──バタバタしていたためか、急激に眠気が襲ってきた。
ちなみに起きている間、結局ライマーは戻ってこなかった。
アシュトンに聞いても「あいつなら大丈夫」と言ってくれるだけで、気にしてないみたいだし……。
まあいっか。アシュトンが言うんだもの。大丈夫よね。
そういうわけで私たちは別々のベッドで寝ていたが──。
バタンッ。
……ん?
扉の閉まる音。どうやら誰か入ってきたみたい。
そのせいで目が覚めてしまった。
とはいえ、夢と現実の境目が分からなくなるくらい、頭がぼんやりとしている。
それでも眠気まなこで、誰が入ってきたか確認する。
あれは──ライマー?
でも……ちょっと様子がいつもと違う。
彼は何故か汗だくで、とても焦っているようだった。
「くそ……っ。このままじゃダメだ。オレはアシュトンさんの一番弟子なんだ……」
と一人でぶつぶつ呟いている。
なんで、そんなに焦っているのかしら?
ライマーは空いているベッドの前までふらふらと歩き、そのまま倒れてしまった。
大丈夫……?
──と、ちょっと心配になったけど、すぐに寝息が聞こえてきた。どうやら眠ってしまっただけらしい。
「ライマーはなにを……ああ──」
ダメだわ、眠い。
起きていようとしたけど、その抵抗虚しく──私の意識は夢の世界に引っ張られるのであった。




