表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/98

025 1層を一掃? <04/03(水)PM 00:14>

 はじまりの街[スパデズ]周辺で唯一のダンジョン、[山の洞窟]の1層を探索中の俺達は、2度の山ゾック(斧)LV6 との戦闘を終え、休憩を取りながら少し情報交換をした。

 その結果、2層の山ゾック(銃)LV7との戦闘はリスクが高すぎる、という事になり、2層へは行かず1層を全て探索して終了する、という事で意見が一致したのだった。



「じゃぁさ~、せっかく回復してもらえるんだし?1層の敵を~、ぜ~んぶ倒して帰んない?」

「ヒキ蝙蝠コウモリも倒すって事?」

「そ~、ひょっとして~”BADもーびる”出るかもじゃ~ん?」

「ん~、あれ出るのかなぁ?」

「出るんですかねぇ?」

「・・・・・・」

 相変わらずこういう時、シノブさんはミケネコさんに釘付けだ。時々ミケネコの耳がプルプルッ、と動くのを見て嬉しそうにしている。


 「………」”BADもーびる”とは、ヒキ蝙蝠 LV4の激レアドロップである。20cmほどの真っ黒ないかつい車のモデルカーで、完成度?が高く、モデルカー収集家?に人気があり、40,000G程度で取り引きされる。

 ヒキ蝙蝠は非アクティブモンスターで、これといった特殊な攻撃も無く倒しやすいのであるが、この[山の洞窟]では最弱であるだけあって、経験値も少なく、Gも少なく、通常、レアドロップともに、たいした価値が無く・・・ようするに”マズいモンスター”なのである。

 そのためあまり狩られず、当然激レアの”BADもーびる”もあまり出回らず、常に需要が高いのだ。しかし「山ゾック(斧)を100匹狩って、出た斧全部NPCに売った方がマシじゃね?」というのが、ゲーム時代の某掲示板での意見であった。本当に出ないのだ。



「だからさ~、なるべく運が高そうな?シノちゃんがFB〔※1〕取るようにしてさ~」

「運(LUC)は見えないですからねぇ」

「ですよね」

「絶対シノちゃん”運”高いって~、クリティカル出しまくりじゃん?」

「ん~、それはそうなんだけど」

「まぁ俺はドロップ関係無いので、どうするか3人で決めてもらっていいですよ」

 ヒキ蝙蝠LV4は、山ゾック(斧)LV6との戦闘中に、誤爆したりするのが危険なだけで、単体では初戦の通り、全く大した相手では無い。”ただマズい”というだけだ。

 ちなみにモンスターのドロップは、トドメをさした(FB)プレイヤーの運(LUC)が影響すると言われている。


「ねっ、ねっ?”BADもーびる”1回見てみたいじゃ~ん」

「そりゃ気にはなるけど、シノちゃんどうする?」

「・・・みたい」

「ん~、まぁシノちゃんもそう言うなら・・・全部倒そっか」

「さんせ~」

「・・・うん」

「了解です」

 これにより、1層一掃作戦が立案される事となった。


「えっと、最初の(ヒキ蝙蝠戦の)時って、どうだったっけ?」

「ん~と、ユウちゃんがFAとって~、シノちゃんが背後から斬りつけて?、アタシの火球[ファイヤーボール]で倒したんじゃなかった?」

「それじゃ、私がFAとって、マドちゃんが先に火球[ファイヤーボール]当てて、シノちゃんがトドメ(FB)、でやってみよっか」

「おっけ~」

「・・・とどめさす」

「いいと思います」

 作戦も決まったので足の上に丸まって、くつろいでいたミケネコさんをそっと横に避ける。


「ご主人さま?」

「1層の敵を一掃する事になった」

「いっそ~をいっそ~?」

「あぁ、まぁ俺はどちらにせよ回復するだけだ」

「かいふくするだけ~」

 両前足を前方に突き出し「う~ん」と伸びをしているミケネコに、そう説明しながら立ち上がる、しばらく話しこんでいたのでMPは完全回復したようだ。MAGに振っていないとはいえ、1層をまわるぐらいなら問題は無いだろう。そっと視界の右下の方へ意識を向けると<04/03(水)PM 00:18>と表示されていた。


「とにかく、この通路の先からですね」

 ユウコさんの言葉に全員が同意する。これまでの様にまたユウコさんを先頭に、2人が中ほどに付き最後尾から俺が付いてすすむ。


 先ほど2体の山ゾック(斧)が乱入してきた、左へ曲がった地点にさしかかると、ユウコさんが手で”俺達に止まる様”に合図をしてから、1人で左の壁に添い、そっとその曲がり角の先を確認する。


「・・・階段です」

 ユウコさんが気が抜けた様にその場で報告する。ユウコさんのところへ行き曲がり角の先を見ると、まっすぐ20mほどの何も無い通路の先に下り階段が見えた。


 「………」TJOにおいて、階段は”安全地帯”となっていて、モンスターは侵入出来ず、プレイヤーも”戦闘状態”に切り替える事が出来ない。そして階段から約15~20mにはモンスターも、あまり近寄らない様になっている。

 これはゲーム時代、あまり人気の無いダンジョンで、階段前に何十匹も詰まっていた事があり、プレイヤーは階段上なので、”戦闘状態”に切り替えられず倒す事も出来ず、モンスターがギュウギュウに詰まって、抜けて下りる事も出来なくなっていたのだ。

 攻略不可能になってしまっていたため、緊急メンテで全ダンジョンの”階段前のモンスター”が取り除かれ、次の定期メンテ時に再発防止のため、モンスターが階段付近に近寄らないように、かつPOPしない様に修正されたのである。

 つまり先ほどの乱入してきた山ゾック(斧)は、この階段付近に近寄れず、ぎりぎり20m付近の曲がり角のそばに居たため、俺達の戦闘に気付いたのだろう。


「そんじゃ~広間のヒキ蝙蝠3体からだね~」

「そうだね、戻ろう」

「・・・うん」

「そうですね」

 俺達は2層へは行かないし、すでに休憩と回復をすませてしまったので、”安全地帯の階段”にも用が無い。Uターンしてユウコさんを先頭に広間へ戻る。


 広間に帰ってくると先ほどと同様に、まだヒキ蝙蝠が3体、天井にぶら下がっていた。山ゾック(斧)もPOPしていないようだ、先ほどの場所は広間の壁のすぐ向こうだったから、近すぎてPOP不可能だったのかもしれない。


「ピット(落とし穴)が(広間の)正面にあるから気をつけて、左のヒキ蝙蝠から1体ずつ確実に倒しましょう」

 「………」ピットは最初に入ってきた通路から見て右隅だったので、この通路から見ると正面にある。


「FA取ったら、少し他の2体から引き離す様に下がるから、そしたらマドちゃんお願いね」

「りょうか~い」


「「「「!!」」」」

 そう確認をとったところで、最初に俺達が入ってきた通路の方から人影があらわれた。


 シノブさんは”みならい斥候”である。そのため、半径15m範囲の”戦闘状態の存在”は察知する事が出来るのだが、”通常状態の存在”は察知できない。こういう場合には、俺達と発見速度はあまり変わらないのだ。


 ざっと確認すると、白ネームの男女6人のフルパーティ(TJOではパーティは6名まで)の様だ。2名ほど非表示だが、LVも7~9とかなり高い。ユウコさんがリーダーなので代表して挨拶をする。


「こんにちは~」、「こんにちは~」

 相手もリーダーらしき人が挨拶をする。


「あ~、俺達は、このまま2層に行くので気にしないで~」

 おそらく彼等は2層に備えて、MPやアイテムを温存したいから、1層のモンスター相手に不要な戦闘はしたくないのだろう。どうやらモンスターの取りあいにはならない様だ、まぁ取りあうようなモンスターではないのだが。


「はい、どうも」

「それでは~」

 すでに来た事があるのだろう、部屋の様子を確かめる事も無く、迷わず階段の方の通路へ向かって進んでいった。


 「………」TJOではダンジョンは、半ランダム生成となっている。ある程度のパターンはあるものの、そのダンジョンの規模に応じてMAPが生成される。

 まず入り口から階段、階段から階段、階段からボス部屋へのルートといった、いわゆる正解ルートが”そのダンジョン毎に設定された規模”で生成される。その後、横通路、広間などが付加されていくようなシステムなので、階段を下りたらすぐボス部屋だったり、階段までのルートが存在しないという事は起こらない。

 毎月28日のPM11:59に、全てのプレイヤーがダンジョン内から強制退去させられ、その直後の毎月1日のAM00:00に、全てのダンジョンのMAPが新しくなる。(別にこの1分で生成されているわけで無く、あらかじめ生成されていたMAPと、この瞬間に差し替えているだけであろう)

 つまり大規模なダンジョンは、”月初め”に攻略をはじめる方が良いのだが、こんな最初のダンジョンなどで、そんな気遣いは不要である。


 ちなみにオートマッピングが採用されているので、”MAP表示”と念じれば、すでに通過した場所が、半透明のMAPで視界の右上辺りに表示される。

 俺の場合は入り口や通路、広間、先ほどの階段ぐらいしか表示されないが、”みならい斥候”であるシノブさんは、察知、発見した罠なども表示されているだろう。



 そんな事を考えている間に、彼等が完全に通路の先に消えたので、もう”実は俺達はPKだったのだ”などの心配も無さそうだ。


「それでは気を取り直して・・・」

 ユウコさんが、一番左のヒキ蝙蝠に接近してから”戦闘状態”に切り替えた。戦闘BGMが流れはじめる。それを見てツカサさんとシノブさんも”戦闘状態”に切り替えた。そのままツカサさんは、シノブさんの”鉄の刀”に魔法をかける。


「・・・まやかしの切れ味[フロードシャープ]〔※2〕」

 シノブさんの”鉄の刀”がほのかに光る。威力とクリティカル率を上げて、確実にシノブさんがFBを取れるようにするためだろう。


 ユウコさんが”青銅の盾”を左手で構えた状態のまま、右手の”鉄の長剣”を引いて、天井からぶら下がったままの、ヒキ蝙蝠の背後から斬りつけた。


「ギッ、ギギィィィーー」

 突然背後から斬りかかられた左のヒキ蝙蝠が、怒りの声をあげる。FAをとったユウコさんは”青銅の盾”を構えたまま、他のヒキ蝙蝠を巻き込まない様に後ろに5mほど下がる。ヒキ蝙蝠は逃がすまいとして、羽ばたきながら追いかけてくる。


「ユウちゃん、気をつけて~・・・火球[ファイヤーボール]」

 ツカサさんの声を聞いて、ユウコさんは”青銅の盾”の陰に隠れる。ツカサさんの”樫の杖”の先からソフトボールほどの火の玉が直進し、羽ばたいていたヒキ蝙蝠の背中に直撃して燃え上がる。


「キィィィ・・・・・」

 そのままヒキ蝙蝠は墜落して息絶えた。そばに”ヒキ皮と80G”が落ちている。

「・・・とどめ・・・」

 トドメをさそうとヒキ蝙蝠の背後に回りこんで、逆手で”鉄の刀+1”を構えていたシノブさんが、少し不満そうな声を上げた。


「あれ~?」

「倒しちゃったね」

「・・・・・・あぁ!、飛行状態のクリティカル補正では?」

「あっ!・・・そっか~、あったねそんなの~」

「そう言えばありましたね」

「・・・とどめ」

「魔法のクリティカルって~わかんないんだよね~」

「斬った時みたいに”派手な音”とか、すればいいのにね」

「ですねぇ」


 「………」TJOではプレイヤーが空を飛ぶ、浮かぶという、術やスキルも存在している。しかし飛行中の状態で攻撃を受けると、”全てクリティカル”として扱われ深刻なダメージを受ける。これらはモンスターにも適用されており、空を飛ぶという有利さに対するリスク、代償として機能している。

 そもそも旅客機や戦闘機であっても、ミサイルどころか飛行中の鳥と激突バードストライクしただけで、墜落、不時着するほどである。

 「飛行中にまともに攻撃を食らっても、平気で飛び続けられるなどは、ゲームや創作の中でしか不可能なのだ。ましてや翼や羽根にダメージを受けて、その後も何の影響も無く飛べるなど馬鹿げている」とはヤマコウの言葉である。

 そのためTJOでは、何の考えもなしに浮かんだり飛んだりすると、狂える暴風[ウィンドストーム]などで、大ダメージを喰らった上、叩き落とされて一掃されてしまう。

 さらには味方を巻き込む危険性から、普段は不用意に使えない大魔法などを、”これ幸い”とばかりに、空に向かってぶっ放される事すら


「ご主人さま?」

 しまった、戦闘中に長考を・・・いや、まだ3人で攻撃順について相談している様だ。とりあえず、ミケネコさんの背中を撫でたりしていよう。どうせ俺は回復しか出来ないしな。


「よし、それじゃ~ユウちゃんがFA取った後、もっかい攻撃してから、シノちゃんでFB取る感じで~」

「そうだね、それでやってみよう」

「・・・とどめさす」

「いいと思います」

 まぁそのぐらいで丁度よさそうだ、ダメならシノブさんがもう1度攻撃すれば、さすがに耐えられないだろう。作戦会議が終わって天井の方を見ると、ヒキ蝙蝠が2体、最初と変わらぬ姿でぶら下がっていた。

LV:6(非公開)

職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)

サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)

所持金:525G

武器:なし

防具:布の服

所持品:9/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×5、バリ好きー(お得用)70%、青銅の長剣、樽(中)95%、コップ(木)、サクランボ×1、鋼のナイフ、鉄の斧



〔※1〕TJOにおいて、

 ”最初の攻撃”を、ファーストアタック(略されてFAと呼ばれている)という。そして”トドメの一撃”を、フィニッシングブロウ(略されてFBと呼ばれている)という。これらはどちらも討伐時に”経験値ボーナスが加算され”獲得できる。

 戦国時代などにおいての”一番槍”や、”首級をあげる、首を取る、討ち取る”、といった行為に相当する、と考えていただくとイメージしやすいかと思われる。


〔※2〕まやかしの切れ味[フロードシャープ]

 半径10m範囲内の”戦闘状態”の、対象1人が装備している武器の品質を、その戦闘中に限り+1する(効果は重複しない、+9には効果が無い)魔法力により対象の武器の鋭さを増し、切れ味をあげる。あくまで切れ味だけであり属性などは付与されない。何故か切れ味の無い武器でも効果はあるので安心。


 ”戦闘時の専用魔法”であるのと、”戦闘状態の相手にしか効果が無い”ため、両者が”戦闘状態”にならないとならず、戦闘前にあらかじめかけておく事が出来ない。(おそらく悪用しての交換サギなどの防止のためであろう、戦闘状態では取り引き行為は出来ない)

 低品質では+1の効果はさほどでも無いが、元が高品質であるほど効果が高くなる。また長期戦が予想される場合には、使用する、しないで総ダメージにかなりの差が出てくる。


火球[ファイヤーボール] ソフトボール大の火球を作り出し、対象1体にぶつけて炎と衝撃によるダメージを与える。



「ご主人さま、すぐぼ~っとする~」

「あぁ、ある程度ぼ~っとしてたら止めてくれ」

「あるていど~?」

「10行くらいか」

「じゅ~ぎょ~??」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ