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美少女男子高校生の日常  作者: くろめる
第二章 夏
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七夕祭り1

西の空が茜色に染まり、肌を焼くような日差しが柔らかくなってきた頃、俺は学校近くの商店街までやってきていた。


今日は7月24日(金)

商店街では七夕祭りが行われている。

駅のホームから出てきた浴衣姿のカップルや、女性グループやらがどんどん吸い込まれていく。

あたりは楽しそうな喧騒に包まれていて、どこか遠くから祭囃子も聞こえてくる。


うーん。お祭りって感じ!楽しみだ。


それにしても通り過ぎていく人たちが俺に気がつくとジロジロと見てくる。

…うう、なんだろう、やっぱりこの格好似合ってないのかなぁ…?


友人が来るのを待ちつつ、行き交う人を眺めたり眺められたりして挙動不審にしていると正面から声がかけられた。


「おっまたせー!お、ちゃんと浴衣着てきたのね。えらいえらい」


とぐりぐり頭を撫でてきたのは青山だ。

青山は空色の生地に朝顔の花を咲かせた可愛らしくて凛々しい浴衣姿だった。

青山によく似合っている。


かくいう俺も今日は浴衣姿である。


それも男物ではなくちゃんと女物の浴衣だ。

いつものような気兼ねない私服で出かけようとしたところ、たまたまパートが休みだった母に捕まり「私が若いころ来ていた可愛い浴衣があるのよ。着て行きなさい」と言われた。

最初は渋ったんだけれど「アキツグくんもきっとあんたの浴衣姿見たいと思ってるわよ?」という言葉に耳をピクリとさせ、ついつい言われるがままに着替えさせられてしまった。


薄いピンク地に桜の花びらをあしらった可愛らしい浴衣だった。

今ではそこそこ長くなった髪の毛も母の手によってアップにされアキツグにもらったバレッタでとめられている。


…に、似合ってるかな…?

浴衣を着るというのも初めての体験なので緊張する。


「行き交う人にすごいジロジロ見られたんだけど、へ、変じゃ無いか?」

「大丈夫。よく似合ってるわよ…特にうなじが美味しそうで(じゅるり)」


覗き込むように後ろに回った青山が俺の首筋を指先でついっと撫でる。


「うひゃぅ!?」

「あっははは、ごめん、いいリアクションだわ〜」


おもちゃにするんじゃないっ!

どうにも青山には敵わないというか、いいように遊ばれてしまう…

なんだろう、この猫とネズミのような覆せない感じの関係は…


青山とじゃれあってたら友人たちが続々と集まってきた。

「仲がいいわねぇ二人とも。お姉さん妬いちゃうわ」

「人が多いのだからはしゃぎすぎるなよ」

「はぁはぁっ、コウくん、浴衣姿がとてもキュートだねっ、おいしいよ」

「こんにちはみなさん〜。わ、神崎さん浴衣も似合うね!」


香織姉、アキラ、マコト、木嶋さんと、


「こ、こんにちは〜」

「コンニチハ、みなサン」


富岡と黒居もやってきた。

黒居はなんだか富岡に隠れるようにしている。


富岡は洋服だが黒居は浴衣を着ていた。黒居も浴衣持ってたんだなー。海外から来たという話だったから持って無いかと思ってたよ。


「私が用意したのよ。黒居さんの浴衣姿似合いそうだったから。どうかしら?」


少し得意げに香織姉が微笑む。なるほど香織姉の計らいだったのか。

黒を基調とした夜空のような浴衣は金色の黒居の髪によく似合っている。

頭の上で揺れている同系色のリボンともよく合う。


「ええ、とても似合ってると思います。綺麗ですよ、黒居さん」


「…そ、そうデスかっ、に、似合ってると思ってイマシタ!」


富岡の陰からでてきてドヤ顔で胸をそらしている。

が、肌が白いから顔が赤くなって、照れているのがわかりやすい。


ちなみに社交辞令なんかじゃなくて本心から似合ってると思っている。

やはり美少女は良い。目の肥やし、眼福である。うむうむ。


「やぁ、神崎さん!浴衣姿が似合ってるね!胸がちょっと窮屈そうで大変かもしれないk グフッ!?」

「富岡はっ、いつも、神崎サンの胸ばっかりっっ!!」


黒居が若干涙目で、富岡の尻を連続タイキックしていた。


もしやと思っていたけど、これは、妬きもちってやつでしょうか…?

…ははぁーん。

周囲を見るとみんな生暖かい目をして二人のやりとりを眺めていた。


「な、なんデスかっ!?そのにやけた顔わっ!」

「「「「「「いや、べっつにー?」」」」」」


香織姉と木嶋さんも浴衣姿がよく似合っている。

香織姉はやや緑がかった黒(あとで香織姉に聞いたら黒緑という日本色らしい)と白色の縦のストライプ柄…なんていうんだろう?すごく大人っぽい。どこかのカルタを取る巨乳の女子高生が言っていたが、和服だと胸もしっかり安定しているようで香織姉ほどの大きさでも揺れない。


…そこの富岡、残念そうな顔をしない。またタイキックされるぞ。


木嶋さんも落ち着いた感じのデザインで文学少女然としている。

意外なことにアキラやマコトも浴衣を着ていた。


「みんなもよく浴衣似合ってますね」


とお互いに褒めあったりして。


そんなやりとりをしていたら、アキツグがようやく合流してきた。

汗ダクだぁ…。練習終わらせてすぐ来たんだろう。


「はぁ、はぁ、、、ふー…またせたな!」


アキツグはちょっと外見チャラいが整った顔をしているので汗をかいていてもなんだか様になっている。

さすがに浴衣を持って行く余裕はなかったのか、普通に制服だった。ちょっと残念。


「毒島くん、汗拭いてください」

「おっ、わりーな、コウ。サンキュー」


どうせ大急ぎで汗だくになるだろうと思っていたのであらかじめ用意しておいたスポーツタオルを渡してやる。


「準備いいな、コウ」


アキラが感心したように言う。


「こうなると思ってましたので」


そう言ってアキツグから向き直るとみんなが妙にニヤニヤした顔でこちらを見ていた。


「…な、なんですかっ」

「「「「「「「いや、べっつにー?」」」」」」」



全員揃ったところで屋台を見て回る。

七夕祭りのメインは7時半から行われる花火大会だ。

近くに大きな川があるのでそこで行われる。この先の神社の境内からも眺められるのであとでそこへ向かおう。


しかし大所帯になったなぁ。

俺、アキツグ、アキラ、マコト、香織姉、青山、木嶋さん、黒居、富岡の9人か。

野球チーム組めるぞ。


あんまり大勢でぞろぞろ歩くのも迷惑かな?かなり人の行き来が多いし…。

そう思ってたら香織姉、青山、木嶋さんが近くの射的に目を光らせて、寄って行った。

ああいうのフツー男の方が好きなもんじゃないか?


「ちょっと遊んでくから、先行ってていいよ!花火の時間までには行くからさ!」


青山がそういうので他のメンツで屋台を巡る。

ううっ、しかし人多いな〜。

すれ違う人の波にもまれてはぐれそうになる。

俺身長ないから飲み込まれるとつらいっ

あっ


人に飲まれて先を行くアキラやマコトが見えなくなる。

ついでにぶつかられてコケそうになる。


「おい、大丈夫か?」

「あ、ありがと…」


アキツグが手をとって支えてくれた。

危ない危ない、母に借りた浴衣を汚すところだったよ。

ふと握られた右手に視線を注ぐと、なんだか急に照れ臭くなってきた。

な、なに手握っちゃってるんだ俺はっ!?お、男同士で手を繋ぐとか変だろっ…!?


アキツグを見るとプイッと目を逸らしたが特に手を離すことはなかった。


……

ま、まぁ、人混みやばいし?慣れない浴衣だし?背低いし?今は一応女だし?

このほうが安全だよね!うん、しかたないっ。



◇◇◇



おー、やばい…。うっかり手を握っちまった。

人混み多いし、こいつ小さいから心配なんだよな。


…しかし、なんだ。


こいつの手、小さくて暖かくて、柔らかいな…。

女の手ってみんなこうなのか?

すべすべしてて華奢で…。


って、違う違う。こいつは男だった。

他の誰が忘れても、俺は忘れちゃいけない。

いつかこいつは男に戻るんだから、それまでしっかり守ってやらないと。


だから手は離さない。そう、しかたないからな!

ちらっとコウがこっちを見てきたけど、顔を赤くしてたが嫌がってはいなそうだった。

むしろ軽くきゅって握り返してきた。


……やばい可愛いな……


浴衣姿も本人には照れくさくて伝えてないが、めちゃくちゃ似合ってる。

いつもと違うアップにした髪型がたまらん…。


ああ〜〜ううう〜〜あああ〜〜〜


全てを投げ捨てて、コウを……


…くっそ、人生ままならねーなぁ…





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