81話 文明開化です。
何ということはないのだ。紙が収納可能なのは確認済みで、インクも炭や鉱物ベースものなら多分収納できる。つまり、収納コピーが出来るってことだ。
無料で大量生産し放題。
なのだけれど、それを永遠に仕事にしてしまうのはちょっとな。
それに、俺は他人が書いた作品を読みたいのであって、自分で書きたいわけではない。
作家を育てなくてはならないのだ。
そして、作家が育つには、それが仕事として成り立っていなくてはならない。
そのためには識字率の向上は必要不可欠。
その上で、紙を安価に大量生産。印刷、製本も工業的に。
俺の力はその後押しとして、こっそり使う程度であるべき。
まあ、産業として軌道に乗るまでの底上げをするだけで、違うと思う。
漫画までたどり着くのは何時になることだろう。
でもまあ、始めなくては話にもならない。
ほおっておいても、いずれはそんな世の中になるかもしれないが、それを加速させることには意味があるはずだ。
「と、いうわけで、早速作ってみた」
机の上に冊子が20冊。
中身はドラスレ君から借りた文字教本を書き写したもの。
奥さんの手作りらしいので、複製して売る許可をお願いしたところ、快く許してもらえた。
領地経営の一助となるなら、と。
良妻賢母、内助の功だなぁ。
ドラスレ君はもっと辛い目に遭っても良いと思う。
手本となる本は羊皮紙に書かれたものだったので、紙とインクで書き直し、米から作った糊で製本。厚めの紙で挟んで、表紙としてこれも糊付けしている。
羊皮紙は皮扱いなのか、そのままでは収納コピーできなかった。石化収納コピーなら出来ると思うけど、こっちを大っぴらにやるわけにも行かない。
4人娘に、開拓民チーム、領主夫婦に集まってもらい、披露したわけだ、が。
「字が汚いですわね」
ぐはぁ。
「で、でも、全く同じ様に書くという技術は、すごく難しかったと思いますよ、……きっと」
「内容は、いいと思うよ。内容は」
「綺麗に書き直せるなら、売れそうね」
まあ、お前らに遠慮とか求めてないし、忌憚の無い意見は貴重だな。うん。……ちくしょう。
字の綺麗な人に清書して貰えばいいんだろ。解ったよ。
で、それを改めて収納コピーすれば良いわけだ。
「あの……」
小さく手を上げたのは、エヴァンゼリンさん。
開拓民チームのメイド担当だ。
「一冊あれば、同じものがたくさん作れる、と言うことでしょうか?」
「そうだ。土魔法の応用だ」
と、言うことにしておこう。
あまり、何でも出来ます、というのはやりたくないが、この事業にはそれをするだけの価値がある。
「いずれは、魔法を使わなくても、誰にでも作ることが出来るようになると思う」
有用性を示し、商売として成り立つという前例さえあれば、初期投資や開発も進むと思うのだ。
いずれ、印刷機が作られることになるのは、判っていることだしな。
なにより、創作活動というものを、文化として浸透させるのには時間もかかることだろう。早いに越したことはない。
漫画なんか読んだら馬鹿になる、なんて言われる時代はさっさとショートカットしたいのだ。
「……私に、その仕事、やらせては頂けないでしょうか?」
へぇ、積極的に発言するのって珍しいね。いつもは4人娘に遠慮してる感じがあったけど。
とても、良いことだと思います。




