76話 甘くて甘いアンコどうぞ。
「あの、ニーナ様?」
「ぬ? ニーナで良いぞ。人族風の敬称など不要じゃ」
小さく手を上げて慎重に会話を試みるアイリスだが、ニーナの方はサバサバしたものだ。
「では、ニーナ。昨日来たお客様というのは……」
「妾じゃな。引っ越してきたようなので、土産を持ってきた」
ああ、うん。豆だね。引っ越し豆。
とりあえず箱を作って入れてある。石化させちゃうと芽が出なくなるか未検証だから、収納はしていない。
分類はまた時間のあるときにするつもりだ。
と、思ってたのだが、アイリスが豆の分類を始めたようなので、小分け用に容器を作って置いておく。
「妾の持ってきた豆で作った菓子であろう。早速頂くとするかの」
まあ、断る理由も実力もないので、出来たばかりの鳥型小豆入りわらび餅を差し出す。
ニーナは菓子楊子できちんと切り分けて、案外上品に口に入れた。
「ふむ、旨い。仄かな甘味に柔らかな口当たり。透き通るような見た目も珍しい。スライムより旨い」
「スライムと比べないでくれ」
ヘイズジェルとはまた違うのかな?
いや、そういう観点も必要なのか。この世界の人が食べるなら、そういう発想で食わず嫌いとかいるかもしれない。
「じゃが、甘味の強さも欲しいところじゃな」
というので、一口サイズのトーストを焼いて、また餡子を乗せたものを出す。
5人で食べると一瞬で無くなる。追加ですね、はいはい。
まあ、和菓子を食べるなら、やはり緑茶が欲しいところだ。あんパンなら牛乳で良いけど。
「ほう、この菓子に合った茶があるのじゃな」
ニーナの一言に4人娘も動きを止める。
怖ええよ。
「何処かにはあるかもしれないが、俺は知らないよ、まだ」
そういうのはむしろ、上流階級のお嬢様方のほうが詳しいのではないか? なあ、お前ら。
「ふむ、見た目は判った。また探してみようぞ」
え、俺チャノキの見た目なんて、そんな正確に覚えてないぞ? 何処かで写真でも見たことくらいはあるかもしれないけど。
すげえな、テレパシー。
「最初の菓子の材料は芋か。要は植物の根や茎が地中で膨らんだもの、じゃな。よしよし、探させよう」
今さらっと、探させる、に表現が変わったな。
まあ、同じデンプンでも、葛で作れば風味も変わる。俺は片栗粉よりも葛粉で作るほうが好きだな。
甘味を強くするなら羊羮だが、あれは寒天だから海草か。
「ではまたの」
ニーナは山に帰っていった。
近くて近いご近所さんだ。




