合宿1
合宿編スタートっ
「好きだ。結婚してくれ」
……ほえ?
目の前には顔を赤くしつつも真剣な顔をした男の子の姿。
身長は高くて体つきは良い。
顔も整っており、やや女顔であるが精悍である。イケメン。
そんな人物から求婚されたら大概の女性は顔を赤くして思わず頷いてしまうかもしれない。
しかし俺はひたすら困惑していた。
まず第一に、俺は女性ではない。男だ。
そして第二に、目の前の男は俺の弟であるからだ。
「大丈夫。兄貴はもう、姉貴だから。立派な女性だから」
何を言って…
と自分の姿を見下ろせば大きな胸に括れた腰。
肩に届くくらいの長さの黒髪。
そんでもって純白のウェディングドレス。
あれ?俺女だったっけ?なんでドレス?
で、でも俺が女だとしても、お前は俺の弟で血が繋がっているし、結婚はできないはずだぞ
「それも大丈夫。俺がこの国の首相になって法律を変える」
……!?
「だから、俺のモノになってくれ、姉貴」
そう言ってユウは俺に顔を近づけて唇を重ねてきた。
むぐっ!?な、ななななな???
そのまま俺のことをベットに横たえると優しく俺のドレスを脱がしていく。
丁寧に下着も剥ぎ取られ生まれたままの姿にされる。
「すごく綺麗だ」
かぁっと顔が熱くなる。
同じようにタキシードを脱ぎ捨てたユウが俺に覆いかぶさってくる。
「や、やめろっ!おかしいだろ、男同士でこんなこと……!」
押し戻そうと抵抗するが程よく筋肉のついた体はビクともしない。
そうこうしているうちに腕の中に包み込まれ、肌と肌が直接ふれあう。
相手の体温を感じる。
……熱い…
ドキドキと鼓動が聞こえる。
この音は誰の音だろう。
俺の音だろうか、それともユウの音だろうか。
ユウの大きな手が優しく俺の素肌に触れる。
「んっ」
くすぐったさと少しの気持ち良さで声が漏れる。
な、なんだコレ…
俺はどうなっちゃってるんだろう?
頭がぼーっとして何も考えられない。
……もっと触られていたい。体温を感じていたい。
「…いいよな?」
「……うん…」
そうして二つの影が一つにーー……
………
ピピピピピ
………
ピッ……
……… "……うん…" じゃねーわっ!!!!!!!
朝5時。
目覚めは最悪である。
じっとりと大量の汗をかいていた。
なんつー夢を見たんだ……。
妙に生々しく、ただの夢には思えない。かといって現実感もないが。
ガラッと部屋の窓を開ける。
大きく息を吐いて新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
そしてまた大きく息を吐く。
ふー
うん。ちょっと頭がクリアになってきたぞ。
今日は何の日だったか。何か予定があったような。
あ、そうだ。バスケ部合宿が今日からだったな?
朝7時に学校からバスで出発するという話だったはずだ。
朝ごはん食べて出かけないと。
ユウを起こさないと。
あんな夢見たあとだからちょっと顔を合わせ辛いが、時間もないのでそうも言っていられない。
荒くなった呼吸を、もう一度落ち着けていく。
手早く制服に着替えると、小さく気合を入れて隣の部屋のドアの前に立った。
右手を挙げて軽く拳をつくりコンコンとノックをする。
すると
「…ぃぃょな?」
というむにゃむにゃした声が聞こえてきた。
何を確認されたのだろう。
むしろ俺が入っていいのか聞きたい。
その後特に反応もないので少し戸惑いつつもドアをそっと開ける。
予想通りベッドの上で眠っていた。やっぱり寝言か。
「ユウ、そろそろ起きろ。集合時間に間に合わなくなるぞ」
両手でゆさゆさと体を揺する。
「ん…む…?あ?姉貴?……あれ?なんで服着てんの?あれ?」
服ぐらい着るわ。それくらいの文明あるわ。
「寝ぼけてるのか?ホレ、さっさと起きろっ!」
強引に布団をめくり窓を開けて換気を促す。
朝方なので少し涼しい空気が通り抜ける。
これで頭がしゃっきりするだろう。
「……夢か………ハァ……せめて、もう少し後に起こしてもらえれば…姉貴とできたのに…」
ものすごーく残念そうな顔をして俯いている。
出来た?何が出来たのだろう。俺と一緒に何か作りたかったのだろうか。
何かやりたいことがあるのであれば夢の俺に頼らずとも、直接俺に言えばいいだろう。
弟の願いは極力叶えてあげたいしな。お兄ちゃんとして。
ま、それはいいとして、ホレホレ、そろそろ起きないと時間やばいぞ。
そう言って弟の手を取り体を引っ張る。
う、重たい。この体格差だと思うように引っ張れないな。
悔しいのでもう一度勢いつけて思いっきり引っ張る。
「わ、ちょ、ちょいまて!」
すると今度はベッドから移動させることに成功する。
…が体を支えきれずにバランスを崩してしまう。
「わぁっ!?」
いててて、しまった調子に乗りすぎた。勢いついたユウが転んだ俺の上に覆いかぶさってきてしまった。
おかしいなー、男だった頃なら支えられたと思うんだけどなー。この体には荷が勝ちすぎたか?
「すまん、ユウ、調子に乗っちゃった。……ユウ?」
覆いかぶさったユウが俺の顔を凝視している。
正確には、唇あたり?
ん?何かついてる?まだ朝ごはん食べてないんだけど。
「…ユウ?」
そう問いかけると、はっと顔をあげて俺の上から飛び退いた。
どうした?…まさかとは思うけど……息臭かった…?だとしたらかなり辛い。
「い、いや、そんなことはない。むしろいい匂いだったというか、吸い込みたいくらいというか」
それはやめろ。マコトみたいな真似をするな。おにーちゃんショックで泣くぞ。
なんにせよ目は覚めただろう。俺は朝ごはんの準備をするから先に降りてるぞ。
「…ああ…」
何か考え事をしているようだが、まぁ最近のユウにはよくあることだ。
あまり気にしなくて良いだろう。
そう思いユウの部屋から出てドアを締める。
ふー…
いかん、少し動揺してしまった。
ユウの体が俺の体を覆いかぶさった時、不覚にも少しドキッとしてしまった。
あいつは俺の弟だというのに、なんだというのだ。
この間の風呂の一件から、妙に意識してしまう時がある。
ユウに悟られてはいないだろうか?余計な心配はかけたくない。
まったく、兄が弟に対して、男性を意識しているなんて……いや、いやいや、してない、してないよな?
俺はHOMOじゃないよな?血だって繋がっている。
そう、この感覚は多分、もっと別の、……えっと、筋肉が羨ましいとか、たぶん憧れのようなものだ。うん。
…だよな?
妙なもやもやを抱えたまま、俺は階段を降りていった。
◇◇◇
一世一代の大勝負がまさか夢だったとは…。
告白したあといい雰囲気の流れになったので俺は姉貴にキスをした。
夢の中の姉貴の唇は柔らかく、なんだか甘い香りがした。
そのままの流れでやや強引に押し倒し、念願の姉貴の肢体に手を伸ばし「いただきます」と心の中でつぶやいたところで、他ならぬ姉貴の手によって現実に引き戻された。
だが、強引な起こし方をされたせいで俺は姉貴の上に覆いかぶさってしまう。
まるで夢の続きを見ているようだった。
そして、吸い込まれるように、艶やかなピンク色した唇を見つめる。
姉貴の呼吸音が聞こえた。
夢と同じで、なんだか甘い香りだった。
ここに自分の唇を重ねたらどんなに心地よいだろうか
夢と同じように、キスをするところから再開しようか
危なかった。あのまま声をかけられなかったら、きっとちゅーをしていた。
いや、むしろ、そうなっていればよかったような。
ぐぬぬ、でも嫌われたくないしなー、やっぱりちゃんと手順を踏んで、ちゃんとお付き合いしてからでないと……。
え?姉弟だろう?知らんな。そんなことは些末なことよ。世界でも姉弟の婚姻は認められてないようだが、最悪、戸籍を変えてしまえば…!!
いや、なにも世間に認めてもらう必要もない。俺と姉貴さえOKならオールオッケーなのだし。
うん。問題ない。
なんにせよ、姉貴は俺のことを弟以上には見てくれていない。
もっと異性として意識してもらわなくては。
これから始まる合宿で、家にいる時とは違う俺の姿を見てもらえたら意識してもらえるだろうか?
あるいは、非日常でテンションが上がった時、勢いに任せて告白したらOKしてくれるかもしれない。
よーし、やるぞおおおお!!!
俺はバスケとは関係ない方向に気合を入れたのであった。




