26・モテる男は辛い
「おい、お前! どこに行ってたんだ!」
中庭に戻ると、両手に料理のお皿を持ったライマーが怒り顔で近付いてきた。
あっ、いけない……ライマーのことを忘れていたわ。それに律儀に私の渡したお皿をまだ持っているし。
「ごめんね、ライマー。いけないことをしてしまったわ。お皿を持ってくれて、ありがとね」
素直に謝ると、
「お、おう……あ、謝ったらいいんだ! 今度から気を付けろよな!」
ライマーは拍子抜けたのか、慌て気味にそう口にした。
「ノーラ。旨い料理を楽しんでいたのは分かるが、両手が塞がった状態でどうやって食べるつもりだったのだ。まさかかぶりつくつもりでもいたのか?」
あら、アシュトンも挨拶回りが終わったようね。
彼は私とライマーのやり取りを、楽しそうに見ていた。
「あら、失礼ね。それはたまにしかしないわ」
「……そ、そうか」
あれ?
アシュトンが私の言ったことに、ちょっと引き気味になっている。
私だってそんな犬みたいな真似はほとんどしない。
全く……アシュトンは私のことをなんて思っているのかしら。
「あっ、そういえばお友達が出来たの」
「ほう?」
「アシュトンたちにも紹介するわ。セリア……どうして、私の後ろに隠れているのよ。アシュトンとライマーに紹介させて」
ライマーたちと合流してから、何故だかずっと私の背中に身を隠しているセリア。
そんな彼女の腕を取り、アシュトンたちの前に引っ張り出す。
「あっ、ノーラ……セリアは……」
セリアはすぐに逃げ出そうとしたが、私に腕を掴まれているせいでそうすることが出来ない。
「……!」
アシュトンがセリアの顔を見た瞬間、表情を硬直させる。
え?
なんでこんな表情に?
「お前みたいな野生児にも人間の友達が出来たんだな……よかったよかった」
「ライマー。私のことをなんだと思っているのよ」
「おれはライマーだ。アシュトンさんの一番弟子だ! よろしくな」
ライマーが私の言ったことを無視して、セリアに手を差し出す。すると彼女もおずおずした様子ながらも、ライマーと握手をした。
「…………」
アシュトンは腕を組んで、憮然とした表情。
「……? どうしたのかしら。あっ、もしかしてアシュトンとセリアって元から知り合いだった?」
そういえば、セリアのことをイジめていた三人は気になることを言っていたしね。
あのバカな三人のことだからあまり気にしていなかったけど、アシュトンもこんな調子だったら気になるわ。
「セリアは……」
アシュトンがようやく口を開こうとした時であった。
「……セリア。アシュトン様の婚約者候補……だったの」
それよりも早く、セリアが答えた。
「あっ、そうだったの」
アシュトンは私と婚約する前、数々の婚約者候補と顔を合わせたと言っていた。
セリアもその中の一人だったということね。
「うん……すぐに門前払いされちゃったから、ノーラに対してやましいことはないんだけど……」
やましいこと? 私がそんなことを気にしていると思ったのかしら?
まあセリアの立場だったら分からないでもないけどね。
でもアシュトンに婚約者候補が複数存在していたことは私も知っていたし、今更なにも思わないわ。
「ふうん。でもアシュトンとセリアが元々そんな関係だったと聞いて、なんだか私も嬉しいわ」
「嬉しい……だと?」
きょとん顔のアシュトン。
「うん。だって、友達の知り合いがアシュトンだっただなんて、運命的なものを感じるじゃない!」
「……お前のポジティブさ加減は、呆れを通り越して尊敬するな」
アシュトンはそう口では言っているものの、呆れたように息を吐いた。
「そういえば、あの三人はあなたがアシュトンに色目を……って言ってたけど、それはどういう意味なのかしら?」
「ア、アシュトン様の婚約者候補になれるだけでも、誇れることだからっ。きっとあの人たちは、それが気に入らなかったんだ……と思う」
アシュトンにも視線をやると、彼は「だろな」と頷いた。
婚約者候補になっただけでも、やっかみを受けるだなんて……大変ね。セリアもアシュトンも。
モテる男は辛いというヤツだ。
「あっ、そうだ」
パンと手を叩き。
「積もる話もあるでしょう? せっかくだから、二人だけでちょっとお喋りしなさいよ」
「え、ええー? でもセリア、門前払いされただけだったし……なにも話すことなんか……」
「いいからいいから」
嫌がるセリアの背中を、私はぐいぐいと押す。
彼女はそう言っているけど、二人ともなにか話したそうだったのよね。
だからここは空気を読んで、そうするべきだと思った。
「ライマーも行くわよ!」
「はあ? どうしておれも……」
お次にライマーの背中を押して、私たちは二人の前から立ち去った。
そして二人と離れてから、
「ふふん、私ったら気の利く女よね。あなた、さっき。私のことを『野生児』って言ったけど、そうでもないのよ」
気分良く口にした。
だが、ライマーは呆れ顔で。
「……さっきので、気が利くなんて言ってたら、とんでもないぞ。アシュトンさんも苦労するだろうな」
「どういうこと?」
「自分で考えろ」
さらに問い質そうとしたけど、ライマーはそれ以上喋ってくれそうになかった。
「まあいっか。あっ、お皿持ってもらってありがとね。冷めないうちに早く食べなくちゃ」
「これくらい、容易いことだ。おい、ちょっと待て。ノーラ、お前本当にかぶりつくつもりじゃないだろうな? や、やめろ! みんながこっちを見て……!」
ライマーが何故だか、私のことを必死に止めてくる。
少し離れたところでは、アシュトンとセリアがなにやら深妙な顔で話していた。
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