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018 ダンジョンPOP宝箱と運だめし <04/03(水)AM 09:58>

 はじまりの街[スパデズ]北口広場の隅のベンチで、ミケネコにバリ好きーを食べさせていた俺は、[山の洞窟]探索のための”回復職”を募集をしていた、”みならい戦士LV7のユウコ”さん、”みならい魔法使いLV7のツカサ”さん、”みならい斥候LV6のシノブ”さんの3人と探索する事になり、はじまりの街[スパデズ]周辺で、唯一のダンジョン[山の洞窟]の入り口までやって来ていた。



「あの、入る前に少し提案があるのですが」

「はい、なんですか?」

「ちょっとした”運だめし”をしてみませんか?」

「運だめし?」

「え~、な~に~?」

「・・・・・・」

 ユウコさんは不思議そうに、ツカサさんは不審そうに俺を見ている。シノブさんは全く興味が無いのか、俺の足元でくつろいでいるミケネコの方を見ている。

 俺はインベントリから”鉄の長剣”を取り出す。


「この”鉄の長剣”とですね、”最初の宝箱の中身”を交換しませんか?」

「え?」

「ん~?どういうこと~?」

「つまりですね、この”鉄の長剣”を差し上げるので、”最初の宝箱の中身”は俺が貰うと・・・そういう交換です。もし、この鉄の長剣より良い物が出てしまったら残念、悪い物が出たらラッキー、どちらになっても”うらみっこ無し”で」


 ユウコさんは自分の”青銅の長剣”を見ながら何か考えている。その姿を見て不審そうだったツカサさんが、”鉄の長剣”を指差しながら質問してきた。

「それって~20,000Gだっけ~?」

「買値は、そうですね。実は宝箱から出てきたので 0Gなのですが」

「あ~、高いやつ拾ったけど~、自分には役にたたないし、欲しい人探して売るのも面倒だから、次の宝箱の中身でいいや~って?」

「そんなところです」

「ふ~ん」

 ツカサさんも俺と鉄の長剣を、ジロジロと見ながら何か考えている。


「ん~・・・うん、いいんじゃん?、ユウちゃん貰っちゃいなよ~」

「マドちゃん・・・」

「ココそんな良い物ばっか出ないって~、しかも最初の1個でしょ~?そっち(鉄の長剣)なら確実にユウちゃんパワーアップすんじゃん」

「そっかな、シノちゃんはどう思う?」

「・・・いいと思う」

「わかりました。それでは”最初の宝箱の中身”と交換で」

「はい、”うらみっこ無し”ですよ?」

 俺はそのままユウコさんに”鉄の長剣”を渡す。


「え、いいんですか?」

「俺が持ってても仕方無いですし、ユウコさんが”パワーアップ”した方が安全になりますから」

「すみません、では先に頂きますね」

 ユウコさんが俺の差し出した”鉄の長剣”を受け取り、装備していた”青銅の長剣”をインベントリにしまった。


「本当に・・・拾ったばかりなんですね」

 ユウコさんはさっそく”鉄の長剣”の”耐久値”を調べたのだろう。

※ちなみに耐久値がゼロになると、品質が1下がり、耐久値は回復する。

例)鉄の長剣 0/80 →鉄の長剣-1 75/75 →鉄の長剣-1 0/75 →鉄の長剣-2 70/70


「えぇ、使い道が無いし、売るのもどうかな~といった感じで、あっ・・・でも、”無い”とは思いますが、もし宝箱がゼロだったら返して貰ってもいいですか?」

「あぁ、そうですね。それだと交換にならないですし、お返しします」

「すみません、お願いします」



 そんな感じでユウコさんが、青銅シリーズ一式から武器だけ鉄製にパワーアップして、いよいよ はじめてのダンジョン[山の洞窟]に突入である。視界の右下へ意識を向けると<04/03(水)AM 10:06>と表示されていた。ちなみにシノブさんは、この間ほとんどミケネコを見ていた。ほんと猫が好きなんだな。


 俺は閉鎖空間に入るので、念の為に入り口に向かう3人の後ろから、そっと全員に向けて万能抗原体[オールマイティーワクチン]を唱えた、気休めだが。

 万能、オールマイティ、などと言うと何だか凄そうだが、そういうモノは得てして他愛の無いモノだ。要するに魔法の”マスク”だ、とでも思っていただけるとイメージしやすいだろう。”全ての病気に効く”確かに間違いでは無いかもしれないが、決して全てから”完全に”護っているわけでは無い。何の対策もしていない人よりは、病気にかかりにくくなる、かも?その程度だ。みならい僧侶の初期魔法だしな。

 ・・・ん?ツカサさんに睨まれた?気のせいか?



 「………」さてダンジョン、洞窟と聞くと、イメージするのは炭鉱とかの”廃坑”みたいな感じでは無いだろうか?何故か人間が数人楽々歩いて通れる、ちょうど良い大きさの通路が、均等の径でダンジョン中に伸びていて、要所要所に大部屋や小部屋があり、何故か明るい。

 実際の洞窟は、入り口からして縦長だったり横長だったりして、ギリギリ人の頭が通るかどうかだったり、中に入れてもすぐに狭まっていて、這って通るのも難しかったり、すぐに塞がっていたり、少し中に入れば真っ暗で辺りは見えなくなり、染み出した水で通路が何十メートルも水没していたり・・・思ったほどゲーム等で想像していた様な、ダンジョン的な構造はしていないらしい。


 そしてここ[山の洞窟]は、思いっきり”前者”である。もう「これテーマパークなのでは?」な感じの洞窟だ。縦横3mほどの四角い通路で構成されていて、何人かで固まって歩いても十分な幅と高さがある。特に廃坑の様に補強もされていないのに、多少の戦闘や魔法では全く崩れたりする様子も無い。謎の安心設計だ。そして光ゴケ的な設定なのか、このダンジョンの中は、人の目で不自由無いくらいには明るい。

 まぁ初ダンジョンであまり張りきられても困る。ここは初心者がダンジョンでの、冒険の基本を学ぶ様なところだしな。”ダンジョンマスター空気読んだ”ってところだろう。


 ・・・などと、どうでも良い事を考えながら3人の後ろを歩いていた。一応周囲を警戒はしているつもりだが、本職の”みならい斥候”のシノブさんが居るので、俺の警戒など気休め以外のなんだというのだろう。


 ”斥候”とは簡単に言えば偵察兵で、普通のゲームでいう盗賊、シーフである、・・・あるのだが、このゲームでは斥候という職になったため、普通のゲームでいう盗賊、シーフの能力と、本来の斥候の能力を併せ持った、スペシャリストになってしまったのだ。


 つまり通常でイメージする盗賊よりも遥かに発見、察知という能力に優れている。その一例が


警報:罠[トラップアラート][P]半径5m範囲の罠の存在を察知する。

警報:急襲[レイドアラート][P]半径15m範囲の戦闘状態の存在を察知する。


 この2つのスキルである、[P]とはパッシブ、常時発動しているスキルという事だ。つまり”みならい斥候系”は、常時、半径5m範囲の罠の存在を察知し、半径15m範囲の戦闘状態の存在を察知できるのだ。


 しかもアクティブスキル(パッシブスキルの反対で、任意にMP等を消費し使用するスキル)を使用すると、さらに広範囲の”罠”と”戦闘状態の存在”を察知可能という、

「盗賊、シーフという名前を使いたくないから”斥候”という名前にしました」という説明で、一部のプレイヤーは「斥候じゃ無いんですか!、中身は盗賊シーフなんですか!やったーー!」だったのに、実際には盗賊シーフにイメージされる、”盗む”、”ぶんどる”などといったスキルは存在せず、「バリバリ斥候(偵察兵)じゃないすか!やだーー!」と思わせたほどの発見、察知能力なのだ。


「!!・・・右の通路に罠」

「罠?それじゃとりあえず、左の通路から探索しましょうか」

「おっけ~」

「・・・うん」

「了解です」

 こんな調子だ、斥候すごい!俺ひとりだと1/2にぶんのいちで罠直撃だったろうなぁ・・・まぁだからこそダンジョンに行きたい時は、こうやって臨時パーティにお邪魔するのだ。

 幸い回復職は一番プレイヤーが少ないので”回復だけ”でも割と簡単に参加させてもらえる。俺が「さすがにダンジョンは斥候が居ないとなぁ」と感じるように、「さすがにダンジョンやボスは回復職が居ないとなぁ」なのだろう。


「!!、あれは・・・」

「ヒキ蝙蝠だっけ~?」

「ですね」

 「………」ヒキ蝙蝠コウモリLV4 だったかな?非アクティブモンスターで[山の洞窟]では最弱だったはず。何がなんでも引き篭もって洞窟からは出ない、だから洞窟の外には居ないという設定だ。ちなみに非アクティブなのだが、攻撃されると烈火のごとく怒る、キレる世代という奴だ。見た目は・・・80cmほどの小さめの気持ち悪いハーピーの様な、腕が羽根の・・・コウモリ人間?


「よしっ、ここまで1回も戦闘してないので、1度戦ってみましょう」

「おっけ~」

「・・・わかった」

「了解です」

 リーダー役のユウコさんの判断に3人が同意する。


「私がFA〔※1〕を取ります」

「まかせる~」

「・・・うん」

「了解です」

 ユウコさんが”鉄の長剣”を腰から抜いて、上段に構えると戦闘BGMが流れはじめた。”戦闘状態バトルモード”へ切り替えた証拠だ。そのまま上段からヒキ蝙蝠に対して思いきり斬りつける。


「ギィィィーー」

 いきなり斬りかかられたヒキ蝙蝠が、怒りの声をあげる。ユウコさんはすぐに”青銅の盾”を構えて、ヒキ蝙蝠の反撃に備えている。斬りかかったユウコさんに、反撃しようとヒキ蝙蝠が構えた瞬間、


「・・・えい」

 ヒキ蝙蝠の背後にまわりこんでいたシノブさんが、”鉄の刀”を逆手に持って、ヒキ蝙蝠の背中を横一文字に切り裂く。


「ギ、ギィィ」

 ユウコさんの攻撃に続けて背中を斬られて一瞬怯んだが、最初に攻撃(FA)された、ユウコさんに対する憎しみ(ヘイト)の方が高いのだろう、ヒキ蝙蝠はシノブさんには構わずに、目の前のユウコさんに噛みつこうとする。


「シノちゃん、はなれて~・・・火球[ファイヤーボール]」

 ツカサさんの声を聞いて、シノブさんがサッと離脱したのを確認すると、そのままヒキ蝙蝠の横っ面を目掛けて、火球[ファイヤーボール]が唱えられた。ソフトボールほどの火の玉が杖の先から直進し、ヒキ蝙蝠に直撃して燃え上がる。


「キィィ・・・・・・」

 ヒキ蝙蝠がそう声を上げ、地面に倒れこんで息絶えた。3人が”通常状態”に戻し戦闘BGMが止まる。・・・おわかりいただけただろうか?、この予想通りの何もしていない感。

 これで「俺にもドロップよこせ」とか要求するほど俺はメンタル強くないですよ・・・他の僧侶系の人はどうしてるんだろう?

 ヒキ蝙蝠は”82G”と”ヒキ皮”を落とした。とりあえず代表してツカサさんが持つようだ。ちょっと意外だ、そういうのはユウコさんの役目っぽいが。


「・・・あそこ」

「あ、宝箱」

「お~」

「ありましたねぇ」

 ヒキ蝙蝠との戦闘が終わって、シノブさんが指差した通路のスミの方を見ると、そこには宝箱がひっそりと存在していた。


 「………」うん、これで鉄の長剣は正式にユウコさんのモノになったな。

 さて中身は何だろう?思いつきの運だめしは、果たして吉と出るか凶と出るか・・・

LV:6(非公開)

職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)

サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)

所持金:525G

武器:なし

防具:布の服

所持品:7/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×9、バリ好きー(お得用)75%、青銅の長剣、樽(中)95%、コップ(木)、サクランボ×1



〔※1〕TJOにおいて、最初の攻撃をファーストアタック(略されてFAと呼ばれている)という。

 この最初の攻撃(FA)をしたプレイヤーは、そのモンスター(達)からのヘイト(憎しみ)が一際高く、基本的に生半可な事では、他のプレイヤーにターゲット(攻撃目標)が移動する事はない。

(一部に移り気なモンスター等も存在するので絶対ではない)

 この仕様により、ほぼ同時に一体のモンスターに、複数のプレイヤー(パーティ等)が攻撃を仕掛けても、どちらに優先権〔※2〕があるかは明白となる。FAを取れなかったプレイヤー(パーティ等)は速やかに譲らないと、最初の1回を含め3回目以降の攻撃は”故意の横やりである”とされ、善行悪行値にマイナスペナルティが課せられる。(同一パーティ、同一クラン、同一レギオン等はこれに該当しない)

 また動きが遅いながらも頑強である壁役が、労せずヘイトを引き受ける事が出来るため、普通のパーティでは”壁役がFAを取る”のが基本となっている。


〔※2〕優先権についての補足

 FAにより得た優先権は、逃走しようと通常状態ノーマルモードに切り替えたり、相手モンスターに敗北して、死亡(全滅)してしまったりすると消滅する。仮に99%のダメージを与えて弱らせたのが自分達だとしても、その後で攻撃を仕掛け(FA)、倒したプレイヤー(パーティ)が正当な討伐者となる。

 これらは公式サイトFAQの”マナー違反かどうかについての質問”の回答で、

「逃走しておいて優先権を主張するのもおかしいし、ゲームだから復活できるものの、本来死亡、全滅すればそこで終わりなのだから、敗北した以上とやかく言う権利は無い」と断言され保証され、この件で執拗しつように粘着して、難癖を付けていたプレイヤーは何人かBAN(アカウント剥奪)されている。



「ご主人さま~はいるまえ、はなしてたのなに~?」

「あ~、まぁ”ラプンツェル”だな」

「らぷんつぇる~?」

「ユウコさんは青銅の長剣より、1ランク上の鉄の長剣が欲しいだろうから」

「てつのちょうけん みつけた」

「そうソレだ、それを先に渡すから、不確定な未来を下さいって言ったわけだ」

「ふかくていなみらい?」

「まぁ俺の場合は婆さんと違って、文字通りの運だめしだ「6」番の運勢はどうかな」

「ばぁさん?ろくばん??」

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