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正しい土魔法の使い方 ~理系おじさんの異世界生活~  作者: 麻鬼


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73話 夢色職人

「うーん、食べた記憶はあるんだけど、流石に作ったことはないなあ」


何の話かと言われれば、ヒヨコ饅頭の話だ。

いや、別に鳥の形をしていれば何でもいいわけで、特定の地方の銘菓を模倣する必要はもちろん無いのだけれど、なんか気になった。

単に自分が食べたいだけか。


「餡が中に入っていて、表面が薄い皮だよな。栗饅頭もそんな感じだっけ。形が違うだけ?」


そんなわけで、自宅の温泉に浸かりながら、なんとか思い出そうとしている所だ。

まあ、形が違うだけで名前が変わるなんて、お菓子には良くある話だ。和菓子なんて餡でいろんな形を作っては年中違う名前で売っている。


「餡子か。豆と砂糖でとりあえずは作れるけど、豆の種類にもよるんじゃないかなぁ」


すぐに思い浮かぶのは小豆だ。他にもエンドウ豆にインゲン豆。この辺は色の違いだな。

レンズ豆やひよこ豆でも餡は作れるのだろうか?

ひよこ豆で作ったら、ひよこ饅頭になる?

流石にコーヒー豆で餡は出来ない気がする。


「ベストタイミングじゃな」


いつの間にか湯船のなかには黒髪に全身黒タイツの美女がいた。




「なかなか趣のある棲み家じゃの。風呂があるのが気に入った」


まあ、我が家の一押しポイントですね。次点がトイレ。

自室は、ど真ん中に鎮座するベッドがすべて。部屋から出ない生活どころか、ベッドで一日中過ごすための部屋作りだ。

居間に置いてある丸い卓袱台も拘り点と言えないこともない。いつも4人でやってくる客がいるので、四角いテーブルだと俺の居場所が無くなるんだ。

それと比べると、炊事洗濯はあまり拘ってるとは言いがたい。水場があるだけだ。

まあ、ちゃんとバルブのついた蛇口になっているところが拘りと言えなくもない。

ゴムがなくてパッキンは木製なので、使ってないときにも水がちょっと零れてるけど。

冬に凍結しても配管が割れずにすむと思えばいいか。どうせどれだけ使っても無料だ。


調理に関しては、煮るのも焼くのもアースクリエイトの温度操作でできてしまうのでコンロ要らず。

だけど、一応カモフラージュのために竈を作ってある。ほぼインテリアだ。

冷蔵庫は流石に無い。冷蔵の魔道具があるとか聞いた気がするが、俺には魔道具は使えない。

まあ、これも温度操作で冷やすことは可能だ。一日中冷やし続けるというのは面倒なのでやらないが。


「ならばこそ、次は料理にも拘って見せるのが筋と言うものであろうよ」


おもてなされ大好きなニーナさんが我が家にやって来た。

いつもいきなりだ。まあ、そういう生き物か。

風呂を堪能した後、場所を居間に移す。

お酒とか用意してなかったな、そう言えば。

と、思ったら、台所の棚に見知らぬワインの瓶があった。自分の家にあるものだし、飲んでも良いだろう。


「料理ねえ」


日本人としては、もちろん食べたい料理は山ほどある。

この辺でも肉や野菜はそれなりに流通もしている。

肉に至っては種類も多い。というか、日本で使ってた肉なんて、鶏、牛、豚の三種類だけだしな。

果物の種類はこちらでは少なめ。地域と季節に左右されるんだろう。

でもって、調味料が絶望的に少ない。

カレーのもととか、牛丼のもととか、売ってないものだろうか。


「ベストタイミングじゃと言ったじゃろう。ほれ、土産じゃ」


といって、卓袱台の上にざらざらと並べる。

これは、……種? いや、豆か。


「いろいろ、見つけてきてやったぞよ」


どうやら、あの後本当に食材探しの旅をしていたらしい。

フットワーク軽いな。

豆類ばかりということは、よっぽどココア擬きが気に入ったのか。


「ほれ、急く急く旨いものを作らんか」


まあ、確かにタイムリーな話ではあるなあ。

とはいえ、いろんな種類があってどれが何やら。

同じ種類でも色が違ってたりするしな、豆類って。

とりあえず、小豆っぽいものをつまみ上げる。


「小豆……なのかな?」


確信が持てない。鉱物ならディテクト出来るんだけど。

いやまてよ。


「石化」


手に持った豆を石化させる。そしてアースディテクト。

石化した小豆、と出た。

もちろん、全く同じとは限らないが、神通力による裏付けが得られたのだから、とりあえず信じよう。

しかし、ごちゃ混ぜになった豆から小豆だけを選り分けるのも手間だな。ちゃんと種別に小分けしておいてくれればいいのに、ドラゴンは杜撰だ。


「面倒はお主に任せれば良いのじゃ」


おっと、そう言えば考えてること読まれるんだったっけ。

まあ、いい。石化コピーで増やそう。どっちにしろ数は足りないだろうしな。

特産品にするなら栽培という手段で増やさないといけないわけだけれども。


なお、食べ物の石化コピーだが、最初は忌避感も感じたものだったが、よくよく考えてみると、さほど気にする事ではないのではなかろうか、と割りきった。

塩なんて、化学式で単純に記載できる物体なわけで、それをコピーして口に入れたからといって、何という話でも無いだろう。

セミの幼虫を油で揚げた料理を気持ち悪いと思う人がいても、小エビや小蟹を油で揚げて塩を降っただけのつまみを気持ち悪いとは思わないだろう。同じと思えば気にならなくなる。まあ、そういうことだ。


鍋に貯まるくらいまで小豆をコピーで増やし、水に浸す。

小豆は水を吸わせなくてもいいんだっけ? 煮ながら水を吸わせる感じか。

豆が柔らかくなるまで長時間煮込むことになる。


「なんじゃ、すぐには食べられんのか。それを早よう言わんか」


ニーナはすっくと立ち上がる。

卓袱台に黒のミニスカ、黒タイツはミスマッチだな、なんか。


「明日また来る。準備しておけ」


ニーナは山に帰っていった。

そう言えば、あっちもお隣さんだっけ。


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