バースデー1
俺が女になって1ヶ月が経過していた。
慌ただしかった4月が過ぎ去り、季節は初夏を迎えようとしていた。
5月といえば・・
「ねえ、コウ、ゴールデンウィークってたしかコウの誕生日だよね?パーティーとかしないの?」
お昼休み。教室で青山と木嶋さんとお弁当を広げていた。ちなみにアキツグはさっさと食べ終わって、体育館にバスケをしに行ってしまった。あいつも大概バスケ馬鹿だ。
俺の誕生日は5月5日。子供の日だ。
なので、もうすぐ17歳になるわけだ。だからといってなんということはないのだけれど。
「誕生パーティですか、、やったところで誰か来てくれるでしょうか。」
自分で自分の誕生日を祝ってもらおうと集めるのもちょっと恥ずかしいが、それで誰も来てくれなかったらより一層恥ずかしい。なので俺は誕生パーティで誰かを招待したことはなかった。
いつも家族に祝ってもらっていて、それで十分だったし。
「パーティいいじゃない。やりましょうよ。私お呼ばれされたいわ」
この一ヶ月で、これまでの事情を知っている友人を除くと、木嶋さんが一番仲良くなった気がする。
彼女はクラス委員もやっていることもあって、なにかと編入生(という設定)の俺を気にかけてくれる親切な人だ。・・過度なスキンシップが気になるところではあるが。
「それは是非、僕もお伺いしたいなぁ。」
富岡・・・。結構ぐいぐいガールズトークに入ってくるなお前は。その度胸は素直に尊敬するよ。
以前の俺だったら絶対できない。
「そんな、来ていただけるのは嬉しいですけれど、うちもそんなに広くはありませんし、、」
うちは一戸建てだけど、敷地は広くない。大人数を呼んでパーティ、、10人程度なら詰めれば可能だろうけれど、ちょっと手狭かなぁ。
それになにより、女体化の事実をしらないメンツを家に上げるのは危険すぎる。
すると青山が少し思案していたが、何かを決意したかのように口を開いた。
「じゃぁ、うちでやろっか?」
え?青山の家?・・そういえば青山の家とか行ったことないな。そもそも高校に入って友人の家に行ったことはあんまりなかったな。なんとなく青山も家に呼ぶことは避けていたような気がするし。
いいのか?自分の誕生日でもないのに、使わせてもらって。
「うん、だいじょうぶ。5月5日だよね?しっかり準備しとくよ」
ウィンクで返してくる青山。かわいいぞ青山。
誕生パーティーか、、友達を呼ぶのは初めてだから、ちょっと緊張するな。
えっとメンバーは、、青山、木嶋さん、富岡、あとはいつものメンツでアキツグ、香織姉、アキラ、マコト、、くらいかな?俺含めて8人てところか。丁度いいんじゃないかな。
「あら、お姉さま、誕生日なの?」
なぜ君がここにいるのかな彼山さん。
「それは偶然通りかかったからよ」
2年の教室は通りかかることないと思うのだけど。
「まぁまぁ、そんなことはどうでもいいじゃない!わたしも行くわ!お姉さまの誕生パーティに!」
彼山はなぜか、この間から俺のことを「お姉さま」と呼ぶ。
不良に絡まれた一件からすっかり大人しくなって、アキツグや俺に絡まなくなったなーと思ってたら
気がついたらなんだか懐かれてた。・・・まぁ、可愛いからいいけどさ。
お姉さまと呼んであとをトテトテついてくる姿は可愛らしい。俺よりも背が小さいのもあって妹がいたらこんな感じなのかなーと思う。なのでお姉さまと呼ばれるのも悪い気はしないのだ。
「わかりました。メンバーに入れておきますね。詳細は追って連絡しますので、教室に戻りなさい。」
やった〜!と手を上げて喜び去っていった。
ーーーーーーー
実はコウ本人は知らないが、男に媚びる様子のない姿勢や凜とした立ち振る舞いと言葉遣い、それと彼山を助けた逸話からコウのことを「お姉さま」と呼ぶ女子は結構な数いるのであった。
ーーーーーーー
なんだか不穏なナレーションが聞こえたきがするけど、まあいいか。。
俺ってなんか準備したほうがいいのかな?
「そこは私と木嶋さんに、あと香織姉に任せときなさい!主賓は時間になったら来ればいいわ」
そうかい?じゃあ、楽しみにさせてもらおうかな。ありがとう青山。
面と向かって礼を言うと、ちょっと照れたように頬をかいていた。
そして迎えたゴールデンウィーク。
ただこの連休が終わったしばらく後に、中間テストが待っているため課題はたんとだされた。
鬱だ。
適当に課題をこなしつつ、誕生日を待つ。それ以外の休日は家族と出かけたりしていた。
今回は友達の家でパーティを開いてもらうことを家族に伝えたら、父と弟がしょんぼりしていた。
なぜ君達がしょんぼりするのだろうか。俺の誕生日をそんなに祝いたかったのかな?
だとしたらちょっと申し訳ないけど、まぁ、たまにはいいじゃないか!
誕生日当日、私服で会うということで、服装選びにはなかなか難儀していた。
男の頃はぱっと適当に選んで着てたんだけど、今となっては、いちレディー。そうはいくまい。。
うーん、、まぁ、、こんなもんか。
この間、母と一緒にショッピングに行って買ってもらった、サマーカラーのマキシワンピに、カーディガンを羽織ってサンダルを履いて出かける。もうかなり暖かいからな〜、こんな格好でも出歩けてしまう。
青山の家は丁度、俺の地元と学校の駅の中間地点くらいの場所にある。
俺は定期をつかって電車に乗り込んだ。
定期券って便利だよな。お金のない学生の強い味方である。
ちなみにアキツグはすでに青山の家にいっているらしい。
主賓は遅れて登場するものだそうだ。
おばあさんに席を譲ったりしながら、揺られること十数分。駅に到着した。
駅では青山が待っていてくれた。
「おっ、いいねぇ〜コウ。夏っぽくてかわいい!・・すっかり女子だねぇ?」
うぐっ、不本意ながらな。。
結局なにも手がかりは得られていないし、かといって俺は男に戻るのを諦めたわけではないぞ。
青山の格好はデニムのショートパンツにTシャツといったラフな格好。太ももが眩しい。
「・・格好は女の子だけど、、思考は男の子のままかな?にひひ」
自分の太ももを撫でて見せてくる青山、え、エロい。。って!ちゃうわい!そそそんなんじゃねーし!
ぶつぶつと自分の中の心の息子を宥めつつ、青山の後をついていく。
この辺りはベッドタウンなのか、閑静な住宅街が続く。
・・しかも大きい家が多い。
「はい。ついたよ。」
ぽかーんと口を大きく開けて見上げてしまう。
その中で一際巨大な存在感を放つ屋敷が青山の家だった。
大きく横に広がった城壁のような門扉、その内側には丁寧に整えられた植木が並ぶ。
庭、ひろっ。
庭の面積だけでうちの総面積を上回ってるなこれは。
メインの屋敷はもっと大きく、20部屋くらいはありそうだ。
上品な白塗りの壁にゴシックな雰囲気を持った窓や装飾が目に入る。まさに「洋館」といった雰囲気だ。
しかし古臭くなく近代的である。
「すごいな、青山の家は・・・」
「・・ま、家はね。。それに別に私がすごいわけじゃないし。」
どこかつまらなそうに言う青山。どうしたんだろう。
そりゃお前が家を建てたわけじゃないだろうけども。
「まぁ、いいから入って入って!」
青山に促されて玄関の扉を開く。
すると
ぱん!ぱーーーん!!
という破裂音がエントランスに鳴り響いた。
「「「コウ、お誕生日おめでとうー!」」」
早速友人達がクラッカーで出迎えてくれた。
おおびっくりした。いきなり鳴らされるとは思ってなかったわ。
こういうのってケーキの火を消すときにやるもんじゃなかったっけ?
まぁ、いいけど。
「ありがとうみんな」
スッと歩み寄ってくる人影がひとつ。
「ああ、コウくん、制服姿も似合うけれど、私服姿もやっぱり素敵だね。とてもいい香りがするよ(すはすは)」
お前は本当ブレないな。。
富岡、お前も匂いを嗅ごうとするんじゃない。
それにしても玄関からもうすごいな。なんて広さだよ。
調度品も立派で品の良いものばかりだ。
それにしても、連休のど真ん中に楔を打つように予定を入れてしまって悪かったなぁと思う。
連休なのだから家族と旅行に行く予定なんかもあったかもしれないのに。
「んなことはねーよ、さぁ入れ入れ。」
お前んちじゃないだろうが。
アキツグが手を出してきたので取ろうとしたら、何故か引っ込められた。
っと、コケるじゃないか!
無理やり手を取って中に入れてもらう。
横で富岡が「ぐぬぬ」と言ってたけど気にしない。
ちらりと奥をみるとポニーテールのよく似合う背の高い女性がいた。
あれ?ハルカも来てる。
「コウにーちゃんの誕生パーティにあたしが行かないわけないでしょ〜!てか誘ってよう!」
あはは、ごめんごめん。そもそもパーティだって開くつもりなかったんだから許してくれ。
これならユウも呼んでやればよかったかな・・?最近あまり構ってあげてないし、そうだな今度一緒に遊びに連れてってやろう。
俺たちはリビングに通された。
みんな青山の家に来るのは初めてらしく、きょろきょろしては
ふわぁ〜と感嘆の声をあげていた。
先に来てたんじゃないのかよ。
「俺たちもさっき来たばかりだったんだ。お前が間もなく来るというのでエントランスで待機していた。」
答えてくれたのはアキラ。
そうだったのか。香織姉と木嶋さんはどこだろう。
そう思ってたらリビング奥のキッチンから声がした。
「私は先に入らせて頂いたけどね〜。いらっしゃいコウちゃん。」
「お、神崎さんきたわねー!」
「お姉さま〜〜!」
あ、彼山もいたのか。すっかり忘れてたわ。
そうぷくーっとむくれるなよ。冗談だ。なでりなでり。
「じゃあ始めよっか。主賓はこちらの席にど〜ぞっ」
大きな食卓の一番端っこに座らせられる。
まごうことなきお誕生日席である。
テーブルには料理が配膳されている。
唐揚げ、スパゲッティ、クラッカーにクリームチーズを乗せたおつまみ、フライドポテト、ピザ、サラダなどなど盛りだくさんの内容だ。
くぅ、っとお腹が小さく音を漏らした。
うう恥ずかしい。
しょうがないじゃん!お昼食べてないし、美味しそうだし、お腹すいたんだよう!
「ふふふ、そう言って貰えると作った甲斐があったわ〜」
え、これ香織姉が作ったの?
「私と、夏帆ちゃんも協力したのよ?」
木嶋さんと彼山も手伝ってくれたのか、ありがとう。
そして女子力高いなみんな。
ちらりとハルカを見ると、ハルカは食べ物しか見てなかった。あ、うん。
「ほんじゃ、みんな席ついたね?」
パチパチっと電気を消していく青山。部屋はカーテンで閉めきっているので真っ暗だ。
これは、定番のアレですな・・どきどき。
やがてキッチンの方から橙色の光が見えてきた。
青山の手に乗せられた橙色の光は、俺の座るテーブルまで到達すると
そっと、俺の目の前に置かれた。
「ごほん、え〜、ではみなさま、ご唱和ください」
会社員か。
「「「ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー、ハッピバ〜スデ〜ディア、コ〜ウ〜」」」
「「「ハッピバーディトゥ〜ユゥ〜〜♪」」」
よっし、吹き消すぞ!
フウゥゥゥー!!
・・きえ、た!
「「「誕生日おめでとう〜〜〜!!!」」」
さっきも聞いたけどありがとー!
いやー、友達にこういう形で祝ってもらえるのもいいもんだな。
「さー、みんな、食べて食べて〜!そこで"待て"されてるワンコも"よし"よ。」
「ひどいよ青山さん〜〜」
ハルカは運動部だけあって食事の量も結構なもんだ。
ハッピバースデーの歌の最中も小さくお腹がなっているのが聞こえていた。
・・俺も人のことは言えないんですけど。
それにしても随分立派なケーキだなぁ。白い生クリームをベースにてっぺんにはふんだんにイチゴが乗っている。イチゴにはゼリー状のコーティングがされていてキラキラしてて綺麗で美味しそう。
ちなみにロウソクはイチゴを避けるようにぐるっと外周に17本刺されていた。
ちょっと吹き消すの大変だったぞ。
もしかしてこれも・・手作り?
「流石にそれはないわ。それは青山さんが用意してくれたのよ。」
「まぁ、私っつーか、パパがね。友達のお祝いするっていったら用意してくれたんだ。」
そうなのか。あとでお礼を言わないとな。
今日は家にいないのかな?
「うん、ちょっと仕事で出てる。夕方には帰ってくるかな?」
じゃあ、そのときにでも。
さてご飯いただきます!
・・うむ、こらうまい!うむ!
お、アキツグその唐揚げ頂戴!
アキツグの皿から一個唐揚げを奪ってやった。
「あっ!てめ!」
ははは。よいではないか。
じゃあ代わりにこのハンバーグをやろう。
ほれ、あーん
「っ、、べつにいい。」
む、なんだよアキツグのくせに。ノリが悪いぞ。
じゃあ食べちゃおう。
うむうまい。
俺たちは出された料理をことごとく平らげていった。
男子高校生の胃袋をなめてはいけない。
主に、アキツグ、アキラ、ハルカの3人が群を抜いていた。
ハルカよ・・・。
「さて、それではコウ、こちらへどーぞ!」
ん?なんだなんだ?俺は今パスタを食べてたんだけど。
「パスタは逃げやしないわよ。さぁおいでー。」
そんなことはない。油断してたら欠食児童たちに・・。あ、はい行きます。
「はい、私たちからのプレゼント。」
!!
これは、、
プレゼントは俺が以前ショッピングモールで眺めていた洋服だった。
レースアップスカートにはアンティークなモチーフをカラー刺繍してあり、豪華だ。
ブラウスにも細かな刺繍が入っていて、手が込んでるのを感じる。
豪華な上下に加えてブーツまで、、結構したんじゃないのかこれ・・!?
「まあね〜〜。みんなでお金を出し合って買ったのよん。感謝してよね?」
するする!ありがとうみんな・・!
(・・コウってもう自分が男だったってことほぼ忘れてるよね・・)
(・・ええ、たまに一緒に買い物に行くのだけど、可愛いもの好きみたいよ・・)
「お姉さま、着てみてよ!」
え?ここで着替えるのか?
「ああ、着替えるんだったら、こっちにおいで。」
青山に手を引かれてやってきたのは、、これは衣装部屋か・・?
「まぁ、ちょっと大きめの、ウォークインクローゼットよ。」
ほう。。むむ、なかなか可愛らしい服がいっぱい。。
「・・着てみたいならあとでかしてあげよっか?」
べ、べつにそんなんじゃない。ちょっと見てみただけで・・もごもご。
「あはは、まぁ、着てみたくなったら言って?私も着せてみたいし。・・一人で着替えられる?」
流石にもう大丈夫だ。なんだかんだで一ヶ月経ってるしな。
さて、青山も出てったので着替えよう。
かわいいなぁ、スカートの刺繍綺麗だな〜〜。生地も柔らかくて履き心地よさそう。
・・・?
なんとなく視線を感じて振り返ったが、誰もいなかった。
気のせいか。
ちゃちゃっと着替えて出よう。
着替え終わったらとりあず姿見の前でくるっと一回転してみる。
スカートがふわっと舞い上がった。
・・にへっ・・
いいんじゃん、結構いいんじゃん・・?
「た、ただいまー」
ちょっと緊張するな。。似合ってるかな?
リビングに戻るとみんなの視線があつまる。
うう、恥ずかしい・・!制服と違ってなんだか変な感じだ!
スカートの長さとか制服とあんまり変わらないんだけどな。
「お姉さまかわいい!」
「いいわね、神崎さん似合ってる、、じゅるり」
「ああ、いいよ、いいよコウくん!とても美味しそうだ!」
「コウちゃん、よく似合ってるわ」
「・・う、うむ。いいんじゃないのか?」
「コウにーちゃん、すっかり女子だなぁ、、私よかずっと可愛いよぉぉ」
「神崎さん、素敵だぁぁ、ぼ、僕と・・もごもご」
「うん、私の見立てに間違いはなかったわね、バッチリよ、コウ」
へへ、ど、どうだ!
そう褒められると照れてしまうけど、やっぱり嬉しいな。
・・・って、いかんいかん俺は男なんだぞ、、女子の服が似合ったところでなんだというのか。
ブンブン頭を振る俺。俺は男、俺は男、、、よしっ。
・・ところでアキツグからの感想がないんだけど?
ちらっとアキツグを見ると、目を逸らされた。
ん?なんだ?どうしたアキツグ?
近づいて覗き込むとますます逸らされる。
・・・む、、なんなんだ。
結局そのままアキツグは何も言ってくれなかった。
・・ふぅ〜ん・・なんだか、面白くないぞ。。
気がついたらキャラが増えてました。




