72話 父親へのプレゼント
「それで、あの汚い鳥はどうしたんですの?」
エレメアに汚いと呼ばれて、ユキは眉をひそめている。獣人代表としては見た目で判断されるのに思うところがあるのだろうか。
「怪我が治ったら、いつの間にか居なくなってたぞ。まあ、元気になったのなら良かったんじゃないか」
自宅の軒先で箱に布で巣箱を作って様子を見ていた。
水も餌も口にはしていたようで、数日目にはいなくなっていた。
争った跡はないし、どこかの猫が食べてしまったとかでないと信じたい。
「ホロウ鳥の観察に飽きたのは解るけど、だからって別の鳥を拾ってくることも無いだろうにね」
結局、羽の色は戻らなかったので、汚い鳥扱いを受けている訳だ。
あれがホロウ鳥なんだぞ、と言ったら信じてもらえるだろうか?
まあ、剥製の飾りにならないことが判明した時点で意味もないか。
「それで、もう諦めたんですか?」
「ああ、それなんだがな」
ちょっと考えていることがある。領主様に要相談だ。
「それで見せたいものとは?」
ドラスレ君を塀の上に呼び出した。
ホロウ鳥を探して数日をここで過ごしていた場所なので、椅子もテーブルも完備している。
望遠鏡も再び土台に乗せて設置済み。それが6台ほど並んでいる。
「いやな、要は名物になるものがあればいいわけだろ?」
たしかそんな話だった。それこそ、鳥の形のお菓子でも良いのだ。多分。
「だから、誰でもこの場所に来られるようにして、望遠鏡でホロウ鳥を眺められるぞってのを名物にしたらどうだろう? と思ったんだが」
たしか、ホロウ鳥以外にもいろんな鳥がいるという話だし、バードウォッチングが好きな人であれば喜ぶのではないだろうか?
「ただ、眺めるだけ、ですか?」
しかし、ドラスレ君にはピンと来ないらしい。まあ、狩る側の人らしいしな。観察は手段であって、それ自体が目的とはならないか。
だがしかし、俺には秘策があるのだ。
「お父さん、鳥さんキレイっ」
覗いていた望遠鏡から目を離し、こちらに向かって声と笑顔を向けてくる小さな女の子。
先日、はれて家族揃ってバードマウント村へやって来たドラスレ君の娘だ。
弟君は別の望遠鏡にかぶり付いたまま。
使い方を教えるのはアイリスに任せたので、効率良くバードウォッチングが出来ているようだ。
「そうかい。キレイか。よかったなぁ」
娘にデレデレだな。美形のドラゴンスレイヤーが見る影もない。
「名物にはならないかな? それならすぐに撤去するけど……」
「いえ、大丈夫だと思います。このまま使わせてください」
うむ、満足いただけたようで良かったよ。
まあ、子供なんて年中暇をもて余している生き物で、少し変わったオモチャを与えれば熱中するのは予想できた。
すぐ飽きると思うが、それは言わぬが花。
とりあえず、これでミッションコンプリート。
「ただ、これだけでは少し弱いですかね。一緒に、先日お話しいただいた、鳥の形のお菓子も作れませんか?」
……そういうのは料理人と相談してくれないかな?




