68話 幻の鳥
「以前にもお話しましたけど、僕の家名はグランバードと言います。それで、この村の名前はバードマウントとしようかと思っているんです」
まあ、なんか普通だね。
バード繋がりか。
「町や村には名前にあやかった名物があると縁起が良い、と言われてまして。なので、この場合は鳥と言うことになるのですが」
鳥を名物にしたい、と?
「ですが、この村では国王様より試験作物の栽培を行うように賜っております」
ああ、カカオにサトウキビに米だっけ。俺のせいだね、ごめんね。
まあ、エルフさんの協力も取り付けたみたいだし、なんとかなるんじゃないかな。知らんけど。
「そこで、特産品とは違う形で鳥の名物が欲しいのです」
なるほど。
「つまり、ヒヨコ饅頭が作りたい、ということだね」
「……え、マンジュウですか? 思ってたのと違うんですが、それはどんなもので?」
仕方がないな。図を描いて説明しよう。
「……つまり、食べ物ということですか。それは生産予定の作物と関係が?」
あー、どうかなぁ。
カカオと砂糖ならチョコだよな。で、米ということは、出来上がるのはライスチョコ?
麦チョコの方が早いか? 米チョコになるけど。
どっちにしても鳥とは関係なさそう。
そう言えば、とある地方には動物の糞をデザインに取り入れた銘菓もあったはずだが。……止めておいた方が無難だな。
なら、単に鳥の形のチョコレートにするとか?
そのうち鳥派と猫派で争いが起きるかもしれないが。
「いえ、相談したかったのは、食べ物ではなくてですね」
なんだ、なら早くそう言えばいいのに。
「ここはストンフォレストが近いので、鳥の種類も多種多様なんです。その中には幻の鳥と呼ばれるものもいて、その剥製でも飾ることができればいいかなと思っているんです」
「へえ、いいんじゃないか? たしか鳥を捕るのは得意って言ってたよね」
領主自ら捕った珍しい鳥というなら箔にもなるだろう。
「いえ、さすがに僕が簡単に捕れるような鳥では幻とまでは呼ばれません」
えー?
「それじゃ、俺にも無理じゃないかな?」
何でできると勘違いした? いつから?
「その鳥は強い魔獣というわけではないのです。人の手に乗るくらいのサイズしかなく、しかし、外見はとても美しいと言われています」
言われています?
「実は私も見たことはありません。警戒心がとても強く、人が数百メートル内に近づいただけで逃げると言われています。見つけること自体が困難です」
本当にいるの? その生き物。
「頭も賢く、罠に掛かることもありません。生態についても知られておらず、どんな罠が有効かも判りません」
お手上げじゃないかな?
「それでも、ヨシツグさんならできるかもしれない、とシンシア王女が」
あいつらか。




