83話 伝説の作家
「全く、真面目すぎは何時までも治らんの」
と、ワインを壺ごとラッパ飲みするのはいつの間にか風呂に入っていたニーナ。
「ニンゼルクナルガ様っ!」
あれ、知り合い?
「ほう、酒を温めて飲むのか。味がまるで違うではないか。何故今まで出さなかった」
まあ、日本酒じゃないからね。日本酒なら甘い菓子に合わせても美味いけど。
人によるか。
「……貴様、米から酒が作れると何故言わぬ」
「いや、あれって難しいんだって」
作り方を解説した漫画なら読んだことはあるけど、細かいところまで覚えてない。
あ、テレパシーなら判るのかな?
「ふん。そう言うことであれば、妾も協力するに吝かでは無いぞよ」
いや、まあ、それはそれでいいんだけど。
「んー、要するに、領主様と取引したドラゴンの知り合いってのがニーナってこと?」
「しかり」
こういう時だけ胸を張って威厳を出そうとするな、このひと。全身タイツに見える薄い胸だが。
しかし、知り合いだったのか。ドラゴンスレイヤーと鉢合わせしたら不味いかな、とちょっとだけ思ってたけど、杞憂だったな。
「じゃがのう、元々はこちらの都合であるし、妾が助けたのも、何かの拍子に大怪我でもせぬ様に守りを入れたのみじゃ。若竜とはいえ、あれを打ち倒したのは、その男の力じゃぞ」
ふむ、ドラゴンスレイヤーではないけど、ドラゴンリペラーではある、と。
……あんまり格好良くないな。スプレーとか売ってそうだ。
「なら、別に、面白おかしく脚色しちゃっても、何の問題も無いんじゃないかな?」
漫画とかそんなものだし。
「ほう、漫画とな。そのような娯楽があるのか」
あらら、こっちはこっちで興味持っちゃったか。
「いえ、それでは結局、嘘を重ねる事になってしまいます」
誰も文句言わないと思うんだけどな。
なるほど、真面目すぎだ。
でも、大丈夫だよ。俺を誰だと思っている。本については世界随一の国、日本の出身者だぞ。
そんなものは問題ですらない。
「ならばその話、妾に任せるが良い」
ん? お酒の話? 本の話?
その後、新しい本を皆にお披露目した。
題して、ドラゴンスレイヤー伝説。
作者による絵と文章で綴られた本は、子供向けの絵本だけでなく、大人でも読みごたえのある漫画本を含めた二冊。
文章部分はエヴァンゼリンさんに清書してもらう。
こうして、後の世に竜奇譚シリーズとして知られる作品が生まれることとなったのである。
この本の作者が、本物のドラゴンであることを知るものは少ない。
どうも、俺の記憶を読むことで漫画の知識を取り入れたらしい。なんとなく見覚えのあるシーンも散見される。
ドラゴンのテレパシー能力、恐るべし。便利だけど。
ニーナの作った冒険活劇は大人気シリーズとなるが、さすがのドラスレ君もドラゴンを相手に文句を付けることは出来なかったようだ。
娘も息子も喜んでるんだから、それでいいだろ?
俺は、その物語に一文だけ書き加えている。
"この物語はフィクションであり、実在する人物、団体とは一切関係ありません。"、と。




