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正しい土魔法の使い方 ~理系おじさんの異世界生活~  作者: 麻鬼


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84話 図書館塔の密会

こうして、本の製作と販売は、バードマウントの産業として定着した。

当初の予定通り、街では大銅貨一枚で販売されている。

あまりに安いと転売される、という話も出なかったわけではないが、在庫がいくらでも量産できる、と一度示せば、街中での転売は無くなった。

わざわざ高く買わなくても、本店で買えるわけだからね。

人型ロボットのプラモデルのように、数量制限は無いのだ。

商人が他の街へ持っていって売るのは、まあ仕方がない。そこに輸送費が上乗せされるのも、商売として当然ではあるだろう。


作った本は、マッターホルン領内に保管場所を作りたいな、と思っている。

図書館として、塔を建てるのだ。

円形の塔で、壁一面が本棚となっていて、階段で上へ上へと登ってゆく。

何万冊もの蔵書が可能なのである。

世界中の本を集めてやるぜ。

今はまだ、入り口近くに数冊置いてあるだけなのだけれどもね。


一冊手に入れさえすれば収納コピーで保管用を確保できるので、本棚に並べるのは観賞用のコピー品。

そして、バードマウントの洞窟前公民館にも書棚を置いた部屋を作り、誰でも利用できる図書室になっている。ここに置いてあるのが布教用のコピー品。

というか、本の販売もここでやっている。


「今日もかなり売れましたので、在庫の補充をお願いしますね」


販売及び図書室の管理をしてくれるのがエヴァンゼリンさんだった。

図書館塔のほうも、いつの間にか掃除とかしてくれている。

メイドさんから司書さんにジョブチェンジだな。


そんな、図書館であるが、大量の紙とインクもコピーして常備している。

開拓民チームの皆はそれぞれに仕事を持ち、忙しいのだ。

エヴァンゼリンさんは前述したとおり、図書館と公民館の管理を。それに加えて、バードマウントの領地経営も手伝っているらしい。

アナスタシアさんは農作業全般について調査研究をしており、その記録に紙が必要。

クラウディアさんとマーミャさんは関係各所との連絡、調査に飛び回っており、こちらでも紙はよく使う。

そんなわけで、自由に使ってもらっている。

そうすることで、紙はいくらでも消耗品として気軽に使って良いもの、という意識を持ってもらうのだ。

実際はまだそこそこ高価である。国内流通的には。

バードマウントだけで通用する価値観だな、今のところは。


なぜそんなことをするのか、と言われれば、俺の方にも思惑というものがある。種を蒔いたのだ。


図書館塔にこっそり作った隠し部屋に潜んだ俺は、今、中の様子を覗き見している。

定期的に集まっている、開拓民チームの会合が開かれているのである。

机の上には紙の束が4つ。


「では、本日の会合を開きます」


エヴァンゼリンさんが代表して話し始める。


「それぞれの成果報告を」


「じゃあ、オラから行くべ」


アナスタシアさんが、紙束のひとつをエヴァンゼリンさんに渡す。

一人づつそれを読み進める時間が過ぎる。


「スゴいっス。よく、ここまで深く踏み込めたものっス」


普段よりも随分くだけた口調で話すのはマーミャさん。


「やっぱり、特殊なスキルが関係してこその話と思うわさ」


「私も重要な要点として、それは中心にくると考えております」


クラウディアさん、エヴァンゼリンさんも続く。

ほうほう、特殊なスキルと来ましたか。


「あちしの方も、見て欲しいわさ」


別の紙束を回し読みする。


「これは、他国を回ったときの話ですのね」


「だわさ、だわさ」


「それについては、あたしの方も見比べて欲しいっス」


「……視点を変えるのも、興味深いわさ」


「どっちも、なかなかだと思うべ」


そんな会話で、夜は更けていった。


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