86話 暑くなってきました。
最近、徐々に気温が上がってる気がする。
緯度は結構南だったんだっけ、この島。太陽も高くなってる。夏の到来か。
夏野菜の美味しい季節でもある。
茄子に胡瓜を冷やし、冷やしうどんに乗せて冷製スープでいただく。
ああ、醤油が欲しい。
「美味いねぇ」
最近、毎日晩飯をたかりに来る女性陣。
風呂上がりの冷たい牛乳も欠かさない。
「お前ら、ちょっとだらけ過ぎじゃないか?」
美人ぞろいとは言え、8人も集まってだらけた姿を見せられたのでは、鶏小屋のようにしか見えないな。まあ、もともと兎小屋程度の家ではあるが。
「暑いのですから、仕方ありませんわ」
「訓練をサボってばかりのだんなには言われたくないよ」
たまには出てるだろ。ほんのたまに、だけど。
それに……。
「ちゃんと訓練の成果も出てるんだし、いいだろ」
結構、ついていけるようになっているのだ。
「普通は、あれだけサボったら戻っちまうもんだけどねえ」
まあ、筋肉は使わないと衰えるからな。
……多分、これも神通力なのだと思う。
不老永命。
老いることなく永遠の命を得る。
つまり、衰えることが無いわけだ。
鍛えた分、体は強くなり衰えない。
なんか、そのうち筋肉ムキムキになってしまいそうだ。
筋肉は多い分、お腹が減るのでご遠慮したい。
だからいいんだよ、サボるくらいで。
「ここは、涼しくて快適ですから」
まあ、家ごと大地変容の温度変化で冷やしてるからな。
食べ物や飲み物も、冷蔵庫で冷やしている。これも石で作った箱をさらに低い温度にしたものだ。
ずっと家に居ないと維持できないが、俺としても最近は昼間に外出したいと思わない。
「街の方はそんなに暑いのか?」
『そりゃあもう』
全員で口を揃えるほどか。
「ファーレンにいたときは、どうだったんだ?」
「あっちは、湖で涼めるんだよ。王国有数の避暑地だぜ」
ああ、なるほど。
「でも、冷蔵の魔道具とか、あるんじゃなかったっけ?」
「王都にはあるけどよ。領主の館にもない貴重品を、あたしらだけで使うわけにもいかねぇだろ」
「ここで涼むのは良いのか?」
「ここはヨシツグの家だもの」
理性と欲望と道理に義理が絡み合った結果がこれか。
しかし、一日中居座られるのもウザイ。
俺の心地好い昼寝タイムが台無しだ。
「要は、暑さがマシになれば良いんだろ?」
本来、こいつらも生真面目な連中のはずだしな。




