奮闘
いろいろと時間軸が前後したりします。ムズカシイ。
*時間は少し遡る。
それにしてもここには時計がないから今が一体いつの何時なのかさっぱりわからない。
俺は捕まってからどれだけ寝ていたんだろう。
仮眠程度で済んでればいいのだけれど、、
さっきの大声で誰もこなかった様子を見ると、防音が効いているのか、人がいないのか、どちらだろうな。。
部屋の隅をよーく見ると監視カメラのような物がある。
もし監視カメラを見ている人がいたら、誰かやってきそうなもんだけど、反応がないな。。
もしかして今チャンスなのか?
とりあえずこの首輪をなんとかしたいな。
チェーンは固くて切れそうにないが、首輪自体は丈夫な皮という感じだ。
手触りも良い。首に傷がつかないように配慮されている感じがする。
とは言え、手で引っ張って取れるような様子はないな。。ぐいぐい。くそっ。
無駄にしっかりした作りになっているな。伸びたりもしなそうだ。。
何か刃物のような物でもあれば・・。
当たり前だが周囲にナイフやハサミなんて物は置いてない。
あるのは電気スタンド、高級そうなソファ、よくわからんクマの置物、、と壺くらいか。。
どれも刃物の代わりにはなりそうに無いな・・。
そういえばお金持ちの家にはなんでか壺があるよな。。
やはり金持ちは壺なんだろうか。。
高そうな壺を見ながらそんなことを考える。
そこで一つ思いつく。
例えば、この壺を割って、その破片をナイフの代わりにしてはどうだろうか。
・・やってみるか。
あまり派手に動くとバレそうかもと思うけど、さっき大声出しても反応なかったんだし、ちょっとくらい大丈夫だろ。
チェーンはさほど長くは無いが、なんとか壺のところまでは移動できた。
よし、この壺を・・えいっ!
俺は一思いに壺を絨毯に叩きつけた。
ガシャッ
硬質な音を響かせて壺が割れた。
お、いい感じの破片ができたな、、で、こいつを使って、、
首輪に宛てがい、ゴリゴリとこする。
首の血管切ったらシャレにならないからな、、慎重に。。
擦っては切れ込みを手で確認する作業を繰り返す。
・・
・・・
・・・・
・・かれこれ15分程度経過しただろうか、懸命に擦り付けた結果、首輪に深い切れ目を入れることに成功した。
あとはもう力ずくで、、引きちぎるっ・・・!
ぶちっ
ふう。なんとか首輪取れたぞ、、
第一ステップはクリアだな。
問題は、この部屋の扉だ。
チェーンのせいで近づくことができなかったので確認していないが、鍵がかかってたら骨折り損もいいところである。
「・・開いてますように。。」
・・開いてるわけないよなぁ、、俺だったら鍵閉めるわ。。
俺は祈るような気持ちで扉に手をかける。
ガチャリ
!
おっ。
これは意外。予想に反して軽い手応えを返してきた。
「ずいぶん抜けてる犯人だなぁ・・。」
そんな相手に捕まったのかと思うと悲しくなるな。
だけど好都合だ。これで脱出まで大きく前進できたぞ。
なるべく音を立て無いように、そっと扉を開く。
扉の外は廊下になっていた。廊下にも窓らしきものは一切ない。
薄暗いダウンライトが点々と配置されている。
急に誰か出てきたら大声をあげてしまう自信があるな。。これは。。
正直ちょっと怖い。俺は怪談とか怖い話はダメなんだ・・。
そこの角の暗がりから、、急に・・なんて・・!
ブンブンと頭を振って恐怖心を取り払う。
うう〜〜怖くない、怖くないぞ〜〜〜!
うん、ゆっくり行こう。
地面には俺のいた部屋ほどではないが、絨毯?カーペットかな。が敷かれており、足音が響くこともなさそうだ。ベッドの上にいたけれど、足にはヒールが履かされていたからな。まぁ、最悪脱ぐだけだけど。
少し進むと、別の部屋があった。そこの扉が若干開いていて、明かりが漏れ出していた。
・・覗いてみるか・・?
少々迷ったが、見るだけ見てみることにする。このまま進んだところで簡単に外に出られるとは限らない。
出入り口はさすがに施錠されているか、見張りがいることだろう。
何か有用な武器かなんか欲しいところだ。バールとか。
そーっと、扉の隙間から室内を覗き見る。
俺の部屋よりは明るいな。物音も聞こえ無いし、人影も見え無いな。。
しかしパーティションのような遮蔽物があって中の様子はよく見えない。
よし、ちょっと入ってみるか。
これまたゆっくりと扉を開いて中へと侵入する。
うーん。気分はス◯ーク。ウェディングドレスを着てスニーキングミッションなんてやらないだろうけどな。
中に入って扉を閉め、周囲を見渡し、俺は驚愕した。
「・・・っな、、、なんだこれは・・・」
そこはあまり広く無い部屋だった。四畳半程度だろうか。
その部屋の壁一面にはポスターやら写真が隙間なく貼られていた。
問題なのはそのポスターや写真に写っている人物だ。
それの全てが年端の行かない少女たちだ。
具体的には中学生くらいの。みんな可愛らしい。
また、その撮られ方が、おかしい。
一枚としてカメラ目線の写真はない。
高い所から俯瞰して撮られたような写真が多く、しかも着替え中だったりする。
・・これ更衣室の盗撮じゃないのか・・・?
他にも下校中の姿を遠くから撮ったような写真や、植え込みから撮影したようなものもある。
手前に若干、葉っぱのようなものが写り込んでたり。
そんな写真に紛れて、俺の写真もあった。
これは、俺が下着屋で買い物している時の写真だ。。
他にも通学中の写真や、陸橋の階段下から撮影したようなきわどい写真もある。
また、これは電車だろうか、、完全に下着が写っているものまであった。
口を開いて唖然としていた。
言葉を無くしてフラフラとした俺は、床にある柔らかいものを踏んでしまう。
「・・・わぁぁあ!?」
うっかりバランスを崩して尻餅を付いてしまった。いてて。
そこに転がっていたのは、俺の姿を等身大サイズにプリントした抱き枕だった。
しかも、なぜか下着姿。
プリントされた俺は瞳を潤ませ、大きく両手を広げていた。
こ、こんな姿でこんなポーズしたことないぞ!?
また、抱き枕は随分と使い込まれた感じがあった。
俺の胸のあたりとか、下腹部あたりの布地が随分と傷んでいるように見える。。
ぞわっとした。全身に鳥肌が立つ。
きもい、、キモすぎる・・・!!
今すぐ焼却処分したい衝動に駆られるが、手元に火はない。ちっ。
それにこれは犯罪の立派な証拠にもなるからな。。うっかり燃やしてしまう訳にもいかないか。。
結局この部屋には脱出の手がかりになりそうな物はなかった。
犯人の性癖が分かったくらいだな。
仕方ない、さっさと先へ進もう。どこが出口か分からないけどな。。
◇◇◇
とある薄暗い一室で、モニターを眺める女がいた。
モニターには抱き枕をうっかり踏んづけてしまい、すっ転んでいる少女の姿が映し出されていた。
女は同室にいる他の人間が安らかな寝息を立てていることを確認すると、手に持ったカードをひと撫でし、立ち上がった。
その瞳にはある決意のような物が浮かんでいた。




