表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/98

011 辻ヒール <04/02(火)20:18>

 はじまりの街[スパデズ]西口の門から出て、そのまま道なりにずんずん進んでいくと、このはじまりの街[スパデズ]のある半島を抜けて、そのまま大陸へつながっている。

半島と大陸の境には崖があり、その間の20mほどの幅の橋道を通るのだが、そこを渡り終えると[スパデズ]周辺とはモンスターの分布が変化し、より手強いモンスターが生息する 出会いの街[ヘアルツ]へと続いている。

街道を外れなければ滅多に襲われないため低LVの内に護衛を頼んだり、強行突破してさっさと出会いの街[ヘアルツ]へ向かう者も居る。


 そんな旅立ちの場でもある はじまりの街[スパデズ]西口付近には、伯爵はくしゃくレグホンLV3 が主に闊歩かっぽしている。伯爵レグホンとは、オスがかなり立派なトサカを持つため伯爵と呼ばれる白いニワトリである。

非アクティブモンスターであるため、襲いかかっては来ないのだが、南口のバルーンラビット、東口のシマブタ等に比べると、鋭いクチバシと爪を持つのでやや危険。

 しかししょせんニワトリなので、バルーンラビット、シマブタ同様、イルカモネ山猫の獲物である。ただ残念ながら本体、通常ドロップ=伯爵ササミ、レアドロップ=伯爵ウィング・・・と、全て美味しく頂かれてしまうので、バルーンラビットの様に皮が落ちていたりはしない。

一応、極稀に”伯爵”をドロップするのだが、取り引き価格は1,000G程度と激レアなのにあまり嬉しくない。上級者等が試し切り中にドロップすると、そのままドブ川に捨てる事もあるとかないとか・・・



「ご主人さま~、どうするの~?」

ミケネコが前方を見ながらたずねてきた。辺りもずいぶん薄暗くなって視界が悪くなった中、その前方からは戦闘中BGMが聞こえてきて、戦っているプレイヤーとモンスターの影が見える。

頭上には LV3 ヒビキ みならい戦士 と表示されていて、その下にHP/MPのバーが表示されている。まぁこの”みならい戦士”というのは俺のように偽装している可能性があるが・・名前は白色だ。ちなみにLVと名前は偽装出来ない。LVは表示/非表示が可能。ただおそらく先ほどまでの俺同様に初期状態だろう。


 相手は伯爵レグホンLV3、同じLV3同士だから調度良い相手に思えるが、人数、装備や職、戦闘慣れ、相性等でその都度変わるので、自分のLVとモンスターのLVをあまり過信してはいけない。


「ご主人さま~、よくなさそうだよ」

見ていると回復アイテムよりも受けるダメージの方が多いようだ。ジリ貧になりつつある。

「治癒魔法[ヒーリング]」

再びHPが半分をきったので、範囲ギリギリから1度だけ治癒魔法をかけてあげて様子を見る。こういった行為を”つじヒール”というが、TJOでは必ずしも歓迎されるわけでは無いので相手の意思を確認する。


「ありがとう」


 「………」どうやら歓迎〔※1〕の様なので、HPが減少する度に治癒魔法[ヒーリング]で癒してあげた。合わせて3回目の治癒の後で、無事に伯爵レグホンを討伐できたようだ。戦闘中BGMが聞こえなくなる。

「よし、南に向かおう」

「は~い」

無事倒せたならもう用は無い、引き続き宝箱を探しながら南へ向かう。



「ご主人さま~、またいるよ~」

ミケネコが前方を見ながら報告してきた。ちなみに先ほど設定したプレイヤー名表示や、HP/MPのバーの表示はサポートペットであるミケネコにも適用されている。プレイヤーとペットの見ている物が違っていては、会話や意思疎通に齟齬そごが生じるためだ。

相手は同じく伯爵レグホンLV3でかなり苦戦しているようだ。

LV2 カワジ みならい戦士 先ほどのプレイヤーとLVも職業も似た様なものなのだが、名前がかなり黄色い。


「・・・行こう」

「かいふくは~?」

「いい」

「は~い」

引き続き宝箱を探しながら南へ向かう。周囲には伯爵レグホンLV3が少なくなり、バルーンラビットLV1が目立つ様になってきた。この辺りはもう南口周辺と言ってもいいだろう。


 「………」TJOには善行悪行値ぜんこうあくぎょうちという要素がある、

良い事をするとプラスされ、元は白いネームが少しずつ青色になっていく、青ネーム、ブルーネームと呼ばれる。

悪い事をするとマイナスされ、元は白いネームが少しずつ黄色になっていく、黄ネーム、イエローネームと呼ばれる。

さらに悪事を続ける、またはプレイヤーを殺害するPKプレイヤーキラーをすると一発で赤色になる。赤ネーム、レッドネームと呼ばれる。

白色を基準として青に傾くと様々な恩恵があり、黄色、赤色に傾くと相応のペナルティが課せられる。特に赤色は強制的に”賞金首”という職業に転職させられて、悪事に応じて賞金が設定され、あらゆるプレイヤーから逮捕、処刑される状態になる。

 先ほどの2人目のプレイヤーは、低LVでありながら、すでに名前がかなり黄色だったので、よほどの悪人であろうという事が想像できる。

そしてゲーム時代からの経験上、この濃い黄色ネームプレイヤーを治癒してあげても「余計な事するな」だの「俺で経験値稼ぎするな」だの、難癖を付けられる事が多かったので、初犯程度の極薄い黄色以上の悪人には関わらない事にしている。


「今後も名前が赤いのと、黄色いのには関わらないでいくぞ」

「は~い」

なるべく草原の端の方を通り、街を大きくまわりながら宝箱を探す。しかし南の草原は暗くなってきても見晴らしがいいので、見過ごされた宝箱というのは期待薄の様だ。視界の右下の方へ意識を向けると<04/02(火)21:07>と表示されている。辻ヒールとかしていた割に時間は経ってない。


「ご主人さま~、しろいひとだよ~」

ミケネコが前方を見ながら報告してきた。見晴らしがいいので暗くなってきても人影がよくわかる。LVは1 みならい魔法使い、で相手はバルーンラビットLV1・・・だがあまり慣れていないのか戦闘がぎこちないうえ、魔法使いで防御力が無いので旗色が悪い。


「治癒魔法[ヒーリング]」

HPがとっくに半分をきっていたので範囲ギリギリから1度だけ治癒魔法をかけてあげて様子を見る。

 「………」反応が無い、戦闘で手一杯なのだろう。ローカルルール〔※1〕すら知らない本当の初心者の可能性が高い。その内に”治癒魔法をかけると経験値が入るから善意だけじゃない”と知って複雑に思うかもしれないが、白色ネームの人を見捨てるのも後味が悪いので、その後もHPが少なくなるたびに治癒魔法[ヒーリング]で回復してあげた。


「よし、東に向かおう」

「は~い」

無事にバルーンラビットを倒せたのを確認し、なるべく草原の端の方を大きくまわりながら宝箱を探す。すると・・・黒い文字のプレイヤーネームが見つかった。


「ご主人さま~、くろいよ?」

「あぁ」

 「………」TJOには先ほど言ったようにネームカラーがある。簡単に列挙すると、

青ネーム、ブルーネーム、(聖人)善良プレイヤー、様々な恩恵がある。色に濃淡がある。

白ネーム、ホワイトネーム(一般人)一般プレイヤー、全プレイヤーが最初はこれ。俺もこれ。

黄ネーム、イエローネーム(軽犯罪者)軽犯罪プレイヤー、前科者プレイヤー、様々なペナルティがある。色に濃淡がある。

赤ネーム、レッドネーム(指名手配)重犯罪プレイヤー、賞金首、様々な重いペナルティがある。

黒ネーム、ブラックネーム(死亡跡)プレイヤーが死亡した跡、殺人事件とかの白いチョークで書いた人型みたいなモノ。

緑ネーム、グリーンネーム(GM)ゲームマスター、運営側の人。


・・・となっており、一目で相手がどういう者なのか?が、おおよそ判断出来るようになっている。

そしてこの黒ネーム状態である内は、激レアアイテムである”蘇生アイテム”を使用すれば蘇生できるが、かなり終盤のボスドロップなので、序盤のこの時点で持っている者など皆無であろう。ちなみにゲーム時代は、最低でも100万G、1M、つまり1,000,000Gである。そのためよほどメンバーの欠落が痛いボス戦等以外で使用される事はまず無い。

つまり目の前の彼が蘇生される可能性はゼロである。さて


「ご主人さま?」

「あぁ、これも一種の宝箱なんだ」

「これが たからばこ~?」

黒ネームに近付くと名前の下に”小さな袋”が置いてある。デスペナルティだ。


TJOでは死亡時にはデスペナルティ(死んだ罰則)として以下の罰則がある。

赤ネームだと所持金の1/10を落とすうえ、LVが1ダウンする

黄ネームだと所持金の1/10を落とす

白ネームだと所持金の1/100を落とす

青ネームだと所持金の1/1000を落とす

※これらは死体から”遺産”として入手する事が可能で、遺産を入手する事への罰則は無いと明記されている(突発的な宝箱みたいな扱いらしい)


小さな袋を見つめてみると

《名:ユータロー の遺産 所有者:なし 〈最期〉シマブタLV2と戦って敗れる》


やはり”所有者:なし”でシステムは変わってないようだ、ありがたく遺産を頂戴する。

袋の中には・・・320Gだ。

白ネームだったとすると32,000Gも持ち歩いていた事になる。

すると、赤か黄だった可能性が高いだろう、3,200Gくらいなら持ち歩いていても不思議は無い。根拠は単純だ、32,000Gもあれば はじまりの街[スパデズ]の武器にしろ防具にしろ、最高級装備が買えるほどだからだ。こんなところでシマブタLV2にやられながら、無意味に現金で32,000Gも持ち歩く意味がわからない。


「この黒いのも、見つけると「しあわせになる」からな」

「くろいのも いっぱいみつけて、いっぱい しあわせになる!」

チャチャチャーン♪、ミケネコのテンションがまた上がった。尻尾もうねうねウェーブしている。


 さて中には「死人の目の前で遺産を取得するのに躊躇ちゅうちょしないのか?」と思う方も居るかもしれないが、この黒ネームの間は実はデスペナルティなのだ。

この間死亡した本人は、パイプオルガンの様な音楽の中で、三途の川っぽい風景や、お花畑の様な風景や、地獄の様な風景を見せられているのである。

そして察しの良い方はおわかりかと思うが、その見せられる時間も善行悪行値によるネームカラーによって変わるのだ。青ネームだと2分、白ネームだと5分、黄ネームだと10分、赤ネームだと15分である。

 このペナルティタイムが終了すると、最期に接触したクリスタル前で復活し、こちらの黒ネームは消える。そして復活した本人が急いでこの遺産を回収に来る・・・当然ネームカラーが良いほど早く復活出来、本人が回収出来る可能性が高い。

逆に言うと黒ネームの間だからこそ、何の気兼ねも無く遺産を頂戴できるのだ。黒ネームが消えて遺産だけが落ちているとイコール本人は復活済みである。いつ本人が回収に来るかわからない。

 ちなみにゲーム時代の話であるが、ログアウトをしても次回きっちり続きからデスペナルティ映像を見せられた。ついでに言えば本人がログアウト中も、黒ネームのままゲーム上に残っているので遺産の回収は絶望的となる。蘇生されるか消化し終わるまで復活は出来ない、俺は当時白ネームだったので、この間トイレに行ったりしていた。



 「………」それにしても、この世界では生き返れるのだろうか。視界の右下の方へ意識を向けると<04/02(火)21:56>と表示されている。そう早くも無い・・・か。


「ご主人さま?」

突然難しい顔をして考え込んだ俺を、ミケネコが不安そうに見上げている。

「少し早いが予定を変更してすぐに帰る、宝箱はざっと探すだけでいい」

「かえるの~?」

「あぁ、少し急ぐ」

遺産を巾着にしまうと東口へ向けて早足で移動を開始した。

LV:1(非公開)

職業:みならい僧侶(偽装公開)(みならい僧侶)

サポートペット:ミケネコ/三毛猫型(雌)

所持金:1,520G

武器:なし

防具:布の服

所持品:4/50 初心者用道具セット(小)、干し肉×9、バリ好きー(お得用)85%、鉄の長剣



〔※1〕TJOでは戦闘ではなく様々な行為、行動によって経験値が得られるため、必ずしも回復は善意のボランティアとは限らないのだが、それでもTJOでは慢性的な僧侶不足のため大抵は喜ばれる。

(僧侶が余っていれば、味方僧侶の経験値稼ぎの邪魔になりかねないが、僧侶不足のため相手の思惑はどうあれ回復してもらう=単に回復アイテムが浮いて助かり、また回復を行う必要が無くなれば、攻撃だけに専念できるので大幅に戦闘が楽になるからである)


 また暗黙のルール(ローカルルール)として定型チャットでその意思を伝えるというモノがある。キーボードのF9~F12にはそれぞれ、F9「ありがとう」F10「結構です」F11「はい」F12「いいえ」と割り当てられており、戦闘中でも1タッチで即座に会話(意思の伝達)が出来るようになっている。

 回復されてありがたいなら F9「ありがとう」、迷惑であればF10「結構です」を押せばよい。ちなみにこれらはPCの地域設定に対応しており、相手が英語を選択していると相手側で F9「Thank you」F10「No thank you」F11「Yes」F12「No」等と自動的に変換されて表示されている。



「ご主人さま~、とつぜん さぶたいとるのうしろにすうじが~」

「あぁ、前回から日時表示ONにしたから、らしいぞ。大体何日の何時頃の話なのか、一目でわかりやすいかな?とか思ったらしい」

「さぶたいとるがいいかげんだよ~」

「あぁ、最初に予定した展開でタイトル付けて、展開に迷ったらサイコロ振って決めてるらしいぞ」

「さいころ~?」

「そもそも、北の森でイルカモネ山猫と戦闘するはずだったらしい」

「いないかもやまねこ~」

「あれだけ居るかもね?連呼して居なかったな」

「あえてたいとるしゅうせいしないゆうき?」

「・・・ノーコメント」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ